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モヤモヤの理由

 ——なんか、すごいモヤモヤする。

 「あの店員さん、新人かなぁ?」

 「なんかおどおどして、ちょっとかわいいよね~」

 私たちのオーダーを取り終え、カウンターへと戻る最上君。そんな彼を話題にして楽しそうにしている三人をよそに、私は相変わらず彼を眺めていた。

 別に、最上君に気があるとかじゃないけど……。


 軽くセットされた髪。

 オシャレな制服。

 丁寧な口調。


 いつも見ている最上君と雰囲気が違っていて

 なんかちょっと——

 「でもカッコよくない?」

 「んっ!?」

 「ちょ、乃亜ちゃん大丈夫!?」

 「……う、うん! ごめん」

 お水が変なところに入って、盛大にむせてしまった。

 ……恥ずかしい。

 って、違うでしょ! 

 あ、あんなの店員さんとしては当然だし? かっこいいとかじゃなくて……そう、普段とのギャップにびっくりしちゃってるだけ! 

 なんか大人っぽいな~とか、その程度!

 大体! いつもはもっとラフだし素っ気ないし、あんなに笑わ……

 ——あ、そっか。

 最上君って、笑わないんだ。

 私はふと、これまでのことを思い出してみる。

 最悪な出会いから始まって、最上君の家に行くようになって、一緒にご飯を食べたり、連絡先を交換したり、色々あった。

 それなのに……苦笑い以外で、彼がちゃんと笑った記憶が出てこない。

 な、なら——

 再びカウンターの方を横目で見てみる。

 そこにはさっきと同じ、最上君が可愛らしい女性のスタッフさんと、何やら楽しそうにお話している姿があった。

 ——なんで、あんなに笑ってるわけ?

 胸の奥のモヤモヤとした不快感が強くなっていく。

 イライラと、哀しみのような感情が胸を埋め尽くして、キュッと締め付けてくる。

 なんで……? 

 最上君が私といるときに笑うとか笑わないとか、どうでもいいでしょ? 

 私はそもそも、彼がどんな人なのか……あの日、本当にただ助けてくれただけなのかを知りたいだけなんだから。

 それ以上に、私が最上君と会う理由なんて——



 ——私は、不器用で何もできない自分が大嫌い。勉強も運動も、何もかも人並み以上に努力しないと上手くできない。

 それなのに誰かに必要としてもらいたいって、そんな浅はかな自分が……"あの人"みたいに出来ない自分が嫌い。

 私には何も出来ないし、努力したって誰も認めてはくれない。

 「ねぇね、乃亜ちゃんなら絶対いけるって……! 声かけてみなよ!」

 「え~? 恥ずかしいし無理だよ!」

 だからせめて愛想よくって、今までそうしてきた。


 『俺はそのくらいの方が好感持てるけどな』


 でも、違うの……?

 最上君がどういうつもりであんなことを言ったのか分からない。

 なんなの? 口説いてるつもり……? とか思って、『やっぱり信用できない!』ってなることもあった。

 でも最近じゃ、今みたいに思い出して胸がポカポカあったかくなっていく感じがして、その度になんかちょっぴり嬉しくなって……。

 あんなこと言われたの、初めてだから。

 でもやっぱり最上君だって男の子だし、口ではああ言っても、私みたいにぶっきらぼうな子よりあの店員さんみたいに可愛くて明るい女の人といる方が楽しいに決まってる。

 あんなニマニマしちゃって……。

「でもさ~、あの店員さんと付き合ってそうじゃない?」

「それな! あの人めっちゃ可愛かったし、なんかお似合いって感じする~」

 …………。

 いやいや、なにちょっと落ち込んでるの!?

 最上君が誰かと付き合って私が困ることなんて……き、きっとこれはアレ! もし最上君に恋人がいたりしたら会いづらくなって、そうなれば私の居場所が……って、そうじゃない。

 ——あ、あれ?

 ほんとに私、なんで最上君に会いに行ってるんだっけ……?



 「お待たせいたしました~」

 愛想笑いを浮かべながらゴチャゴチャになった頭を整理しようとしていると、さっきの美人な店員さんが人数分の料理を運んできてくれた。

 可愛らしくニッコリと微笑んだまま、料理をテーブルに並べていく。

 そういえば最上君は他で接客してたみたいだし、この人が作ったのかな……?

 彩り豊かなサラダが添えられたハンバーグプレート。

 柔らかいお肉と甘めのソースがよくマッチしていて、くどくなった口を瑞々しい野菜がリセットしてくれる。


 とっても美味しい……はずなのに。


 ——何となく複雑な気持ちがさっきまでのモヤモヤを更に大きくして、私はいてもたってもいられなくなった。

 

 



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