第13話 ライン、テイシア、隠れ里での生活と修行
ライン、テイシア修行する!
ラインは滝を抜け、魔物を倒し、修行をさらに重ねていった。また、倒した魔物は同行したユイナのマジックアイテムに収納され、村の人たちの食糧として活用されることになった。
試練を終えたラインとアルテイシアは、里の長老に事情を話し、一軒の空き家を借りて住んでいた。
古びた木造の家だったが、屋根はしっかりしていて、暖炉もまだ使えた。
初めて二人きりで安心して暮らすことができる家。
「とりあえず、水汲んでくる」
「うん。私は薪を探してくる」
息を合わせるように動く二人。いつの間にか、そういう関係になっていた。
暮らしのリズムが合う。言葉がなくても、呼吸で通じ合えるような――そんな空気がそこにはあった。
夜、暖炉の火がぱちぱちと音を立てる中、湯気の立つスープを分け合って座る。
「……美味しい」
「適当に煮ただけなんだけどな。味覚が野宿のせいで鈍ったか?」
「もう、意地悪」
軽く笑い合う。
いつからか、彼女は彼を「ライン」と呼ぶようになり、
彼もまた彼女を「テイシア」と、愛称のように呼ぶようになっていた。
それは一つの距離の証明だった。
どこか他人行儀だった二人の距離が近づいていた。
それが心地よかった。
◆
ある夜、満天の星が山の間に降るように輝いていた。
二人は小屋の外、縁側に並んで腰かけていた。
静かな風が草を揺らし、虫の声が森を包む。
「……こうしてると、まるで全部が夢みたいだな」
ラインがぽつりと呟く。
「本当に、追われてたの?って」
「夢じゃないよ。……だって、夢なら、こんなに苦しい感情は残らないもの」
テイシアの声は、微かに震えていた。
「今も……心のどこかで思ってる。兄は怒ってるかもしれないって。貴族の人たちは、私を裏切り者だと思ってるかもしれないって」
その声に、ラインは黙って耳を傾けていた。
やがて、ゆっくりと言葉を紡ぐ。
「テイシア。お前が選んだことは、間違ってない。たとえどんな未来があったとしても、お前が“生きる”って選んだことに、意味がある」
彼の声は温かく、揺るがなかった。
「逃げたっていい。後悔したっていい。……でも、俺は、逃げたお前を正しいって言いたいんだ」
涙が、こぼれた。
こらえきれなかった。
誰かに肯定されたかった。誰かに許されたかった。
その「誰か」が――彼だったことに、胸が締めつけられるほど、嬉しかった。
「ありがとう、ライン……」
彼の肩にもたれて、泣いた。
山の夜は冷たかったけれど、彼の体温だけは、しっかりと感じられた。
◆
それからの日々は、穏やかで、静かだった。
テイシアは畑を手伝い、村の子供たちと遊ぶようになり、
ラインは山道の整備や狩りに出て、少しずつ村の人々とも打ち解けていった。
「まるで、夫婦みたいだなぁ」
老人の一言に、顔を赤くして否定する二人。
けれど、否定しながらも心のどこかに、その言葉がじんわりと染みていく。
(こんな日々が、ずっと続けばいいのに)
テイシアは思った。
王都も、力も、兄の陰謀も、すべてが遠い夢のようだった。
けれど、知っていた。
――それは叶わぬ願いだと。
だからこそ、この日々は愛おしかった。
◆
「なぁ、テイシア」
ある夜、ラインがふと真剣な声で言った。
「お前が本当にこのまま“隠れて”生きるって決めたなら、俺は一生そばにいる」
「……え?」
「でも、もし、もう一度“前に進みたい”って思ったときは、俺は……お前と一緒に“戦う”」
その言葉は、決意だった。
「テイシア、お前がどうなっても、俺はお前の味方だ」
――そう言ってくれる人が、一人いるだけで。
世界は、なんて優しく見えるのだろう。
「……ありがとう。私、あなたと出会えて、本当に良かった」
そして二人は、月の下で、そっと指先を重ねた




