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【絶対に許さない!】結婚間近の恋人を奪われ、さらに冒険者パーティーから追放、貴族の圧力で街にいられなくなった。お前らの血は何色だ!剣聖ライン=キリトの復讐は始まる!  作者: 山田 バルス
第一章 ライン、追放された剣聖

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第17話 隠れ里の村長 若い二人のことを語る。

隠れ里の村長視点:あの二人のこと



静かな山の奥にある我らが里は、よそ者をめったに受け入れない。世の中が荒れている今、なおさらだ。


だが、それでも――どうしてだろうな。あの若い二人を見たとき、私は受け入れようと思っていた。


男の名はライン。女の名はアルテイシア。皆はもう彼女を「テイシア」と呼んでおるがな。どこか訳ありの様子だったが、変な気配はなかった。いや、むしろ、何かを乗り越えてきた人間の匂いがした。


ラインは、鍛えられた剣士だ。剣の構えがただ者ではないと、すぐにわかったよ。最初の頃、山で熊の一匹も倒して帰ってきた時には、若い衆がどよめいたもんだ。いや、あれは熊なんてもんじゃなかったな……ブラッティベア、だったか。黒毛の中に血のような紅斑がある巨大な魔獣。


普通なら、里の男たち全員でかかってようやく倒せる相手だ。だが彼は、それを一人で、しかも剣一本で屠った。


「大した腕だ」と私が言うと、彼は少し困ったように笑ってこう言った。


「いえ、僕なんか、ドラゴンもまともに狩れませんから」


ドラゴン、だと……? その時は、冗談かと思った。だが、彼の背後に立っていたテイシアの顔を見るに、どうやら本当のようだった。冗談ではなく、本気で“自分はドラゴンを狩れないから未熟だ”と思っている。


……世の中、広い。いや、広すぎる。


テイシアの方はといえば、最初は物静かで、どこか遠くを見ているような眼をしていたな。まるで、心がここにいないような……いや、魂が旅をしているような、そんな眼だった。


だが、日が経つにつれ、彼女の表情にも少しずつ生気が戻ってきた。子供たちと遊び、女たちと畑を耕し、春の花を摘んでは飾りにしていた。気品のある身のこなしと、手際の良さ――明らかに、ただ者ではない。貴族の生まれ……それも、かなり高い身分の育ちだろう。


だが、それを鼻にかけることもなく、丁寧に、まっすぐに人と接していた。だからこそ、里の者たちは彼女を受け入れたのだ。


あの二人が住んでいるのは、里の外れにある空き家だ。昔は若夫婦が住んでいたが、冬の疫病で……まあ、それは今はいい。暖炉と屋根がしっかりしていれば、人はまた生きられる。


ある夜、ふとその家の前を通った。窓からは暖かな火の光が漏れ、炉の前に並んで座る二人の影が揺れていた。肩を並べ、湯気の立つ鍋を囲む姿――


ああ、あれはもう、夫婦そのものだった。


「まるで、夫婦みたいだなぁ」


つい、口から出た言葉に、赤面して否定する二人。


だが、どこか照れくさそうに笑い合う姿は、本当に仲睦まじくて……私は心の中で、そっと祝福していた。


彼らが何を背負ってこの里に来たのか、すべてを知っているわけではない。だが、それでもわかることがある。


――あの二人は、互いにとっての“救い”なのだ。


ある晩、月が綺麗に出ていた夜のこと。私は水を汲みに小川へ向かう途中、彼らが縁側に並んで腰かけているのを見た。


テイシアが肩を震わせて泣いていた。声は聞こえなかったが、ラインがそっと肩を抱き、優しく寄り添っていた。


その背中が、何よりも雄弁に語っていた。


「大丈夫だ」と。


「お前の選んだ道は、間違ってない」と。


言葉ではなく、ただ傍にいることで、そう伝えていたのだ。


若い二人には、まだまだこれからたくさんの試練が待っているだろう。あのまま、何も起こらず、平穏無事に暮らせればいいが……そううまくはいかないだろうとも思っている。


だが、だからこそ。


この穏やかな時間を、愛おしむように生きている彼らの姿が、私には眩しくて仕方ないのだ。


――あの家から、未来が始まっている。


そんな気がしてならない。


「ライン、薪が足りないって。あとで少し取ってきてくれる?」


「わかった。森の南側のほうが乾いてるな、今日は」


そんな何気ない会話。


けれど、私にとっては、それが何よりの証だった。


あの二人が、この里で――確かに生きているという証だった。


……だから私は、今日も村の皆に言うのだ。


「少しはあの二人を見習え。支え合うってのは、ああいうことを言うんだ」


そして私は、そっと願うのだ。


――どうか、あの小さな幸せが、少しでも長く続きますように。


神さまなど信じたことはないが、この願いだけは、きっと届くと信じたい。


老いたこの身にできることは限られている。


だが、命ある限り、私はあの二人の味方でいよう。


たとえ、どんな嵐がこの里を襲おうとも――


彼らが歩く道が、愛に満ちたものでありますように。

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