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乃亜の質問

 「ふぅ」

 洋食レストラン顔負けのビーフシチューを堪能した乃亜。

 前回のオムライス同様、最初こそ気難しそうな表情を浮かべていた乃亜だが、一度食べ始めると何とも幸せそうに表情を緩めていた。

 食べ終えた今もベッドに腰かけご満悦そうにしている。

 「それで、俺のことについて何か分かったのか?」

 すっかり当初の目的など忘れていそうな乃亜は、分かりやすく表情を繕って考えるような素振りを見せた。

 「…………料理男子、とか?」

 「それ関係ないだろ……」

苦し紛れな乃亜の回答に、悠はずっこけそうになる。

 「じゃ、じゃあ……今から色々質問してくから答えてよ」

 「質問? まぁ、そんなことでいいなら」

すると乃亜はなぜかスマホを取りだし、メモをとる記者のように前屈みになった。

 「血液型は?」

 「O型」

 「誕生日は?」

 「七月十五日」

 「えっと……昨日見た夢は?」

 「何も見てない……って、待ってくれ。占いでもする気か?」

 「だって、何聞けばいいか分かんないんだもん」

 スマホに悠の情報を入力し、性格占いにかけようとする乃亜。

 意外とそういう類のものを信じるタイプなのかもしれないが、悠としてはそんな曖昧なもので為人を量られても困る。

 それこそ、何かの間違いで【助平】とでも出てしまえば火に油だ。

 「じゃ、じゃあさ……正直に答えてほしいんだけど」

 「……おう」

 悠に咎められた乃亜は少し悩んだ末、意を決したように口を開いた。

 ——その改まった口調に、悠は息を呑む。

 「私のこと……どう思ってるわけ?」

 微かに瞳を揺らしながら、乃亜はジッと悠を見つめる。その必死そうな様相からしても、最初からこれが聞きたかったのだろう。

 腕を組み、考え込む悠。

 回答によっては全てがおじゃんになりかねない質問。しかし、元々下心があって乃亜と接しているわけではない悠にとっては、ただ有り体に彼女の印象を伝えればいいだけ。

 ——悠は一度深呼吸してから口を開いた。

 「人気者の同級生ってだけで、それ以上でも以下でもない」

 綾人の言う通り、乃亜は去年から幾度となく男子からの告白を受けている。

 その中には当然、ミスターコンの受賞者や大企業の跡取り息子といった名だたる強者もいたが、それでも告白を受けたという噂は一切聞かない。

 そのため、一介の男子大学生に過ぎない悠が乃亜と仲良く……まして付き合うなんて現実味がないにも程がある。

 そんな悠の考えが意外だったのか、乃亜は驚いたように目を見張っている。

 「私には興味ないってこと……?」

 「まぁ……信じてもらえるなら、そういうことになるな」

 「そ、そっか」

 納得したのか、していないのか。乃亜は神妙な面持ちで悠を見つめている。

 「にしても、人気過ぎるってのも大変だよな」

 「え?」

 「いつも誰かしらに囲まれて、それでも笑顔で相手してさ。俺なら気が滅入るよ」

 「…………私だって、あんなのイヤ」

 俯きながら囁かれた乃亜の声は、悠の耳には届かなかった。

 悠としては世渡り上手のようなニュアンスで褒めたつもりだったのだが、何やら乃亜は不貞腐れてしまった。

 しかし、そんな様子に構わず悠は続ける。

 「そう考えると、俺に対する態度ってかなり素っ気ないよな」

 「逆に聞くけど……あんな状況で優しくなんて出来ると思う?」

 『バカなの?』とでも言いたげに尋ねてくる乃亜に、『そりゃ無理だな』と苦笑して返しながら、悠はテーブルに置かれた食器を片付け始めた。

 「まぁ、俺はそのくらいの方が好感持てるけどな」

 「……!?」

 ボソッと呟かれた悠の独り言に、乃亜はビクッと肩を跳ねさせる。

 キッチンへ向かっていく悠が知る由もないが、乃亜の顔がみるみると赤く染まっていき、それを隠すように両手で頬を覆っている。

 ——そして、途端に立ち上がり玄関の方へと歩き出した。

 「ちょっ……星月さん、どこに行くの?」

 「帰る!」

 「ま、またずいぶんと急に……」

 乃亜はキッチンに立つ悠の横を通り過ぎると、そそくさと靴を履いてドアノブに手をかけた。

 「や、やっぱり……最上君のことまだ信用できないから……また来る」

 悠の方を振り返ることなくそう言い残し、有無も言わせぬまま去って行った。

 そんな乃亜の背中を、悠はただ呆然と見送った。

 (……って、また来る!?)




 


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