表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【絶対に許さない!】結婚間近の恋人を奪われ、さらに冒険者パーティーから追放、貴族の圧力で街にいられなくなった。お前らの血は何色だ!剣聖ライン=キリトの復讐は始まる!  作者: 山田 バルス
第一章 ライン、追放された剣聖

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

76/146

【第一章完】 第76話 ラインの正体?

  第一部 最終話


「剣聖の血脈」


 春の風が、辺境伯領の高台を吹き抜ける。砦の上に広がる青空は、まるで過ぎ去った戦火を忘れさせるかのように、穏やかで晴れやかだった。


 そんなある日、王城に一報が届いた。隣国――フリューゲン王国より、公式の使者が訪れるというのだ。


 謁見の間に集まった面々の表情には、緊張が浮かんでいた。中でもテイシアは、眉根を寄せたまま一言も発さず、ただ前を見つめている。


 フリューゲン王国は、この地に生まれつつある「自由連邦」の構想に対し、明確な態度を示していない。もし彼らが反対の意思を示すなら――


 最悪、戦争もあり得る。


「くっ……」


 小さく息を吐いたテイシアに、隣に立つラインが静かに手を置いた。そのぬくもりが、張り詰めていた彼女の肩をわずかに緩ませる。


「大丈夫だ。俺が話す」


「……でも、万が一のことがあれば」


「その時は、俺たちが守る。それだけさ」


 その言葉に、テイシアはこくりと頷いた。


 やがて、大扉が開かれる。


 現れたのは、二人の人物。


 一人は、金糸のような髪をふわりと揺らし、気品を漂わせた中年の女性。身にまとうのは、王侯貴族のみに許された深紅の礼装。もう一人は、銀髪を後ろで結んだ、年老いた剣士。背筋はぴんと伸び、年齢を感じさせぬ鋭い眼差しで堂々と場を見渡していた。


 誰もが言葉を失う中、金髪の女性が突如、声を上げる。


「ラインちゃん!」


 その瞬間、彼女は音もなく駆け出し、ラインに向かって一直線に――


「えっ――」


「会いたかったよ、ラインちゃん!」


 次の瞬間には、ラインの胸に飛び込んでいた。


 会話も礼もない唐突な再会劇に、謁見の間は凍りついた。


「なっ……何を――!」


 テイシアが咄嗟に立ち上がり、女性を引き離そうと手を伸ばす。


「離れてください! 彼は、わたしの主人です!」


 だが金髪の女性はラインに抱きついたまま、じっとテイシアを見つめた。


「あなたがお嫁さん?」


「……はい。わたしのお腹の中には、彼の子がいるのです」


 静かな言葉が、空気を変えた。


 ラインの目が見開かれる。


「えっ!? なぜ、今まで……」


「安定期に入るまでは、内緒にしておきたかったの」


 その言葉に、金髪の女性の瞳がぱっと輝いた。


「まぁ! 私、おばあちゃんになるのね!」


「え……?」


 テイシアが戸惑いの声を漏らすと、女性はにこやかに微笑んで一礼した。


「ごめんなさいね、自己紹介がまだだったわ。私の名は、ベアトリス=キリト。フリューゲンの侯爵夫人にして――ラインの母よ」


「……!」


 衝撃が走ったのは、テイシアだけではなかった。


 そして、隣の銀髪の老剣士が一歩前に出る。


「わしがラインの祖父、カール=キリト。フリューゲンの剣聖と呼ばれた男じゃ。孫の剣の腕前、余も誇りに思っておるぞ」


 重々しく語られたその言葉に、誰もが息を呑んだ。


 カール=キリト――その名は、かつてフリューゲン国を支えた伝説の剣士。前女王の王配として名を馳せ、今も多くの武人に尊敬される存在。


「ライン……あ、あなた……貴族だったの……!?」


 テイシアの声はかすれた。


 そしてただの貴族ではない。王に近しい血を引き、剣聖の家系に連なる者――それが、ライン=キルト。


 ラインは、気恥ずかしげに頭をかいた。


「いや……昔、家を出たから、今さらどう名乗るべきか分からなくてな」


「おまえはおまえの道を歩いた。それが答えじゃよ」


 カールが朗らかに笑った。


 こうして、フリューゲン王国と自由連邦は新たな同盟を結び、緊張に満ちた謁見は、和やかな祝福の場へと変わっていった。



 それから数日――


 辺境の砦には、平和な時間が流れていた。


 テイシアのお腹はまだ膨らんではいないが、その命の鼓動は確かに宿っている。


 ラービンは早くもベビー服を用意し始め、エイミーは胎児の成長に効く魔術薬の調合を手伝っている。ユイナは「お義姉さん、名前はもう決めたの!?」と嬉しそうに尋ね、ミリーナは密かに日記に子育ての心得を書き記していた。


 皆の笑顔を見つめながら、ラインはふと、一人空を見上げた。


 高く、どこまでも果てしない空。


(この平和が、いつまでも続きますように)


 祈るような気持ちで、彼は剣を腰に帯びる。


 かつての激闘、仲間たちとの出会い、別れ、そして再会――


 それらすべてが、今の彼を形作っている。


 決して忘れない。あの痛みも、喜びも、剣を振るう意味も。


 だからこそ、彼は歩き続ける。たとえ新たな嵐が訪れようとも、今度は守るために。


 そう、これはまだ始まりに過ぎない。


 ライン=キルトとその仲間たちの旅は――


 これからも、続いていく。


 


 第一章 完

第一部完了しました。最後までお読みいただきありがとうございました。感謝です。ポイント評価などいただけると励みになります。m(__)m


 新連載始めました。こちらも良かったらよろしくお願います。

【婚約者を姉に奪われ、婚約破棄されたエリーゼは、王子殿下に国外追放されて捨てられた先は、なんと魔獣がいる森。そこから大逆転するしかない?怒りの復讐劇が今、始まる! 】

https://syosetu.com/usernovelmanage/top/ncode/2702718/?filter=draft

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ