第4話 労働力。
「おめえ、こっちだ。」
「もっと、腰入れてやれや。あはは」
ふえええ、、、と、汗をぬぐう。人使いが荒い。剣は使っているが、鎌は初めてだ。まあ、刃物には違いないか、、、
皆さん、もくもくと麦を刈り入れていく。慣れるのか?これ?
「おい、若けえの、お茶にすんべえ」
日が昇ると始まった、麦の刈り取り。2時間に一回くらい休憩が入る。
3回目の休憩はお昼ご飯になるので、みんな家に帰って行く。昼寝して、夕方から日が暮れるまでまた仕事。
帰って、外井戸の水を浴びていると、フェンが駆け寄って来て、一緒に水浴びになる。ぶるぶるっと、水をはじくフェン。真似して頭を振ってみる。水滴が飛び散る。
きらきらしてきれいだ。
エレナが用意してくれている昼ご飯を食べて、、、今日はライムギパンの卵サンドだった、、井戸水で冷やしてあるお茶を飲んで、フェンと昼寝。農家はある意味効率的だ。あまり暑い時に畑に出たりしない。朝も早いしな、、、、
ゴロゴロしていると、ライアンが帰ってきた。
「おかえり。」
ライアンは未だにフェンにびくびくしている。喰われると思った第一印象が消えないらしい。俺の隣で長くなって寝ているフェンに、驚いているみたいだ。
この子ももう慣れたもんで、自分でお茶を出して飲んで、サンドイッチをほおばる。
自分のことは自分でやれ、と、聖女様に言われたから。
「ねえ、、フェリ?聖女様は手伝ってくれたら一緒に僕たちの国に行くって言ってくれたけど、このお手伝いはいつまでなのかな?」
「ああ、、、、麦を刈り入れて、干して、脱穀して、粉にひいて、、、、いつだろうな?」
「・・・・・」
「そのあと、来年用の畑の準備と、ジャガイモとさつまいも?の収穫があるらしいぞ。」
「・・・・」
「そしたら、さつまいも?をご馳走してくれるらしい。芋だろ?うまいのかな?」
「・・・・・」
「それから、冬に向けて、家畜用の牧草の刈り入れ、乾いた木を暖炉用に割る。山から木を切って来て来年用に乾かす、、、、」
「・・・・」
「そしたら、雪が降ってくるから、年寄りの家の雪片づけ、、、忙しいな?」
「・・・・」
「どうされました?疲れましたか?」
「いえ、、、働かないと食べれませんと聖女様がおっしゃいましたから。尊いですね。僕の所には、ミラさんの6歳のお孫さんも働いています。」
「・・・ああ、夜、殿下と一緒に勉強している子供?」
「そう、、、テアちゃん。あの子が泣きごとを言わないのに、もうすぐ10歳になる僕が、泣き言は言えません。」
そうね、、、まあ、なれの問題もあるけどね?
夕食が終わったあたりの2時間ほど、テアちゃんと殿下は、エレナにみっちり勉強を教わる。殿下は、この国の言葉が今一つなので、大陸公用語で行われるそれは、なかなか実用的なもの。小さい子には大変かも、、、眠いからね、、、
*****
「なあ、おい。聖女様よ?」
「・・・・聖女じゃない。エレナよ。あんた?バカなの?いつになったら覚えるのよ?」
「だって、、、あんな小さな、いたいけな子供の夢を踏みにじるのか?可哀そうだろ?」
にやにやして、護衛騎士が言う。手には、フェンのブラシ。手は休まない、、、おかげでこのところ抜け毛が散らからない。好きだな、、、こいつ、犬、、、
「お前、何もんだ?公用語も、ジャドウ語も使えるんだな?」
今日の分の勉強が終わったので、テアはおばあちゃんのところに帰った。すぐ隣の家だけど。ライアンも、座りながら舟をこいでいたので、さっきこいつが寝かせに行った。
私は明日の朝食の仕込み。人数増えたし。
「え?あんただって、使えるでしょ?エタンのなまりがあるわね?出身は北部?」
「・・え?・・・ああ、、、、」
「エタンは大変だったわね、、、ジャドウが攻め込んで、、、確か、王女を一人、ジャドウの王の妃に出して、ようやく停戦になったのよね?」
「・・・・」
よっこいしょ、と、パン生地をひっくり返してこねる。
「その王女の息子だ、、、ライアン殿下、、、、」
「ああ、、、それで、、なるほどね。使い捨ての駒、、、にもならないか、、、教育も、あなたが?」
「・・・・・」
「でも、素直でいい子に育ってるわ。護衛騎士のおかげかしら?」
「・・・・フェリだ。」
パン生地をこねて、、、少し寝かせる。
「お茶飲む?」
「ああ。」
「そう言えばさあ、、あんたさあ、、、、何度も言うけど、ベットにフェンを連れ込まないでよ!」
フェンはブラシを十分堪能したのか、お腹を出して寝ている。
コトリ、と、お茶の入ったカップを置く。
「シーツが毛だらけになるからやめろ、って、、、何回言ったらわかんのよ?」
「・・・・聖女様が洗ってくれるわけじゃないだろ?自分で洗ってるし。」
「聖女じゃないし。それに、、あの子と一緒に寝て、、、暑くない?」
「・・・・暑い、、、、凄く暑い、、、」
「・・・・バカなの?」
「・・・・・」
フェンはこのところ、私の寝室を夜中にそっと抜け出して、この護衛騎士のベットに忍び込んでいる。朝早く、何事もなかったかのように、私のベットの下の自分の寝床に戻って、、、、ずっとここで寝てましたけど?みたいな顔をする。こいつ、、、、
ここでフェンを叱っても、なにに叱られたか分かんないだろうなあ、、、と、思う。
真っ黒な瞳をくりくりさせて、少し首をかしげる。
何か?問題が?みたいな顔で、、、、まあ、、、いいか、、、
この男のどこがそんなに気に入ったのか、、、いい遊び相手、だと思ってるんだろうなあ、、、、
仕事ぶりも良いようで、畑班のジャンじいが喜んでいた。
この前は、家畜班の豚の出荷に駆り出されていたし、逃げた牛探しにも行ってたなあ、、これからもう少ししたら、果樹班でリンゴの収穫かあ、、、、使える!!!
思わぬ掘り出し物だわ、、、、ジャドウ国がらみじゃなかったら、作業員でスカウトしてたわね。