第68話 ローデスの門を落とした翌日
ローデスの門を落とした翌日、まだ夜が明けきらぬ時刻。ラインたちは短い休息の後、次なる準備に取りかかっていた。
目指すは、王都攻略。そのための補給、情報収集、そして民衆の蜂起を促すための工作――それらを一手に担うのが、今この時だった。
「まずは補給拠点の確保が急務ね。ローデスの門内に残された物資だけでは、王都突入は不可能」
ユイナが報告書を手に、仮設された作戦本部の中でそう言った。長机の上には、王都周辺の地図が広げられている。
「南側の村、ファルティアで協力者を見つけました。農民を装った密偵が、食料と薬草を備蓄しているとのこと」
「俺が交渉に行こう」
ラインが手を挙げる。「剣を振るだけが戦いじゃない。今の俺なら、話を通せるはずだ」
「同行させてください」
テイシアが一歩前に出る。
「その者たちが危険を顧みず協力してくれるなら、王女として、感謝を伝えたい」
「俺も一緒に行くよ」
ラービンが手を挙げた。
「物資運びとか斥候の配置とか、俺の得意分野さ」
こうして、ライン、テイシア、ラービンは補給部隊とともにファルティア村へと向かった。
一方、エイミーとユイナは、王都内の内通者との接触を担当することになった。
「王都には、未だに王女派の貴族や魔術師が潜伏しています。彼らと連携できれば、内部から混乱を起こせるはず」
「でも、間違えば全員処刑される……それでもやるの?」
とエイミー。
「ええ」
ユイナは真っ直ぐに頷いた。
「ここで怯むなら、何も変えられない。私たちは未来を選び取る側にいるのよ」
二人は変装し、王都近郊に残された隠し通路から潜入を試みた。
そして数日後――。
「ユイナ、来て」
エイミーが小声で呼ぶ。二人は朽ちた屋敷の地下に潜む隠れ家で、ある男と会っていた。
彼の名はクレイン。かつて王都防衛軍の魔導士であり、今は王女派の地下組織の一員。
「……剣聖ラインと王女テイシアが生きている。しかも、辺境で軍を率いていると聞いたときは耳を疑ったよ」
「彼らはこの国を変える覚悟があります」
ユイナが答える。
「あなたたちの協力があれば、王都を無血開城することも……」
クレインは少し黙ったあと、頷いた。
「まだ数は少ないが、王都内にも不満を抱く兵や市民は多い。反乱の火種はある。あとは火を点けるだけだ」
エイミーが微笑む。
「その火は、もうすぐ燃え上がるわ」
一方、ファルティア村でも事態は進展していた。
ラインたちは村の広場で、協力者たちと対面していた。農民たちの中には、元軍人や放浪者も混じっており、その目は鋭かった。
二
「……で、本当に王都に攻め込むってのか? 相手は二倍の兵力だぜ」
「確かに、兵は少ない。だが、民意は違う。王都の人々が立ち上がれば、勝機はある」ラインはまっすぐに語った。
「私もそのために戻ってきました」
テイシアが言葉を継ぐ。
「この国を、暴君の手から取り戻すために」
その姿、その声に、誰かが小さく息を呑んだ。「……姫様だ。本物の」
やがて、ざわつきは確信へと変わっていき、村の長老が口を開く。「ならば……ファルティアの誇りにかけて、協力しよう」
食料、武具、馬車。村の全てが動き出し、王都突入に向けた準備が本格化する。
――そして、全ての段取りが整った日。再び、ローデスの門に仲間たちが集まった。
城門の上から、ラインは静かに王都の方向を見つめる。
「いよいよだな」
テイシアが隣に立つ。
「きっと……終わらせましょう、この戦いを」
風が、春の匂いを運んでいた。




