表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【絶対に許さない!】結婚間近の恋人を奪われ、さらに冒険者パーティーから追放、貴族の圧力で街にいられなくなった。お前らの血は何色だ!剣聖ライン=キリトの復讐は始まる!  作者: 山田 バルス
第一章 ライン、追放された剣聖

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

20/146

第20話 村の子供Bから見た二人

「剣のお兄ちゃんとお姉ちゃん」



 僕らが初めてそのふたりを見たのは、村の入り口の細い坂道でだった。


 どこかよその人だってすぐにわかった。なにしろ、あんな剣を背負った人、見たことないんだもの。


 女の人も、すごくきれいで、でもちょっと怖そうで――最初は誰も近づけなかった。だけど、村長さんが空き家に案内してから、少しずつ、少しずつ、僕らもそのふたりを知っていったんだ。


 それから、僕らはあのふたりをこう呼ぶようになった。


 「剣のお兄ちゃん」と「お姉ちゃん」って。


     ◆


 最初に話しかけたのは、たぶんユリだったと思う。まだ5歳にもなってない、小さな妹みたいな子。


 「ねぇ、それ、ほんものの剣なの?」


 お兄ちゃんはちょっとびっくりしてた。でもすぐにしゃがんで、優しく笑った。


 「そうだよ。これは、おれの“相棒”だ」


 そう言って見せてくれた剣は、なんだか普通の剣とは違った。光っていて、でも、怖くなくて――不思議な感じだった。


 ユリはきゃあって言って逃げたけど、しばらくしてまた戻ってきた。興味津々の顔で。


 そうして、お兄ちゃんはよく僕らと遊んでくれるようになったんだ。


     ◆


 剣の修行をしてるときもあったけど、畑仕事の合間には、僕らに薪の割り方や罠の作り方を教えてくれた。動物の足跡の見分け方もすごく上手だった。


 「ほら、これはシルバーウルフの跡だぞ」


 「えっ、本物!? そんなの来るの!?」


 「たぶん、来ない。でも、もし来たら、おれが全部追い払うから大丈夫」


 そう言って笑うと、なんだか本当に、どんな魔物が来ても大丈夫な気がした。


 そして、お兄ちゃんが一緒にいると、みんなちょっとだけ勇気を出せるようになった。山の奥まで行っても怖くなくなったし、薪拾いの道も、迷わず歩けるようになった。


     ◆


 そして、テイシアお姉ちゃん。


 最初はちょっとだけ怖かった。すごく背筋が伸びていて、目も鋭くて――でも、それは違った。


 花を摘むのが上手で、スープを作るのが上手で、絵本を読むのがすごくきれいな声だった。


 「読んでほしいの? 仕方ないわね」


 そう言いながら、いつも最後まで読んでくれるお姉ちゃん。膝に乗せてくれた日、僕は恥ずかしくて顔を真っ赤にしたけど、嬉しかった。


 あと、内緒だけど、テイシアお姉ちゃんの作るお菓子、すっごく美味しい。村の誰よりも美味しい。


 「ラインには甘すぎるって言われたけど、子供の舌にはちょうどいいでしょう?」


 うん、ちょうどいいどころか、最高だった。


     ◆


 ある日、夜に山の中で迷子になったことがある。僕と弟のカズと二人。


 どこがどこかわからなくなって、泣きそうになってたとき、光が見えた。


 「おい、ここにいるか!?」


 それは、お兄ちゃんだった。松明を持って、険しい顔で走ってきた。


 「大丈夫か!? ケガしてないか!?」


 怒ってると思った。でも、違った。


 「心配したんだぞ……!」


 そう言って、ぎゅっと抱きしめてくれた。


 「ごめんなさい……!」


 泣きながら謝ったら、頭をぐしゃぐしゃに撫でられた。あったかかった。


     ◆


 僕らの間では、こんな噂がある。


 「お兄ちゃん、昔はすごい騎士だったんだって」


 「お姉ちゃんは王女様だったんだって!」


 「ふたりはね、悪い人から逃げてきたんだって」


 たぶん、本当だ。だって、夜にふたりで星を見上げているとき、時々、遠くを見てるみたいな目をしてるから。


 けれど、そんな過去があったとしても、僕らには関係なかった。


 だって、今ここにいるふたりは――


 いつも笑ってくれる、優しい“家族”だから。


     ◆


 冬が来て、雪が積もった日。


 お兄ちゃんは雪の中でかまくらを作ってくれた。子供たち全員分の。


 お姉ちゃんは温かいスープを用意してくれて、中でみんなで飲んだ。


 「冷たくても、心はあったかいでしょ?」


 そう言ったお姉ちゃんの笑顔を、僕は一生忘れないと思う。


     ◆


 ある日、ふたりは村を出るかもしれないって話を聞いた。


 まだ決まってないって、大人たちは言ってた。


 でも――もし、出ていくことになっても。


 僕らは、ずっとふたりを忘れない。


 「剣のお兄ちゃん」と「優しいお姉ちゃん」は、


 僕らの“英雄”だから。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ