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「というわけなんだが……」
どういった経緯で乃亜と交流を持つようになったのか。悠はその過程をかいつまんで二人に伝えた。
半ば呆然とする綾人に対し美月は終始落ち着いていて、乃亜は特に口を挟んでくるようなことはなかったが、美月に視線を向けられると気まずそうに俯いていた。
「うんうん、やっぱりねぇ……。のありんの嘘つき」
「なっ!」
「……嘘つき?」
「ううん、こっちの話!」
突飛な話であるにもかかわらず、美月は妙に得心がいったような様子だ。
その横で腕を組みながら『う~ん』と悩まし気にしていた綾人も、少しすると数回頷いて口を開いた。
「まぁ色々ツッコみどころはあるけど、悠らしいっちゃ悠らしいのかもな」
「どこがだよ」
「病的にお節介なとこ」
「うるせ」
「それにしても、まさか星月とはなぁ……。大学の連中が聞いたら死ぬほど羨ましがるだろうぜ?」
「って言われても、ただ疑われてるだけだしな……」
ただ純粋に乃亜が家に遊びに来るというだけなら、それこそ全男子にとって夢のような話かもしれない。しかし実際はそうではないのだと、悠が気落ちして答える。
すると、美月が何かを悟ったように『あ~』という声を漏らした。
「もがみんってそういう感じかぁ……」
「そうなんだよ、もったいねぇよな~」
少し残念そうに言う美月と、それにうんうんと同調する綾人を見て、何やら不名誉な理解をされていそうで腑に落ちない悠。
しかし、今はそんなことよりも聞くべきことがある。
「それで、家に来た本当の目的はこのことを知るためか……?」
「ん~そうかも。でも、もがみんと話してみたかったのは嘘じゃないよ?」
なぜ乃亜とのことを知りたがるのか。
続けてその理由を聞こうとしていると、乃亜が代わりに口を開いた。
「な、なんで……わざわざそんなこと」
「またまた~! そんなの、のありんを手助けするために決まってるじゃん?」
「手助け…………って! あ、あの話は違うんだって!」
慌てふためく乃亜を美月がまぁまぁと窘めるが、乃亜は不満げに頬を膨らませている。どうやら美月の行動の意図について、乃亜には思い当たる節があるようだ。
(でも、やめとくか……)
気になる悠であったが、二人の反応からして何らか女子同士の事情がありそうだと、それ以上の追及を断念した。
「つーかさ、なんで星月がここにいるって分かったんだ?」
「あ~、それはね! のありんなら絶っ対、バイトのこともがみんに言い訳しに来るだろうな~って思ったから!」
自らの思惑をズバリ言い当てられ、乃亜は恥ずかしそうに身を縮込めた。
「ん……? でもそれって、そもそも悠と星月との間に何かしらあるって知らねぇと——」
「なるほど、それでチェキか……」
「ピンポーン! まずお店入った時の二人の様子が変だったっていうのもあるんだけど、いっつも模範的なメイドを演じてるのありんが、チェキ一つであんなに恥ずかしがるなんておかしいもん」
普段あのメイド喫茶で乃亜がどのように振る舞っているのか悠は知らないが、乃亜には心当たりがあるようで、バツが悪そうに美月から顔を逸らした。
また、悠も迂闊であったと自省した。
「まぁまぁ、二人ともそんな辛気臭い顔してないでさ!」
美月はそう言いながら、傍らに置いていたビニール袋を手に取る。それをテーブルの上で逆さに持ち替えると、大量のスナック菓子が落ちてきた。
「あとは普通におしゃべりしよ!」
「そうだな!」
次々にお菓子の袋を開けていく綾人と美月。
一方でいまだ釈然としない悠と乃亜はポカンとしていたが——にぎやかな二人に乗せられるまま話をしていると、すぐに場が和んだ。
「もがみんも美月って呼んで!」
「美月……さん?」
「さん付けなし!」
「み、美月」
「合格!」
ほぼ初対面である面子もいたことから、改めての自己紹介に始まり——
「すご! のありんアイドルじゃん!」
「そんなんじゃないから」
三人とは学校の違う美月と、互いの大学の話で盛り上がった。
(たまには、こういうのも悪くないかもな)
珍しくガヤガヤと騒がしい部屋に少し辟易としていた悠であったが、慣れてくると楽しくも気兼ねせずにいられる空間に心地よさを感じていた。
また、乃亜の表情も普段より生き生きとして見える。
——その後も取り留めのない話題が続いていき、あっという間に時が流れた。
「うお、もうこんな時間かよ」
「ほんとだ! ん~……なんか話し足りないけど、さすがに帰ろっか~」
スマホを確認してみると、時刻は十時を回っていた。
このまま何時間でも話していられそうではあるが、明日も大学で講義があるため、各々帰り支度を始める。
そんな三人を、悠は玄関先で見送る。
「急だったのにありがとな、悠」
「めーっちゃ楽しかった! ねぇ、またそのうち来ていい?」
「いいけど、次からは事前に連絡くれると助かる」
「まぁ、先約があるかもだし?」
綾人がおどけるように言って乃亜の方をチラリと覗くと、乃亜は頬をほんのり桃色に染めた。
「じゃ、またな~」
「ばいばーい」
小さく手を振って立ち去ろうとする綾人と美月だが、乃亜だけは何か言いたげにジッとその場を動かない。
「バイバイ、のありん」
「う、うん」
美月はそんな乃亜を一瞥すると、優しく微笑みかけた。
——手を繋ぎながら歩き去っていく二人の背を見つめ、声の届かない距離になったのを確認すると、悠の方に向き直った。
「あ、あの……」
「ん?」
「昼に撮った写真……だけど」
(写真? ……ああ、そういうことか)
「あの写真なら消しとく……ってか、信用できないなら今ここで消すけど」
「そ、そうじゃなくて!」
悠がスマホの写真フォルダーを開き、メイド喫茶でのチェキを削除しようとしていると、乃亜が慌ててそれを止めた。
「それ……私にも送ってよ」
乃亜はボソッと呟くようにそう言うと、わちゃわちゃと忙しそうに手を動かしだした。
「ほ、ほら! 私、今日あんまり上手く笑えてなかったみたいだし!? だから今後の反省というかなんと言うか……とにかくそれだけ!」
「なるほど、真面目なんだな」
「お、お客さん相手にしてるんだから当然よ!」
「まぁ、そういうことなら」
悠はトークアプリを開き、乃亜に写真を送信する。
——改めて見てみると、あからさまな作り笑いが何とも滑稽で、悠は思わずクスっと笑みをこぼした。
「これ、俺も持ってていいかな? もちろん誰かに見せたりはしないから」
「さ、サービスなんだし……勝手にすれば」
遠慮がちに尋ねる悠に、乃亜はツンとそれだけ言い残して帰路に就いた。




