第66話 ローデスの門
夜の帳が降りる頃、ローデスの門――王都へ続く最後の防衛拠点の輪郭が、暗闇の中に黒々と浮かび上がった。
二重の石壁、幾重にも張り巡らされた防衛機構。そして、正面からの突撃ではまず落とせないとされる難攻不落の城塞。
「これが……最後の関門か」
ラインは高台から城塞を見下ろし、静かに息を吐いた。その背後では、ユイナが地図を広げ、作戦の最終確認をしている。
「ローデスの門は、正面から攻めれば多大な犠牲が出るわ。けれど……北側のこの水道跡、ここが唯一の突破口になる」
「古い水道か。どれくらいの規模だ?」とライン。
「騎士一人がしゃがんで通れるくらい。内部は崩落も多く、迂回も必要。でも、ラービンなら潜れる」
「もちろんさ」ラービンがにやりと笑う。
「潜って開門装置を解除すりゃあ、陽動と同時に突入できるって寸法だな」
エイミーが補足する。「水道の先には古い管理棟があるわ。そこに結界装置があるはず。わたしとユイナで中和する」
「了解だ」ラインは頷いた。「テイシア、俺と一緒に正門の陽動部隊を率いる。敵の目を引くんだ」
テイシアが静かに剣を握りしめる。
「必ず、門を開かせましょう」
こうして、攻略作戦は動き出した。
夜半、ラービンは黒装束に身を包み、誰にも気づかれることなく水道跡へと忍び込んだ。苔むした石壁、淀んだ水、そして不気味な静寂。だが、彼の足取りは迷いない。
「……こっちはお化けより、罠のほうが怖いな」
いくつもの崩落した通路を抜け、ようやく古びた鉄格子に辿り着く。鍵を手早く外し、奥へと滑り込むと、目の前には管理棟らしき小部屋。そこには複雑な魔導装置と制御盤が並んでいた。
程なくしてユイナとエイミーが合流。
「間に合ったわね」
ユイナが装置を調べる。
「複合型の結界よ。少し時間がかかる」
「いいわ、急ぎましょう」エイミーの手が光り、呪文が流れるように紡がれていく。
その頃、地上ではラインとテイシアが正門前に姿を現していた。
「剣聖、ここまで来たか!」
門の上から叫ぶ王国軍の指揮官。だが、ラインは答えない。ただ剣を抜き、その光で闇を裂く。
「来い。ここが、お前たちの終焉の地だ」
その瞬間、火矢が放たれ、空が赤く染まった。奇襲を受けた守備隊が応戦を開始し、城門前は火の海と化す。
一方、水道跡では、エイミーが叫んだ。
「解除成功! 開門装置作動させるわ!」
ラービンが制御盤に飛びつき、レバーを引いた。
――ガギィィィィィィンッ!!
地響きと共に、ローデスの門が軋みながら開き始めた。
「今だ、突入しろ!」
ラインが叫び、背後から本軍がなだれ込む。
狭間から矢が放たれるが、テイシアの結界が仲間を守る。ユイナは電撃の魔法で狙撃手を一掃し、エイミーが追撃の火球を放つ。
「押し込め! もうひと押しだ!」
ラービンが最上段の敵兵を押し倒し、ラインが剣を振るう。その刃が敵の大盾ごと鎧を断ち割る。
そしてついに、ローデスの門内部、司令室の奥で敵将が降伏を告げた。
「ま、待ってくれ……降伏する……命だけは……っ」
「もう剣を振る必要はない」
ラインが剣を納める。
こうして、王都防衛の最後の砦、ローデスの門は陥落した。
勝利の報が野営地に届き、人々の歓声が夜空に響いた。
「これで……いよいよ、王都だ」
ラインは、遠くの空に浮かぶ王都の灯りを見据えた。その瞳には、もう迷いはない。




