第19話 番外編 ミラージュと言う娘。
若かった。
まだ皇太子だった。帝国はそれなりに安定していたし。有力な州から娶った正妃も、バランスを取るための側妃もいた。子供も何人か。そんなもんだろうと思っていた。
ソラル国の招待を受けていた皇帝に代わり、なんかの祝賀会みたいなパーティーに出ることになり、ついでだから、いろいろ見ようと、3か月くらいの予定を組んだ。
あの人に会ったのは、そのパーティー。
流れるような金髪に、意志の強そうなブルーの瞳、、、ソラル国の王女、ミラージュ様。
すぐにダンスを申し込んだ。一曲。
ほんの少し日に焼けて、健康的だ。剣もたしなむのか、筋肉のつき方が、、、良く知る令嬢達とは違う。そうして、その美貌、、、、
耳元で口説いてみるが、そっけない。
「申し訳ございません、、、私、他の女性と夫を共有する心の広さは持っておりませんので。」
そう言って、きっぱり断られてしまった。ますます興味を持つ。
宝石にドレスに花、、、、毎日のように贈り続けて、、、毎日送り返されてきた。丁寧な手紙付きで。
僕は、こういってはなんだが、、、自分に自信があった。容姿、財力、権力、もちろん知識、教養、、、女は向こうから寄ってきた。
この女?なんなんだろう?
国王にお会いする機会があったので、王女に求婚したいと申し出た。
「ああ、いいよ。あの子が良いと言えば、ね?」
意外とあっさり言われた。そうだろう、、、この国だってジャドウ国とのつながりが欲しいだろうし、、、僕はすっかり、その気になっていた。
「今、人手が足りないと言っていたから、、、あの子の領に手伝いに行ってみたらいい。」
父公認?財務管理とかだろうか、、、お手の物だ。
僕は軽い気持ちで、彼女の領に出掛けて行った。
僕を含めて、供の者、20人くらい?大歓迎された。
「来てくれて嬉しいわ!!!」
そうだろうそうだろう、、、、そんなふうに思ったのは、その日のうちに覆った。
「さあ、着替えて。この人数なら今日中にジャガイモの植え付けが終わるわね!!」
「・・・・・」
「明日から、家畜用の柵の補修を始めるから。」
「・・・・・」
「ニコラ!大変よ!晩御飯20人分追加ね!!」
ニコラ、という子はせっせとみんなのご飯を作り、薪割をし、風呂を沸かし、、、よく働いている。下僕か?楽しそうにやっている。ミラと一緒にパン生地をこねたり、、、畑に人が足りないと畑に。果樹の摘果もやっていた。逃げた牛も追っていた。夜は帳簿もやっていた。黒髪に緑の瞳、、、平民には珍しい色だな。
・・・・大変だな、、、
良く働いた。良く食べ、酒を飲まなくても秒で寝た。
朝日とともに起こされ、夕方陽が落ちるまで、、、、やることは沢山あった。
領内で働く人たちも、老若男女、よく働いている。
不思議に思ったことは、、、みんな言葉がきれいな事と、俺と話すときにきちんとした敬語が使え、礼儀作法も、、、
「なあ、ミラ?ここの領民たちは礼儀作法の勉強もさせているのか?農民なのに?」
「あら?農民、ではないわ。正確に言うと、農民だけど、庶民ではない、かしら?」
「ん?」
「ここは、貴族の矯正施設なのよ。今は、志に共感してくださった人も手伝いに来てくれているの。やんちゃが過ぎて親の手に負えなくなったご子息とか、金遣いの荒すぎるご令嬢とか、、、もちろん貴族、持てる者はお金を回さなければならないから、お金を使うのはいいの。ただ、度が過ぎると、自分のために重税を課したり、民を考えなくなってしまうでしょ?」
「ん、、、ああ、、、」
「ここで、最初に何が必要か学ぶのよ?うふふっ、、」
「最初に?」
「そう、、、まず、種をまく。木を植える、、、そして育てていく。人間も同じでしょ?
栄養を与えすぎても、足りなくても、上手く育たない。」
「・・・ああ、、、」
「うちみたいに小さい国だからできることよね。警備も必要だから、僻地のほうが都合がいいのよ。逃げ出した子も、どこにもたどり着けずに、戻ってくるわ。何が必要かも、極限状態のほうがわかりやすいしね。社交や教育も兵法も、、、もちろん教えているわよ?」
「はあ、、、、」
「近々、制度化して、貴族子女は徴農制にしたいの。今は、その準備段階ね。」
貴族の子女ね、、、、皆、こんがりと日に焼けて、楽しそうに働いている、、、
面白い試みだね、、、
「だんだんご飯ですよーーー」
ニコラが良く通る声で、畑仕事をしているみんなに声を掛ける。
食後に、ニコラにお茶を出してもらって、ミラの隣に座る。
「ねえ、、ミラージュ?だんだん僕も帰るんだけど、、、、、一緒に行く気になった?ここの運用だって、王女自らやらなければいけないことでもないデショ?」
「行かないわよ?お断りしましたよね?」
「国王は良いと言ってくれたよ?君さえよければ。正妃の座を開けるし、、、」
ミラの金色の髪を指に絡めてもてあそび、、、髪にキスをする。
「そうね、あなたは畑仕事を馬鹿にしない寛容さも持っているし、供の者との信頼関係もあるみたいだしね、、、でも、無理よ。私、好きな人がいるの。やりたいこともあるし。」
「それは、ジャドウ国との親和条約とかよりも価値のあるものなのかい?」
「そうよ。私にとってはね。」
「じゃあ、、、例えば?僕が、兵を連れてこの国に入って、従属させれば?君は断れないよね?ふふっ。」
自分でも、ずるい言い方だと思う。プロポーズとかいいながら、只の脅しだ。そのくらい、国力の差がある。王女ならわかっているはず。ね?
「やってごらんなさい。私が止めて見せるから。一人残さず、殺して差し上げます。」
にこやかに笑いながら、ミラージュが答える。鳥肌が立った、、、こいつ、、、本気だ、、、本能的に、、、、逆らってはいけないものだと、、、、
何事もなかったかのように、優雅な仕草でお茶を飲むミラを見つめた。
*****
愚息が、、、まあ、国威掲揚?を目指したんだろう、自分の評価が低いことを自覚しているのか?、、、、ソラル国に出兵させた報告は上がっていた。エタン国国境付近での小競り合いも続いている最中、1500の兵を動かした。ソラルには近づくな、と、あれほど言ったのに。
その後の報告に、息をのんだ。
不意打ちを狙ったんだろう、山脈越えの山道から侵攻したらしい。出た先は、ミラージュの領地だ。
「1500の兵、全滅です。自然災害に巻き込まれたようです。一人の生存者もないようです。」
報告を受けて、、、ミラの最後の言葉を思い出す、、、そしてあの笑顔、、、、
鳥肌が立つ、、、、
俺は、、、とんでもない女神?いや、、、魔王に求婚していたようだ。




