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【絶対に許さない!】結婚間近の恋人を奪われ、さらに冒険者パーティーから追放、貴族の圧力で街にいられなくなった。お前らの血は何色だ!剣聖ライン=キリトの復讐は始まる!  作者: 山田 バルス
第2章 ライン、テイシアたちを守る剣聖

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第10話 ミリーナ=ヴァイスの恋

「誇りと恋のあいだで」

――ミリーナ=ヴァイス視点


 砦に初夏の風が吹き始めた頃、ミリーナは妙にそわそわしていた。


 理由は分かっている。

 近々、ラインが周辺領の視察に出かけるのだ。

 テイシアは妊娠中で同行できず、エイミーは魔術師団の再編で忙しく、ラービンとユイナも別任務があるという。


 結果、同行者の一人に選ばれたのが――ミリーナだった。


「視察、と言っても、一泊二日程度の短い旅になる。あまり気負わずにいこう」


 出発前、ラインはいつもの調子で言った。


 気負わないで、と彼は言った。だが。


(それが無理な話だということ、あなたには分かっていないのですね……)


 心臓は早鐘のように鳴っている。視察にかこつけた、たった二人の時間。いや、もちろん護衛や従者はついてくるのだが、王城を離れ、自由な時間をともに過ごす機会など、めったにない。


(こんなに緊張するなんて、私らしくもない)


 だが――期待してしまう。この旅で、ほんの少しでも、ラインの隣にいる意味を掴めるかもしれないと。



 視察先は、自由連邦の西端、かつて戦場となった村だった。

 今は再建が進み、住民たちが自らの手で新たな生活を築きつつある。


 ミリーナは、その様子を真剣に見つめていた。

 そして、ふと気づく。ラインが、村人たち一人一人の名前を呼び、話を聞き、肩を叩いて笑っていることに。


 彼は、剣だけの男ではない。人の言葉を受け止め、痛みを覚え、希望を繋げる力がある。


「……すごいですね」


「ん?」


「あなたは、剣で戦うだけじゃない。“王”のように振る舞っている」


 そう告げると、ラインは少し驚いた顔で、そして――苦笑した。


「王には、なれないよ。俺の剣は、人を治めるためじゃなくて、守るためにある。だから……俺は“剣聖”でいたいんだ」


 その言葉に、ミリーナの胸が不思議と熱くなる。

 彼の目指す場所は、玉座ではない。民のそば、仲間の前、戦場の先――。


 その背を支えられるなら、どれほど誇らしいだろう。



 夜。

 視察を終えた一行は、村の集会所に泊まることになった。

 各自が休む中、ミリーナは眠れずに外へ出た。


 星が、空に瞬いていた。


 そのとき、隣に気配がした。振り向くと、やはりラインだった。


「眠れないのか?」


「ええ……少し、頭が冴えてしまって」


「同じだな」


 二人並んで、静かな夜の村を見つめた。


 しばしの沈黙の後、ミリーナは意を決して言った。


「……私、怖いんです」


「何が?」


「このまま、あなたの“誰か”になれずに終わってしまうのではないかと」


 ラインが目を見開いた。


 ミリーナは、視線を外さず続けた。


「私は貴族です。誇り高く、誰にも媚びず生きてきました。でも、あなたのそばにいると、それだけでは足りないと気づいてしまった」


 手が、微かに震える。だが彼女は逃げなかった。


「私は、あなたを――尊敬し、信頼し、……そして、きっと、好きなのだと思います」


 言葉を告げた瞬間、胸の中にずっとあった靄が晴れていくのを感じた。


 ラインは少しだけ黙り、やがて静かに微笑んだ。


「ありがとう、ミリーナ」


 その声に、少しの温もりがあった。

 肯定ではない。だが否定でもなかった。

 彼の中で何かが、動いたのだと、確かに分かった。


「お前のその誇りは、ちゃんと俺にも届いてる。……でも、もっと自然でいてくれていい。鎧を外したお前も、きっと魅力的だ」


「そ、それは……っ!」


 顔が、火照っていた。慌てて横を向くと、ラインは少しだけ照れたように笑っていた。


 その笑顔を見て、ミリーナはふと気づいた。

 自分が本当に欲しかったのは、「妻」の座ではなく、彼にまっすぐ向き合えるこの時間なのだと。


(私は、焦っていたのかもしれないわね)


 隣に立つこと。比肩すること。それも大事。

 でも、それ以上に――彼に想いを伝え、自分を知ってもらうこと。


 そうしていつか、彼が必要とする“特別な一人”になれたら、それが何よりの幸せなのだと。



 帰還の朝、ミリーナは荷馬車に荷物を載せながら、ふとラインに声をかけた。


「ねえ、ライン様」


「なんだ?」


「次の視察にも、私を連れていってください。今度は、もっとあなたの隣で、堂々と歩けるようにしておきますから」


 彼は少し目を見開いたあと、力強くうなずいた。


「ああ。頼りにしてるよ、ミリーナ」


 その一言が、剣よりも強く、彼女の胸に突き刺さった。


(私は、まだ歩き始めたばかり)


 でも、確かに。

 この恋は、少しずつ動き出している。

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