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【絶対に許さない!】結婚間近の恋人を奪われ、さらに冒険者パーティーから追放、貴族の圧力で街にいられなくなった。お前らの血は何色だ!剣聖ライン=キリトの復讐は始まる!  作者: 山田 バルス
第一章 ライン、追放された剣聖

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第40話 ユイナ、物思いにふける!


 テーラ村の神社の裏手、小高い丘に腰を下ろして、ユイナは夕暮れの空を見上げていた。


 濃い茜色に染まりはじめた雲の切れ間から、弱々しい光が漏れ落ちてくる。狐の耳がふるりと揺れた。    風が、まだどこか冷たさを含んでいて、彼女の白い裾をさらさらと撫でていく。


「……ふたりも、仲間になったんだね」


 ぽつりと、誰にも届かない独り言を口にした。


 テイシアの存在に気圧されていたあの時から、随分と時間が経ったような気がする。ラインと初めて対面したあの神社の境内。彼の隣に立つテイシアの圧倒的な存在感に、ユイナは無意識に身をすくめてしまっていた。


 美しさ、強さ、そして何より“特別”という空気。


 あのときの自分が抱いた劣等感は、今でもはっきりと思い出せる。


 だが、今はその隣にさらに二人の少女が加わった。


 魔術師エイミーと、兎の獣人の斥候ラービン。


 どちらもまた、ラインのために剣を取り、魔力を振るい、命を懸けて戦う“仲間”だ。


「私は……どうなんだろう?」


 問いかけても、答えは風の中に消えていくばかりだった。


 ユイナは、彼の仲間なのか。ただの協力者なのか。


 今はまだ、線が曖昧で──だからこそ、不安だった。


 エイミーは美しく聡明で、魔術の知識に長けている。それに、ラインに対して深い信頼を寄せているのが言葉の端々から伝わる。冷静沈着で、誰よりも先を読もうとするその瞳の奥に、時折ちらりと見える感情。


 それが、羨ましいと思った。


 一方のラービンは、まだ幼さの残る少女のように見えるけれど、戦場では誰よりも的確に、素早く動く。彼女の小さな体からは想像できないほどの胆力と判断力がある。


 それもまた、ユイナにはないものだった。


「……ずるいなあ、私」


 膝を抱えるようにして、ユイナは額を乗せた。


 仲間が増えることは、喜ばしいはずだ。


 実際、力が増すことは悪くない。エイミーの魔術は戦況を一変させる力があるし、ラービンの敏捷性は索敵や罠解除の際に大きな助けになる。彼女たちの加入によって、ラインの旅は格段に安全で、確実なものになるだろう。


 ──それでも、心のどこかが軋んだ。


 あのとき、神社の社務所で彼と再会した瞬間、ユイナは確かに感じていた。彼の瞳が自分を認めてくれたこと、あの目が自分を“仲間”として見てくれたことに、胸が熱くなったのだ。


 けれど、今はどうだろう。


 視線はエイミーに、言葉はラービンに、そして想いはテイシアに──。


「私、ちゃんと見てもらえてるのかな……」


 ぽつりと漏れたその呟きは、自己嫌悪にまみれていた。


 私は、誰かと比べて、勝とうとしている。


 そんなつもりはなかったのに。彼を手伝いたくて、力になりたくて、ただ一緒に歩みたくて。


 けれど現実は、気づけば他の女性たちの言葉や視線に敏感になっている。彼が誰を見て、誰に笑っているのか、そんなことばかり気にしてしまっている。


「はぁ……」


 耳がしょんぼりと垂れた。


 そのとき、背後から小さな足音が聞こえた。


「ユイナさーん!」


 振り返ると、ラービンが手を振りながら駆けてきた。ふわふわと揺れる耳、きらきらと輝く目。まるで小動物のように天真爛漫で、その存在そのものが春の陽気のようだった。


「何してるのー? ご飯もうすぐだって、エイミーさんが言ってたよ!」


「……ああ、そうなんだ。ありがとう、すぐ行くよ」


 返事をしてから、ユイナは微笑んだ。自分でも不思議なくらい自然に、微笑めた。


「……ね、ラービンちゃん」


「ん?」


「あなたは、ラインのこと……どう思ってる?」


 唐突な問いだったが、ラービンは少し首を傾げてから、ニッと笑った。


「だーいすきだよっ!」


 あまりにもあっけらかんとしたその答えに、ユイナは肩の力が抜けたように、ふっと笑った。


「うん、そっか……」


「でもね、ユイナさんも好きだよ! やさしいし、強いし、かっこいいし」


 ラービンは無邪気にそう言って、手を握ってくる。


「……ありがと」


 小さな手の温もりが、ユイナの凍えていた心を少しだけ溶かしてくれる気がした。


 たぶん、まだまだ不安もある。嫉妬も、羨望も、なくなることはないかもしれない。


 だけど──


「私も、仲間になりたいな」


 そう呟いた声は、前よりも少しだけ、力強かった。


 ユイナは立ち上がり、ラービンと手をつないだまま、村の方へと歩き出した。


 赤く染まった空の下、夜の帳が静かに降りてくる。


 その先に、また新しい何かが待っている気がして、ユイナの足取りは少しだけ軽くなっていた。

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