第6話 焼き芋。
「なんだチビ助、おらが、剣術の相手してやんぞ?」
お昼休みに木刀で素振りをしていたら、、、涼しくなったので、長いお昼休みは無くなったから、お弁当になった。通りがかったトムじいさんが、にかっと笑った。前歯が一本無いね。
トムじいさんは、その辺の枝の小枝を払って、構える。
「え、と、、トムさん、腰はもういいんですか?」
「ああ、、、おめえのとこの、犬ころと同じ名前の騎士さんが頑張ってくれたからなあ、、、ゆっくりできたわい。ほれ、構えろ。」
「はい。」
「いつでもいいぞ?かかってこい。」
僕は確かにチビだが、、、腰の曲がったトムさんが、同じ高さで剣を構える。大丈夫かなあ、、、、
一歩踏み込む。
トムさんの持っている木の枝がふわりとかわす。
踏み込む。
かわす。
踏み込む、、、、
「おい、遠慮すんな?全力で来い!」
両手で構えなおして、にやにや笑う前歯の抜けたトムさんを見る。
右手に緩く木の枝を持っている。隙だらけじゃないか?
僕は遠慮なく踏み込んだ。
・・・・・何の手ごたえもない、、、もう、むちゃくちゃに突っ込んだ。
はあはあ、言っているのが、自分の息だと解る。
「終わりかあ?何だ、おめえ、、テアより弱いな?」
「?????」
「テアのほうがもちいとやりがいがあるぞ?まあ、がんばれ。」
あ、こりゃちょうどいいか、と、独り言をいいながら、、、持っていた木の枝を杖代わりにして行ってしまった。腰が少し曲がって、、、、普通にただのお年寄りだ。
「????」
午後は引き続き、干し草を丸めて、ぎゅうぎゅうに縛って転がす。
家畜班の人たちが、荷馬車で取りに来るので、並べて置く。
干し草がチクチクするので、長袖、長ズボンに手袋、ほっかむりのタオル。
秋も深まり、涼しくなってきたが、動くと暑い。この格好だし、、、
僕が一つ転がす間に、フェリは3つくらい転がしている。
フェリに付いてきた聖獣様は、楽しそうに駆けまわっている。
畑班、と呼ばれる僕たちのいる畑の隣には、柵で囲まれた果樹班がある。
山から森を通って、獣が荒らしに来るらしい。それで、柵。
果樹班の皆さんが、夏場に刈り取った草を乾かしてあるので、今日はみんなでそこに来ていた。ころころ、、、、
少し前までは、脱穀の終わった麦の茎?を丸めていた。家畜の敷き藁にするらしい。
ころころ、、、、
さつまいも、の伸びた蔓も家畜のえさにするのかと思ったら、細かく刻んで畑に鋤き込んでいた。来年の肥やしになるらしい。
ここに来てから、いろんなことを学んだ。
いまさらだけど、、、いつも当たり前に食べていた物って、、、誰かが作ってくれたものなんだなあ、、、、それで、、それは結構大変な事。
そうだよね?冬、雪が降っても牛や馬や豚や、、、ご飯いるよね?僕たちも。
ころころ、、、、
畑の真ん中あたりで、煙が上がっている。
聖女様が焚火をしているみたいだ。
煙が高く空に昇っていく。ああ、、、本当にいいお天気だ。
聖女様の瞳のように、澄み切った綺麗な青だ。
*****
「焼けたわよーーーーー!!!!」
畑に残った麦の茎や森から落ち葉を運んで、聖女が芋を焼いたらしい。
助手は、ミラばあさんとテアちゃん。みんなの奥さん方も来て手伝っている。ぞろぞろと集まってきたみんなに、棒で芋を刺して配っている。トムじいさんも、もう座って芋を食べている。ちゃっかりしてるなあ、、、
奥さん方が配ってくれている大きなヤカンに入ったぬるいお茶を飲んで、もらった芋を食べる。あ、、、熱い、、、
半分に割ってみると、ほわっと甘い匂いがする。蒸したのと違って、つややかだ。
「あ、、、あちっ」
熱いけど、、、、スゴク美味い。
隣に座って、期待に満ち満ちた目で俺を見上げるフェンに、ふーふーして、芋をやる。
目線でライアンを探してみると、テアちゃんと並んで、手袋をしたまま芋を食べている。テアちゃんに手袋を片方貸したようで、、、、仲いいな、、、あいつら、、、
小さい子が他にいないからなあ、、、、
「・・・この冬は種芋、無事に越冬させるわよ、、、」
「って、言って、毎年失敗してますよね?これだってジャンが越冬させた芋でしょう?」
「・・・・まあ、、、ね、、、コツは聞いたわ。おととしは小屋で毛布にくるんだんだけど凍らせちゃったから。去年は寒くないように、台所に置いたんだけど、暖かすぎたみたいで、、、、腐った、、、」
「ぷふっ」
・・・トムじいさんの言葉は綺麗だな、、、他の人たちはなまりがひどいのに、、、、
前歯ないけど、うまそうに芋を食べている。
焦げた芋の皮を焚火に放り込んで、お茶を飲む。うまいなあ、、、
寝転がって、眺めてみると、結構若者もいる。
畑班にも何人かいるが、こうやって全員集合してみると、20歳前後の若者が15.6人はいるか?家畜班は力仕事なので、若者が多いらしい。畑も大変だけどね?みんなうまそうに芋を食べている。平和だなあ、、、、、
空が青くて高い。
芋を焼いた煙が、まだ高く昇っている。
*****
「腹ごなしに、打ちあうか?」
トムじいさんが言いだした。まあ、いいけど。たまには。その一声で、みんなやるきになっちゃったし。
「若いもんには負けねえぞ!」
さっきまで芋が残っていないか、焚火をかき混ぜていた木の枝を構えるトムじい。
みんな慣れたもんで、円陣が出来る。
「誰からだ?」
「はい!」
自前の木刀を持って、ライアンが進み出る。
あっという間だった。剣を、、、、棒切れを合わせたとたんに払われる。
「はい!」
次に家畜班の若者が出る。これも同じ、、、あっという間に払われる。
・・・・無理しすぎじゃない?トムじい、、、
5人ほど終わったところで、ジャンじいに替わる。
面白いほどサクサク終わる。木の枝だけど。
ミラばあさんも、土手に座って、面白そうに見ている。
「え、、、、俺も?」
高みの見学を決め込んでいたライアンの護衛騎士が、名指しで呼び出される。
ふふん、、、
「さて、ジャドウ国のお手並み拝見かな?」
あおってるねえ、、ジャンじい、、、
「はあ、、、、」
あおられたフェリは、、、いたって通常営業、、、
棒切れを合わせて、打ちあう、、、、互角か?どちらも笑いながら打ちあってるのが不気味だわ、、、
「・・・へえ、、、、だてじゃないんだな?」
ジャンじいが、突っ込む。
木の棒が、青い空に吸い込まれる。やんや言っていた観衆が静まり返る。
「・・・・・」
「あら、まあ。」
ミラばあさんが笑っている。
「ジャンが負けちゃったわよ?お前、なまってるんじゃない?仕方ないから、エレナ、出なさいな。」
「ええーーーーーあたしいいーーー??」
思いもしなかった展開に、、、みんな声も出ない。
仕方がないので、ジャンじいが使っていた木の枝?を拾ってくる。
「お手柔らかにね?」
「え?お前と?」
「手加減してね?」
にっこり笑いながら、剣を、あ、木の枝を振る。
何度か打ちあって、ふっと力を抜く。遠慮なく突っ込んできたフェリの棒切れを、身体ごとかわして、背中にけりを入れる。ドスッ、と、凄い音がする。折れたかな?
「あ?」
短く叫んだフェリのシャツに、私のブーツの跡がくっきりついてしまった。足の形に痣になるかもねえ、、、、折れてないといいね。
「はい。勝負あったわね。勝者、エレナ。ご苦労さん。」
ミラばあさんの声に、観衆が湧きたつ。
いいお天気だなあ、、、、