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【絶対に許さない!】結婚間近の恋人を奪われ、さらに冒険者パーティーから追放、貴族の圧力で街にいられなくなった。お前らの血は何色だ!剣聖ライン=キリトの復讐は始まる!  作者: 山田 バルス
第一章 ライン、追放された剣聖

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第48話 テイシアとミリーナ、語り合う。

 テイシアとミリーナ



 夜風が、ほんの少し冷たく感じられる春の宵だった。


 辺境伯邸の中庭には、月光に照らされた白い藤の花が風に揺れていた。屋敷の賑わいから少し離れた、静かな小径の奥。そこに設えられた東屋の中で、私はテイシアと向かい合って座っていた。


「……話せて、嬉しいわ。こうしてあなたと」


 私がそう言うと、テイシアはわずかに笑った。その笑みはどこか遠く、けれど温かくて、私はなぜか胸が締めつけられた。


「私もよ。ミリーナ。まさか、こんな形で再会するなんて思っていなかったけれど……あなたが元気でいてくれて、何よりだった」


「再会、って……私、あなたと直接会うのは今日が初めてですよ」


 私は少し笑いながらそう返した。するとテイシアは小さく目を伏せて、肩を揺らす。


「そうね……でも、あなたの噂はよく聞いていたの。叔父様――あなたのお父様が、時折、手紙であなたのことを話してくれていたから」


「お父様が、ですか?」


「ええ。……貴女は、聡明で、強くて、それでいてとても優しいって」


 私は言葉に詰まった。父がそんなふうに私のことを語っていたなんて、少し、くすぐったいような、誇らしいような気持ちになった。


 そして同時に、私は目の前にいるこの従姉のことを、もっと知りたくなった。


「テイシア様……いいえ、従姉様」


 私がそう呼ぶと、テイシアは驚いたように目を瞬かせた。


「……従姉妹同士、なんですよね。今まで話す機会もありませんでしたけれど」


「……そうね。たしかに、そう」


「私、ずっと気になっていたんです。王家に連なるあなたが、なぜ貴族社会から距離を置いていたのか。そして……なぜ、ラインさんのような方と共に旅をしているのか」


 テイシアはしばらく黙っていた。視線は中庭の藤へと向けられ、夜風が彼女の髪をそっと揺らす。その沈黙は、拒絶ではなく、言葉を選んでいる時間だった。


 やがて彼女は静かに語り始めた。


「私が育ったのは、表向きは美しい宮廷だったけれど、実際は……冷たい場所だったわ。母は、王の側室となったけれど、幸せだったとは言えない。私は、それをずっと見てきた」


 彼女の声には、痛みと静かな怒りがあった。


「言葉では『王家の姫』だと持て囃されて、でも実際には、誰も私の心を見てくれなかった。……だから、私は逃げたの。逃げて、魔術を身に着けた」


「魔術を……?」


「自分を守るために。そして、誰かを本当に助けられる力がほしかった。そんな私を、ラインは受け入れてくれた。過去も、弱さも、全部……彼の隣にいると、私は『私』でいられるの」


 その言葉に、私は息を呑んだ。


 貴族としての義務や、王族の血の重さを背負いながら、それでもひとりの女性として生きようとしたテイシア。その姿は、私の胸に強く刻まれた。


「……素敵ですね。そんな風に誰かと出会えるって。私、少し羨ましいです」


「ミリーナ……あなたは、誰かと出会いたいと思っているの?」


 私は少し考えてから、頷いた。


「……ええ。でも、私は辺境伯家の娘です。いずれ父の跡を継いで、この地を守らなければならない。それは誇りでもあるけれど……同時に、自由を制限する枷でもあるから」


 テイシアはそっと私の手に触れた。手袋越しでも、彼女の手は温かかった。


「ミリーナ。あなたは自由を奪われているんじゃない。責任を持つことを選んだだけ。でも、責任を持ちながらも、想いを抱くことはできるわ。恋も、夢も、望んでいいの」


「……そんなふうに、思っていいんですか?」


「もちろん。あなたは、あなたのままでいていい。私がそうだったように、あなたもきっと、自分の居場所を見つけられる」


 私は、テイシアの瞳を見つめた。そこには迷いのない、静かな確信が宿っていた。


 この人は、もう迷わない。己の道を、己の足で歩いている。私は、そんな彼女を――尊敬していた。


「従姉様……あなたのような女性になれるよう、私も頑張ります」


「ふふ……ありがとう。だけど、あなたはあなたらしくいて。私も、あなたの未来を楽しみにしているわ」


 その夜、私たちは他愛ない話を重ねた。好きな花の話、子供のころの失敗談、そしてラインのこと――


 心の奥にあった、小さな隔たりが、月明かりに溶けていくようだった。


 春の夜風がそっと吹き抜ける中、私は確かに感じていた。


 私には、この地で支え合える家族がいる。そして、これから先の人生に――希望を抱いてもいいのだと。

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