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【絶対に許さない!】結婚間近の恋人を奪われ、さらに冒険者パーティーから追放、貴族の圧力で街にいられなくなった。お前らの血は何色だ!剣聖ライン=キリトの復讐は始まる!  作者: 山田 バルス
第一章 ライン、追放された剣聖

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第4話 ライン、アルテイシアを助けて追われる!

「東の森へ、導かれし出逢い」



 灰色の空に、微かに陽が差していた。

 ライン=キルトは東の森を目指し、静かに街を後にする。銀の髪を風にたなびかせ、黒い外套の下には使い込まれた剣。

 数日前――冒険者パーティを追放され、すべてを捨てた男に残されたのは、この剣一本と、自らの足で切り拓く未来だけだった。


 「辺境の地、ね……何があるか分からないが、少なくとも後ろを向いてはいられない」


 彼の足取りは迷いなく、街道から森へと延びる細い道を選ぶ。

 東の森――多くの冒険者が「危険地帯」として避けるこの場所には、かつて古の神が封じられた神殿があるという噂があった。そして、試練に打ち勝つと剣聖になれるという伝説。

 ラインにとって、剣聖という言葉はとても興味があった。ただ進む先に剣聖のヒントがあるかもしれない、それだけで充分だった。


 森の入り口に差しかかる少し手前、澄んだ小川の流れる河原が視界に入る。

 そこに、彼は違和感を覚えた。


 ――金色。


 小川の傍ら、倒れ伏す一人の少女。その長い髪は陽に照らされて眩く輝き、まるで精霊のように幻想的だった。


 「……おい、しっかりしろ!」


 ラインはすぐに駆け寄り、少女の肩を揺する。まだ息はある。だが顔は青く、衣服は泥で汚れ、細い手足には擦り傷が絶えない。


 「う……」


 瞼がかすかに動き、少女が呻く。彼女の瞳が薄く開き、ラインの姿を捉えた。


 「……助けて、お願い……お願い……今すぐ、隠れて……誰かに、見つかる……!」


 「落ち着け、誰かに追われてるのか?」


 少女は怯えきった目で頷いた。声は震え、まるで今にも泣き出しそうだ。


 「お願い……お願い……私を、森の奥に……隠れて……あの人たちが……来る前に……!」


 その切実な声に、ラインは一瞬だけ逡巡する。


 ――関わるな。そう言う者もいるだろう。だが、彼女の姿が数日前の自分と重なった。捨てられた者の悲しみ、苦しみ、切なさ。お前は同じことをするのか? やつらと同じ人間になるのか?


 「分かった。立てるか?」


 「……う、うん……」


 彼女の腕を取り、そっと抱き起こす。軽い。まるで命が細く燃えているようだ。

 ラインは外套を脱ぎ、少女の肩に掛けた。


 「名は?」


 「……アルテイシア」


 「俺はライン。ここを抜けて森に入る。ついてこられるな?」


 アルテイシアは小さく頷き、ふらつく足でラインの腕にしがみつく。

 その直後――森の向こうから、馬の蹄音が響いた。


 「くっ……!」


 追っ手か。直感が告げていた。アルテイシアが言っていた『あの人たち』が、すぐそこまで来ている。


 「走れるか?」


 「……がんばる……!」


 ラインは彼女の手を引き、小川沿いの獣道を一気に駆けた。背後から、甲冑の擦れる音と怒声が響く。


 「見つけたぞ!金髪の女だ、逃がすな!」


 「森に入るぞ、覚悟しろ!」


 ラインは剣に手をかけながら、濃密な樹海へと踏み込んだ。

 木々が光を遮り、土の匂いと湿気が肌を撫でる。足場は不安定で、枝葉が視界を遮った。


 だが、この程度で止まるラインではない。彼は剣士、いや――剣聖を目覚す者。目の前の障害を切り開く力がある。


 「はっ!」


 一閃。前方に立ち塞がる木の枝を切り払い、進路を確保する。

 背後の追っ手が遠ざかる一方で、アルテイシアの足は限界に近づいていた。


 「も、もう……無理……」


 「休める場所を探す」


 辺りを見回し、ラインの目に映ったのは、半ば崩れた古い祠のような構造物。苔むしてはいるが、屋根はあり、隠れるには十分。


 二人はその中へ滑り込み、息を潜める。


 「……大丈夫か?」


 「うん……ごめんなさい、私、巻き込んじゃって……」


 「気にするな。理由はあとでいい。まずは休め」


 ラインは鞄から水筒と干し肉を取り出し、アルテイシアに手渡す。

 彼女は礼を言いながらも、警戒するように辺りを見回していた。


 「……あの人たちは、王国の追手。私を連れ戻そうとしているの。私は……逃げてきたの。閉じ込められるのが怖くて……」


 「ま、まさか王族か?」


 彼女はわずかに表情を曇らせた。


 「……初めまして、アルテイシア=アレクサンダーです。第一王女なんだけどね。まー今は、元王女みたいな扱いなのかな。戻ったら殺されるかも。あははは」


 その言葉の意味を、ラインはすぐには理解できなかった。

 だが、彼女の震える手と、涙をこらえる目が真実を語っていた。


 「……よし。分かった。なら、もう戻らせない」


 「え……?」


 「俺がここまで連れてきた。だから最後まで守る。追われる理由がどうあれ、俺は目の前の人間を見捨てない」


 その真っ直ぐな言葉に、アルテイシアの瞳が見開かれる。


 「……ライン……」


 「さあ、夜になる前にもっと森の奥へ行こう。あいつらはきっとまた探しに来る」


 ラインは再び立ち上がり、剣を鞘から少し抜く。


 銀髪の剣士と、金髪の王女。

 二人の逃避行は、こうして始まった。


 森の奥――そこには、まだ誰も知らない“運命”が、静かに眠っている。

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― 新着の感想 ―
良いね。こういう始まり方好きだ。
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