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姉妹の夜

 まだ、胸がドキドキしてる。

 あれから少しして冷静になった私は、急いで最上君の家を飛び出した。

 家に着いてすぐ、ベッドに横たわって無理やり眠りにつこうとしているけど……全っ然、眠れる気がしない。

 ……さすがに変に思われたかな。

 当たり前だよね。

 嫌な相手に……それも男の子に、普通あんなことしないもん。

 最上君だって、そのくらい分かってるはず。

 …………

 あぁ~、もうやだ!

 恥ずかしくて死にそう……。

 自分が何をしてしまったのか、思い出して私は顔を手で覆いながら身悶えする。

 嫌……じゃなかったかな。

 確かめたいけど、自分から会いに行く勇気なんてない。

 この調子じゃ大学でも、すれ違う度にきっと——

 もう、これっきり?

 このまま何も話すことなく、終わっちゃう?

 ——そんなの、いや。

 でも、どんな顔して会えばいい?

 普通になんて出来るわけない。

 私、これからどうすれば——

 どうしようもないもどかしさを抑え込むように、枕をギュッと抱きしめる。同じくらいの力で胸が締め付けられた気がして、涙がこぼれそうになった。

 ……お姉ちゃん、どうしてるかな。

 弱気になっていると、ふと、一人で帰っていったお姉ちゃんの寂しそうな顔が浮かんだ。

 あの時、一緒に帰ってちゃんと話すべきだった。

 それなのに、いつもと同じ。

 逃げて逃げて……最上君に甘えて。

 それじゃ何も解決しないのに。

 やっぱり弱いな、私。

 何もかもが嫌になり、目を閉じようとした時だった——

 コンコン

 突然、ドアがノックされる。

 「遅くにごめんね、乃亜ちゃん起きてる?」

 ドアの向こうから聞こえたお姉ちゃんの声。

 細々として、どこか悲しげだった。

 「……起きてる」

 目元を袖で拭いながら、私は答える。

 あまり気分が乗らないし、寝たふりをしようかとも思ったけど、話しかけてくれたことが何となく嬉しかった。

 「その……ちょっといいかな」

 「……うん」

 お姉ちゃんはゆっくりとドアを開け、部屋に入ってきた。

 目腫れてるかもしれないし、電気は消したままでいっか……。

 体を起こしてベッドの縁に座ると、少し距離を置いてお姉ちゃんが隣に座ってきた。

 「えっと、起こしちゃった?」

 私の顔色を窺うように少し顔を横に向けてくるお姉ちゃんに、私は首を横に振って返す。

 少しの沈黙の後、お姉ちゃんは口を開いた。

 「私、明日で帰るけど……そしたらまた、乃亜ちゃん家で一人になっちゃう……よね」

 「……そうだね」

 お姉ちゃんは珍しく歯切れが悪い。

 でも、言いたいことは分かる。

 もし……お姉ちゃんが昔のままなら。

 私はジッと、その言葉を待った。

 ——そして。

 「今日はほんとに……ごめん」

 その震え混じりの言葉に、私は心からホッとした。

 暗がりの中、毛布をキュッと握るお姉ちゃんの手が見える。

 「許してほしいなんて言わない。……でも、でもね……私はずっと乃亜ちゃんの味方だよ」

 私が黙っていると、お姉ちゃんがそう続けた。

 最上君の家で言われたこと……確かにびっくりしたし、すごく悲しかった。

 いよいよ私に居場所なんてないんだって思った。

 でも、こうして謝りに来てくれたことが嬉しかった。

 それに、分かってる。

 ——きっと、半分は私のせい。

 昔から、お姉ちゃんは色々考えてくれて、何度も手を差し伸べてくれてた。

 けど……それを私が拒んで、その度に悩ませた。

 本当は嬉しかったこともあったし、助けられたこともあった。それなのに、私は素直に感謝を伝えることが出来なかった。

 だから、あんなやり方をさせちゃったのかもしれない。

 自分には無理だって、諦めさせちゃったのかもしれない。

 その辛さは私が一番知ってるはずなのに。

 「ごめんなさい」

 「……え? なんで乃亜ちゃんが——」

 震えるお姉ちゃんの手に、自分の手を重ねる。

 こんなの、何年ぶりかな。

 「お姉ちゃんの気持ち、考えてなかった」

 「私の……気持ち?」

 謝るはずが逆に謝られて、キョトンと見つめてくるお姉ちゃん。

 ——今までありがとう。

 ——これからもよろしく。

 伝える言葉は、この二つで十分。

 でも、それよりも先に浮かんだ言葉があった。

 何年越しかわからない、仲直りの言葉。

 いい年して、すごく恥ずかしいけど……。

 「えっと……だ、大好……き」

 若干声が上ずって、噛み噛みになってしまう。

 私は照れ臭さのあまり、目を横に逸らしてしまった。

 小さい頃、まだお姉ちゃんと仲が良かった頃——たまに喧嘩した時、仲直りする時は『ごめんなさい』と『大好き』を言おうって約束。

 子供っぽくて、今言うと冗談っぽく聞こえるかもしれない。

 でも、お姉ちゃんを妬むようになってから……それこそ何度も何度も嫌な言葉を浴びせたのに、一度も言えなかった言葉。

 だから、真っ先に言わなきゃと思った。

 「お姉ちゃん……?」

 沈黙が気まずくなってきて、お姉ちゃんの方をチラッと覗いてみる。

 どんな顔をしているのか、暗くてよく分からないけど——何かがポツポツと、毛布に垂れ落ちる音だけが聞こえた。

 すると、お姉ちゃんはそろそろと距離を詰めてくる。

 そのまま、優しく私の体を包み込んだ。

 温かくて、懐かしい匂い。

 最後にこうして抱きしめられたのも、仲直りの時だった。

 「私も……大好き」

 そう言うと、私を抱きしめる力が強くなった。

 私はお姉ちゃんの背中に手を回し——震える体をそっと抱きしめた。

 

 ☆


 長年のわだかまりを解消し、私たちは溜まりに溜まった昔話に花を咲かせていた。

 そのはずなんだけど——

 「悠君とはどこまでいってるの?」

 「えっ!?」

 お姉ちゃんの恋愛談にボーっと耳を傾けていた私は、急に投げかけられた質問に面食らってしまう。

 「そんなこと聞かれても……別に付き合ってるわけじゃないし」

 「でも、好きなんでしょ?」

 「そ、それは……」

 お姉ちゃんの追撃に、言葉を詰まらせる。

 好き、好き……?

 どうなのかな。

 ふと、さっきのことが頭に浮かぶ。

 ——思いのほか大きい手は、ゴツゴツしてて……頭に乗せられた時はびっくりしたけど、何も言わずに優しく撫でてくれた。

 全身がいい匂いで包まれて、すごく安心した。

 ずっとこうしてたいなって——

 「嬉しそうだね?」

 「え? あっ……な、何でもない」

 お姉ちゃんが楽しそうに微笑みかけてくる。

 ……顔に出ちゃうんだ。

 それに、また鼓動が速くなってる。

 いつからだろ。

 家でも、大学でも、バイト先でも、気付けば最上君の事ばっかり考えるようになって、その度に胸が苦しくなって。

 でも、幸せな気持ちになって……すぐに会いたくなる。

 疑ってるとか、逃げ込みたいとか。初めの内は少しくらいあったかもしれないけど、それもいつの間にか言い訳にしかならなくなってた。

 最上君が作る美味しいご飯を食べて、たまに私が作ると一緒に苦笑いして、それでもまた作ってって言ってくれる。

 いつも甘やかされるからあんまり上達しないけど……不思議と前向きになれる。

 私のことをちゃんと見ててくれて、不器用で不愛想なところも受け入れてくれるから、焦らなくていいんだって思えるの。

 ……ずるいよ。

 隠さなきゃ嫌われるって、もう嫌われてるかもって思ってたのに。

 なんで見捨てないの?

 なんで優しくするの?

 そんなの、そんなの——

 「好きに……なるじゃん」

 つい声に漏れてしまい、私はハッとして口を手で塞いだ。

 顔がみるみる熱くなっていく。

 そんな私をよそに、お姉ちゃんは私の手を顔から剥がして握ってきた。

 「そっか、そっかぁ~!」

 嬉しそうにそう言いながら、お姉ちゃんは握った手をぶんぶんと上下に振ってくる。

 珍しくキャッキャッと普通の女の子みたいにはしゃぐお姉ちゃんを見てると、何だか言い訳する気にもなれなかった。

 けど、認めてしまったことで話は振出しに戻ってしまう。

 「それで、どこまでいってるの?」

 「…………」

 「えっと、出会ったの四月ってことは……もう三か月近く経つんだし、さすがにデートの一回や二回くらいは——」

 「で、出来るわけないじゃん!」

 今まで疑ってたことになってるんだから……!

 「あ……そっか」

 そんな心の叫びが届いたかのように、お姉ちゃんは納得した様子だった。

 すると、楽しげな表情が一転。お姉ちゃんは悩まし気に唸りだした。

 「乃亜ちゃん、恋は早い者勝ちだよ。どれだけ可愛くても、どれだけたくさん会ってても、相手が先に他の誰かを好きになったら意味ないの」

 「それは……分かるけど」

 「今は偶然も味方して乃亜ちゃんがリードしてるかもしれないけど、もし他の子が……それこそ恋愛慣れしてるような子が悠君にアプローチしたら?」

 「あの最上君に限って、他の女の子と仲良くなるなんてこと——」

 『カッコよくない?』

 ——あっ。

 最上君のバイト先の喫茶店に寄った時、友達の一人が言っていたこと。

 他学部の子で、確か……結構モテる子。

 あの時の最上君はいつもより少し着飾ってたのもあるだろうけど、少なくともあの子の目にはカッコよく映ったんだ。

 ……他の二人も共感してたみたいだし。

 考えてみれば、大学じゃ素朴であんまり目立たないけど、最上君って普通に身長高いし、前髪が重ためだけど顔も整ってるんだよね。

 も、もし……最上君が他の女の子と関わることがあったら?

 それこそ最上君の事だから、誰かが困ってたらすかさず助けようとするだろうし、それがきっかけで仲良くなったりして……。

 話すようになって、遊びに行くようになって。

 それで、それで——

 「嫌でしょ?」

 「……うん」

 色々想像して、ズキズキと胸が痛んだ。

 息が出来ないくらいに苦しくなった。

 「なら、まずはデートからだよ。一緒にいて楽しいって思ってもらうことが大事なの! 幸い乃亜ちゃ んは悠君と普通に話せるみたいだし、誘う条件は揃ってるでしょ?」

 そうかもしれないけど、今までが今までな上に今日のこともあって、とても誘いやすい状況とは言えないような……。

 「それでも難しいなら、最初くらいは何か口実があってもいいかもね」

 私の表情から察したのか、お姉ちゃんが付け足してくれた。

 とは言っても——

 「口実……」

 何かあるかな。

 前に何か約束してたとかでもないし、最上君に貸しがあるわけでもない。

 えっと、もうすぐ七月だから……七夕? って言っても何か特別イベントがあるわけでもないし。

 ならお祭り……はちょっとハードル高いかな。いつか一緒に行ってみたいけど。

 七月、七月——。

 『————』

 あ、そっか……!

 前に最上君が言っていたことを思い出して、私は手を打った。

 どのみち誘いづらいことには変わりないんだけど……。

 メールで誘っちゃう?

 いやでも、そんなんじゃ当日も気まずいまま上手く話せないで終わっちゃうかな。

 「あとは乃亜ちゃん次第だよ、頑張ってね!」

 何か思いついたような私を見て、お姉ちゃんが背中を押してくれた。

 「う、うん……!」

 ——私は意を決して、静かにうなずいた。

皆様、本日もお疲れ様です。

約四か月ぶりの投稿になりますかね、思ったより早く復稿出来て嬉しい限りです!

肝心の体調はと言いますと……完全というわけではないのですが、ラブコメ見て軽くデュフれるくらいにはなったのでひとまず上出来かと思います笑

皆様、お体は大事にしてくださいね。

私は自身の不摂生が原因でしたので自業自得ですが、GW明けで五月病気味の方も多いかと思いますので、くれぐれもストレスには注意です!

……と、自戒はこのくらいにしておきましょう笑

仕切り直しまして、お読みいただき本当にありがとうございます。

こうして投稿再開出来たのも、こんな私の作品を読んでくださる皆様あってのことです。ありきたりの言葉かもしれませんが、これに尽きるのです。

まだ体調と相談しながらになりますので以前のようなペースで更新するのは難しいですが、本日よりぼちぼち投稿していきますのでよろしくお願いします。

悠と乃亜——二人の行く末を共に見守っていきましょう!

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― 新着の感想 ―
更新ありがとうございます。待ってました。お姉ちゃんの家住まわせてもらったらいいのにね。あんな毒親からは離れた方がいい。
 先ずは、お身体お大事になさって下さい。ゆっくりお待ちしておりますね。
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