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【絶対に許さない!】結婚間近の恋人を奪われ、さらに冒険者パーティーから追放、貴族の圧力で街にいられなくなった。お前らの血は何色だ!剣聖ライン=キリトの復讐は始まる!  作者: 山田 バルス
第2章 ライン、テイシアたちを守る剣聖

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第1話 ライン、カール=キリトとの稽古

剣聖の血脈 —修行の章—

 砦の中庭は朝露に濡れ、澄んだ空気が肌を冷やす。だが、そんな静けさを破るように、一本の鋼が風を斬った。


 カシュッ――。


 ラインの剣が、空を切る。続けざまに踏み込み、胴を狙って一閃。だが――


 ガンッ!


 刃はあっさりと老剣士の木剣に弾かれ、ラインの身体が横に弾かれた。


「まだまだ甘いのう、ライン」


 カール=キリトは悠然と立っていた。白銀の髪を後ろで束ね、しわ一つない姿勢。その構えには、一点の隙もない。


「くっ……!」


 地面に片膝をついたラインが、額の汗を拭いながら立ち上がる。肩で息をしながらも、目の奥には燃えるような闘志が宿っていた。


 その様子を、砦の壁の上から見守る面々がいた。


「……え、あのラインが……全然当たってない?」


 ミリーナが目を見開いてつぶやく。


「本気だよね、これ……?」


 エイミーが魔力感知でラインの動きを読み取りながらも、信じられないといった表情を浮かべる。


「カールさん、まるで動いてないみたいなのに……」


 ユイナが尻尾をふるふると震わせながら、拳を握りしめる。


「さすが、“剣聖”と呼ばれた人ですね……」


 テイシアは膨らんではいないお腹にそっと手を当てながら、固唾をのんで見守っていた。


 中庭では、再び木剣が交差する。


 ラインは今度、左回りのステップから背後を狙うように切り込む――が、次の瞬間にはカールの剣がその動きを完全に読み切っていた。


 ガギィィィンッ!


「なっ……!?」


 軌道を変えたつもりの一撃すらも、まるで最初から見えていたかのように止められる。だが、ラインは食い下がった。


「まだだっ!」


 剣風がうなる。追撃、回転斬り、上段からの斬撃。流れるような連撃を浴びせかけ――ついに、カールの頬をかすめる一閃が走った。


「おおっ……!」


 見守る誰もが声を上げた。


「今の、入ったんじゃ――」


「……いや」


 ラービンが耳をぴくりと動かしながら、低く言った。


「交わしてる。あれは、わざとギリギリをかすめさせた動きだ」


 その言葉通り、カールの口元には微かな笑みが浮かんでいた。


「よく見た。今のは悪くなかったぞ、ライン」


「は、はは……褒められると、逆に怖い……!」


 ラインは汗を滴らせながらも構えを解かない。


 ――その時だった。


 カールの足が、わずかに前へ出る。


 その一歩だけで、空気が変わった。まるでそこに、剣圧という名の嵐が吹き荒れるかのように。


 直後。


 ――ドンッ!


 カールの木剣が、一歩で間合いを詰めると同時に繰り出された。ほとんど見えなかった。いや、見えても動けなかった。


「ぐっ……!」


 ラインが木剣を交差させて受け止めたその一撃は、衝撃で両足が地を離れ、数メートル後ろへ吹き飛ばされた。


「ライ、ラインっ!」


 テイシアが思わず叫ぶが、ラインはすぐに受け身を取り、地面を転がりながら立ち上がる。


「くそ……じいちゃん、どんだけ……!」


 笑いながら立ち上がるその顔には、しかし確かな畏怖と敬意が浮かんでいた。


 カールが軽く木剣を肩に乗せる。


「わしが“剣聖”と呼ばれておるのは、伊達ではないということよ。だが――」


 その瞳が、鋭く細められる。


「おぬしには、それを超える“才”がある。だからこそ、厳しくもなる。わかるな?」


「……ああ。オレが、この国を守る剣になるからな」


 言い切ったラインに、カールは満足げに頷いた。


 やがて、日が中天に差し掛かる頃、ようやく修行は一区切りついた。木剣を下げたカールが、背後で稽古を見ていたユイナに目を向ける。


「おぬし、狐耳の娘。剣の心得はあるのか?」


「えっ、わ、私ですか!? あの、ちょっとだけ、護身程度には!」


 ユイナがあたふたと尻尾をばたつかせながら答える。


「なら、明日からラインと共に修行してみよ。見取り稽古だけでも学ぶものはある」


「ひぇぇ……や、やってみますぅ……!」


 周囲に笑いが起きた。


 中庭の空気は、次第に穏やかになっていく。


 その後、テイシアがラインに近づいてきた。


「大丈夫? あんなに吹っ飛ばされて……」


「平気平気。骨は折れてないしな」


 ラインが冗談めかして笑うと、テイシアもほっと息をつく。


 その瞬間、カールが一言だけ、ぽつりと呟いた。


「だが……この平和が、いつまでも続くとは限らん。剣を置いてもいいのは、すべてを守りきった者だけじゃ」


 その言葉に、皆が静かになった。


 遠く、空を渡る風が、過ぎし戦の匂いをかすかに運んできた。


 ――そして、まだ見ぬ新たな試練の気配も。


 ラインはそれを感じ取りながら、静かに空を見上げる。


(オレは……この国と、家族を、守るために強くなる)


 剣聖の血を継ぎし者として――いや、一人の“剣士”として。


 彼の戦いは、終わらない。

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