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【絶対に許さない!】結婚間近の恋人を奪われ、さらに冒険者パーティーから追放、貴族の圧力で街にいられなくなった。お前らの血は何色だ!剣聖ライン=キリトの復讐は始まる!  作者: 山田 バルス
第一章 ライン、追放された剣聖

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第2話 アイリス視点 ――「選ばなかった未来」

 アイリス視点 ――「選ばなかった未来」

 


 カウンターの上に置かれた木のカップは、もうずいぶん前に冷めていた。淡く甘い香りがするハーブティーだったけれど、今の彼女の喉を通るような優しさではなかった。


 アイリスは、ふと指先でそのカップの縁をなぞる。


 何度も繰り返した台詞が、胸の奥からせり上がってくる。


 ――「あなたには……未来がないもの」


 言った瞬間、ラインの目が大きく見開かれたのが頭から離れなかった。あんなにまっすぐな目で自分を見つめる彼の姿に、背中を向けてしまいたい衝動に駆られた。けれど、それではダメだと思った。言い切らなくてはならなかった。きちんと終わらせるために。


(……本当に、それでよかったの?)


 グレイが言ったように、“彼”の加入には条件があった。ダンバリー家の三男、デビリール。王都では有名な名門のひとつ。その男が直々にこの地方の冒険者ギルドにやってきて、資金提供と装備支援を申し出た。


 代償は、ラインの排除。


 理由はくだらない――「目障りだから」。


 それだけだった。


(くだらない……でも、現実)


 それを拒めば、ギルドから追い出されるのは自分たちだった。もしくは、彼の気まぐれ一つで命を落とすかもしれない。


 ラインを守るために反発する――そんな選択肢も、心のどこかにはあった。


 でも、それは綺麗事だった。


 自分は、夢を見ていたのだ。


 冒険者として、王都に戻って、名を上げて、魔術師として名声を得る。今のように薄暗い酒場の裏で依頼をこなす日々ではなく、貴族たちの前で魔法を披露する華やかな舞台に立つ自分を。


 その夢の中に、ラインは――いなかった。


(あの人は、地に足がついた人。剣一本でどこまでも進もうとする、愚直な人……)


 だからこそ、好きだった。


 けれど、だからこそ、怖かった。


 彼のまっすぐな在り方は、どこか自分のずるさを映し出す鏡のようで。隣にいるほどに、自分が薄汚れているように思えた。


「……アイリス。お前、泣いてるぞ」


 グレイの声に我に返った。


 指で頬を拭えば、確かに濡れている。いつの間にか、ぽろぽろと涙が落ちていたらしい。


「うるさいわね……泣いてなんか、ない」


「……あいつ、俺たちを恨むかな」


 答えられなかった。


 ラインはそんな男ではない――そう思いたい。でも、あれほどのことをされて、何も思わないわけがない。


 彼の剣は、本物だった。


 決して華やかではない。技巧に溺れることもない。ただひたすらに、地道に、積み上げてきたもの。


 それが、今日、壊れた。


 自分の言葉で。


(私が……あの人の未来を、断った)


 それでも。


 それでも、アイリスは「選ばなかった」。


 ラインと共に歩む未来を、自らの手で閉ざした。


 自分を選んだのではなく、“未来”を選んだのだ。


「これでいいの。これで……」


 言い聞かせるように呟いた声は、空虚だった。


 夜、宿に戻ると、ラインの荷物がなくなっていた。


 いつも壁際に立てかけてあった剣も、粗末な鞘も、跡形もなかった。


 ただ、机の上に一枚の紙切れが残されていた。


『ありがとう。楽しかった。さよなら』


 それだけの言葉に、アイリスは崩れるように床に座り込んだ。


 ラインの文字だった。あの、不器用で、真っ直ぐな文字。


 それを見た瞬間、堪えていた感情が決壊する。


 喉の奥が焼けるようで、息が詰まり、涙が止まらなかった。


 もう遅い。


 すべてを、自分で壊してしまった。


(でも……お願い、ライン。どうか、生きて)


 この腐った街を出て、新しい場所で、新しい自分を見つけてほしい。


 自分が捨てた未来を――いつか、取り戻してほしい。


(もしも……)


 ――もしも、どこかで再会できたなら。


 その時こそ、ほんの少しでいい。笑ってくれたなら、それで――


 アイリスは、声を殺して泣いた。


 過ちを認めたとて、時は戻らない。


 けれど、胸の奥に残るその人の影は、きっとこの先も消えることはないのだろう。


 どれだけ豪華な装飾を身にまとっても。


 どれだけ栄誉を手にしても。


 その瞳に映るのは、あの男の背だった。


(さよなら、ライン……そして、ごめんなさい)

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― 新着の感想 ―
この女悲劇のヒロインを演じているけど金に目がくらんで貴族の男に股を開いただけのビッチでしょ(笑) ライン様に貴族と共に恨まれていますので真っ二つにされてくださいwww ライン様が日和らずに復讐すること…
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