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【絶対に許さない!】結婚間近の恋人を奪われ、さらに冒険者パーティーから追放、貴族の圧力で街にいられなくなった。お前らの血は何色だ!剣聖ライン=キリトの復讐は始まる!  作者: 山田 バルス
第2章 ライン、テイシアたちを守る剣聖

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第6話 嫁テイシアと姑ベアトリスのお茶会

「嫁姑、初のお茶会」

 アールヴェリア自由連邦の春は、やわらかな日差しと花の香りに満ちていた。北の砦の一角、テラス付きの応接間では、紅茶の香りと共に、ささやかな茶会の準備が整っていた。


「ふふ、これで完璧ね!」


 ベアトリス=キリトは、自らの魔道具ポーチから取り出した銀製のティーセットに、軽く魔力を込める。ふわりと立ち上るのは、異世界茶“サリエンの薫り”。転生前の記憶を活かして作った逸品だ。


 そこへ、少し緊張した面持ちのテイシアが姿を現した。


「お待たせしました、ベアトリスさま」


「まぁまぁ、そんなかしこまらなくていいのよ、テイシアちゃん。今日からは家族なんだから」


 ぱちんと手を打ち、ベアトリスは椅子を指し示す。


「さあ、座って。妊婦さんは冷えるといけないから、クッションを二重にしてあるの。ほら、これ、獣毛混じりの高級品なのよ」


「え、ええ……ありがとうございます」


 恐縮しながら座るテイシアを、ベアトリスは慈しむような眼差しで見つめた。


「お腹は、どう? つわりは? 夜は眠れてる?」


「はい、少し吐き気はありますが、皆が助けてくれるので……」


「それはよかったわ。でもね、無理は禁物よ。わたし、昔妊娠した時は――って、あら、あの頃はまだ魔導書と睨めっこしてた頃かしら。胎教にと、古代言語の詩を読み聞かせてたわ」


「……ラインに?」


「ええ。おかげで、あの子、3歳で《無詠唱初級魔法》を唱えたのよ。いま思えば天才よね」


(……いえ、妊娠期に古代詩の読み聞かせって)


 内心突っ込みたくなるテイシアだが、微笑を絶やさずにお茶を口に運ぶ。


「……おいしい。香りが、すごく華やかです」


「でしょう? 転生前の世界のレシピをベースに、魔法で香りを引き出したの。テイシアちゃん、味覚が冴えてるわね。さすが我が嫁!」


「え……そんな、恐れ多いです……!」


 テイシアの頬がわずかに紅く染まる。その様子を見て、ベアトリスは微笑を深めた。


「でも本当に、ラインがいい子と巡り合えて安心したわ。あの子、小さい頃から寂しがり屋でね。わたしとカールが政務で出払っていることが多くて……」


 ティーカップを持つ手が、少しだけ震える。


「本当は、もっと一緒にいてあげたかったの。でも、あの子、自分で『家を出る』って言った時は、正直、寂しさと誇らしさとで泣いちゃったわ」


「……ラインは、わたしを何度も守ってくれました。今の平和は、彼のおかげです」


「……そうね。あの子が選んだ道を、わたしも誇りに思うわ」


 ふたりは静かにティーカップを置き、春風に揺れる花々を眺めた。


 やがて、ベアトリスは懐から小さな宝石付きの指輪を取り出す。中心に、青白い光を灯す魔石がはめ込まれている。


「そうそう、これ。贈り物よ」


「え……これは?」


「通信魔道具。《インスタント・リンク》って名前なの。わたしの指輪とつながってて、指で三回叩くと直接話せるわ。困ったことがあったら、すぐに知らせてね」


「魔道具……自作ですか?」


「もちろん。わたし、魔道具師としては“世界五本の指に入る”って言われてるのよ。転生者ですもの」


 さらりとすごいことを言いながら、ベアトリスは指輪をテイシアの左手にはめた。


「ありがとう……ございます。心強いです」


「ふふ、姑として当然の務めよ。お嫁さんの不安は、ぜーんぶ取り除いてあげたいの。だって――」


 ベアトリスはにこりと笑った。


「あなたはもう、“私の娘”なんだから」


 その言葉に、テイシアの目が潤む。


「……はい。よろしくお願いします、お義母さま」


「まぁっ、“お義母さま”ですって……!」


 うっとりと目を細めたベアトリスは、感動のあまり抱きつきそうな勢いだったが、思いとどまって優雅にお茶をすする。


 ふと、その様子を廊下から覗いていた者がいた。


「……あの二人、予想以上に仲良くなってんな」


 ライン=キリトは、頭をかきながらぼそりと呟いた。彼の横では、祖父カールが鼻で笑っていた。


「女は強いものよ。わしもお前の祖母にはよう頭が上がらんかった。……あれ、似てるのぉ」


「……オレの未来、波乱しかない気がする」


 だが――それも、悪くはない。そう思えるだけの幸福が、そこにあった。


 こうして、自由連邦にまた一つ、新たな絆が芽生えた。


 それは、戦いでは得られなかった“家族”という名の宝物。


 テイシアとベアトリスのお茶会は、笑顔と紅茶の香りに包まれて、穏やかに幕を閉じるのだった。

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