異世界ゴーストライター
薄暗い室内に機械音が響く。天井に取り付けられた蛍光灯の光が、無機質な白い壁をぼんやりと照らしていた。
ベッドの上には一人の男が横たわっている。年齢は三十代から四十代ほど。顔色は悪く、既に意識はない。彼の周囲では、白衣をまとった二人の男が黙々と作業を進めていた。
「お疲れ様です! 本日からお世話になります!」
若い男が元気よく頭を下げる。彼は新人らしく、やや緊張した面持ちで先輩の様子を伺っていた。
「ああ、ご苦労さん。適当にやってくれればいいから」
ベテランの男は手元の端末を操作しながら、横たわる男の頭にヘッドギアを装着した。コードが何本も伸び、機械が静かに動作を始める。
「えっと……何してるんですか?」
新人は興味深そうに覗き込む。
「ん? ガイシャから異世界系なろう小説を吸い出してるんだよ」
「なろう小説って、あの転生チートで無双したり、ゲームの世界でやり直したりするやつですよね? 俺も読んでますよ。タダだし」
「よく知ってるじゃないか」
「でも、それとこれとがどう関係あるんです?」
新人の疑問に、ベテランは軽く笑いながら答えた。
「人間の脳ってのはすごいのさ。お前も夢を見るだろ? あれは一種の異世界体験みたいなもんだ。で、死に直面した脳ってのは、最後の最後まで自分が死ぬことを誤魔化そうとする。その結果、一瞬で壮大な物語を創造するんだよ。」
「へえ、そんなことが……」
「まあ、たいていは似たような話ばっかりだが、たまに異世界×何々の大喜利みたいな感じで面白いのが出てくる。そういう話を拾えたら、適当な作家に渡して書籍化、コミカライズさせるって寸法よ。たまに勘違いして脱税するやつがいて困るけどな!」
「ええ……それって完全にゴーストライターじゃないですか」
新人が呆れたように言うと、機械が静かにアラートを鳴らした。
「あ、吸い出し終わったみたいっすね……っと、患者さんご臨終です。お疲れ様でした」
「どんなのが獲れたかな?ちょっと見てみてよ」
「はい! 楽しみだなあ」
新人は端末を覗き込み、データをチェックする。
「へ〜、ゲームの世界でやり直し系か……って、これまんまテ○ルズじゃねえか。恐竜の殻被ってるキャラの名前まで一緒じゃん。」
「こんなの出したらすぐバレちゃうんじゃないっすか?」
「まあ、脳が勝手に作った話だから、丸パクリになることもあるわな。作者さんも素人だし、しゃーない」
ベテランは肩をすくめる。
「でも、そういう話は異世界の地球に送るから、あっちではそのまま使えるんよね」
「え? 異世界?」
新人が驚きの声を上げる中、端末の画面に「転送完了」の文字が浮かび上がった。
異世界ゴーストライター——終。
思いつきでショートショート的に書いてみました。
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VTuberだけど勝手に転生させられました!? 〜同接100の崖っぷちVですが、ファンの力でステータスアップするスキルで異世界でも頑張ります!〜
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