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【絶対に許さない!】結婚間近の恋人を奪われ、さらに冒険者パーティーから追放、貴族の圧力で街にいられなくなった。お前らの血は何色だ!剣聖ライン=キリトの復讐は始まる!  作者: 山田 バルス
第一章 ライン、追放された剣聖

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第24話 ダンジョン送りの公開処刑


 ダンジョンがある街


 春風が吹き抜ける山道を抜けた先、ラインとテイシアは、久方ぶりに文明の息づく街へと足を踏み入れた。


 その街――〈イラトス〉は、辺境にしては珍しく栄えており、何より巨大なダンジョンを抱えていたことで冒険者たちの往来が絶えなかった。物資の補給にも好都合であり、二人はしばしの休息をここで取ることに決めていた。


 「すごい賑わい……ダンジョンがある街って、こんなにも活気があるのね」


 「それだけ稼げるってことだろうな。命を賭ける分、金になる――そういう場所だ」


 宿を確保し、食料と装備の点検を済ませた頃、広場に近づいた二人は、異様な空気に気づいた。人々が集まり、ざわめきが広がっている。


 「……処刑だ。ダンジョン送りの刑だってさ」


 「またかよ。魔法使いの女だってよ。国に盾突いたとかなんとか……」


 「どうせすぐ死ぬよ。前衛なしで最下層に放り込まれたら、どうしようもねぇ」


 その言葉に、テイシアの顔がこわばる。


 「処刑……?」


 「ダンジョン送りの刑。聞いたことがある。魔物が巣食う最下層に単身で放り込む見せしめの処罰。実質、公開処刑だ」


 人の命をこうも軽々しく扱う仕打ちに、ラインの声にも険が混じる。


 視線の先には、兵士に囲まれたひとりの女性がいた。


 ボロ布のような服をまとい、顔には泥と血がこびりついている。それでも、その背筋は決して折れていなかった。彼女の瞳には、諦めと誇り、そしてほんの僅かな怒りが宿っていた。


 その姿に、テイシアが息を呑む。


 「……あの人……王都の副魔術師団長……エイミー様?」


 「知ってるのか?」


 「何度か見たことがある。とても優秀な方で……魔術師団でも有名だった。どうして、こんな……」


 そこへ、兵士の一人が大声で告げた。


 「王命により、反逆罪に問われた元副魔術師団員、エイミー=ル=フェリアを、ダンジョン送りの刑に処す! 最下層に転移魔法で送り、生きて帰れば赦免とする!」


 ざわめきと共に、見物人から失笑が漏れる。


 「赦免なんてされるわけねえだろ……」


 「どうせ、魔物に襲われて終わりさ」


 ラインの拳が無意識に握られる。


 (ふざけるな……!)


 転移魔法陣が刻まれ、エイミーの足元が淡く光り出す。と同時にエイミーは叫んだ!


 「民を守るために我ら貴族はあるべきだ!それが増税に増税!このままでは、国は」


  エイミーの言葉に、兵士が吐き捨てるように言った。

 

 「民のため? 笑わせるな。貴族様にとって民衆が死のうが飢えようが関係ない。国民など奴隷だ。数が減ってもいくらでも補充が利くと考えてるさ」


 その言葉に、エイミーは静かに笑った。


 「……その考えが、やがて国を滅ぼすわ」


 次の瞬間、光が彼女を包み込み、姿が消えた。


 「っ……!」


 テイシアが目を背ける。ラインの瞳には怒りの炎が灯っていた。


 「テイシア、俺は行く。助ける」


 「……私も行く。でも、どうやって? 入口は封鎖されてる」


 二人が焦りを滲ませながらダンジョンの前に駆け寄ると、兵士たちが睨みを利かせていた。門は堅牢に閉ざされ、進入は許されていない。


 「通行は冒険者ギルドの許可が必要だ。部外者は立ち入り禁止だ」


 「この中に、殺される女がいるんだぞ……!」


 「それがどうした。国の命令だ。口を慎め」


 ラインがは、一瞬、兵士を倒して無理に進むか考えた。しかし、ラインの腕をそっとテイシアが引っ張った。ラインがテイシアを見ると、彼女は小さく首を左右に振った。


 二人はその場を離れ、街の外れに向かった。冷静になるために。心を落ち着かせるために。


 そして、後ろから誰かが付いてくるのが感じられた。目を付けられたか? ラインは鞘に手を伸ばしながら後ろを振り返ろうとした。その時、小さな声がした。


 「……助けたいの?」


 振り向くと、そこには七、八歳ほどの小さな女の子が立っていた。浅黒い肌に、ぼさぼさの茶髪、年季の入った上着をまとっているが、瞳には不思議な輝きが宿っていた。


 「あなたたち、あのお姉ちゃんの知り合い?」


 「知り合いじゃない。でも、助けたい。彼女は正しいことを言っただけなのに……処刑なんて、理不尽すぎる」


 ラインの言葉に、少女は小さく頷いた。


 「うん、そう思う。わたしも、お姉ちゃん、助けたい」


 「……君、何か知ってるの?」


 「うん。内緒だけど、ダンジョンに入る裏道、ある」


 二人は驚き、思わず身を乗り出す。


 「案内してくれるか?」


 少女は頷いた後、まっすぐラインの目を見つめて言った。


 「でも、ただじゃだめ。お姉ちゃん助けたら、ちゃんと一緒に出てきて。絶対に死なないで。わたし、それが願い」


 その純粋な願いに、ラインは静かにうなずいた。


 「わかった。約束する」


 「ありがとう。じゃあ、こっち――ついてきて!」


 少女はぱたぱたと駆け出し、二人はその背を追った。


 こうして、運命の歯車が、また静かに回り始めた。

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