海の秘密
そこの、あなた。
……ええ、あなたです。
ちょっとだけ、お話…しませんか。
お時間は取らせませんよ。
ありがとうございます、では…失礼。
あなた、ヒミツとか…お好きですか?
ええ、謎だとか、都市伝説だとか、そういう感じのモノです。
私、とびきり上等な情報を持っているんですよ。
……はは、確かに怪しいでしょう。
でもまあ、真実ってのは…こんなもんです。
あなたに、海に隠されている秘密を教えてあげましょう。
……とっておきの秘密ですよ。
誰も知りません。
この先も、知る人はいません。
あなた以外は、ね。
あなたにだけ、教えてあげるんです。
まあ、あなたが広めるというのであれば、秘密はいつか常識に変わるかもしれませんが。
海はね、実は…。
え、なんです?
どうしたんですか?
なぜ、耳を塞ぐんです。
聞いとけばいいじゃないですか。
誰も知らない秘密…聞きたいでしょ?
少しばかり驚くかもしれませんが、想像できない内容ではないですから安心してください。
大丈夫、聞いても心臓はとまりゃしません。
身近な海の、ただの…ものすごい秘密です。
まさか海にあんな意味があったなんてと、驚けると思いますよ。
意外と都市伝説も当たらずと雖も遠からずなんだなって腑に落ちると思いますよ。
のんきに海に入る人を見て、何も知らない奴らは幸せだなって上から目線で見下ろすことができますよ。
何憶何千万という人の中から、あなたを選んで教えると言っているんです。
……聞きたいでしょう?
……はは、何も対価なんていただきませんよ。
いただくのは、この貴重なやりとりだけです。
疑う気持ち、飛びつきたい衝動、頭の中で蠢く妄想…すべてが私の糧になっておりますのでね。
ほら、見てくださいよ…この私の肌を。
栄養分が行き届いて、こんなにもみちみちと…ふふ。
実は、この世界の海は…って。
ちょっと、どこに行くんですかー!
……ああ、また失敗だ。
秘密を渡して、楽になりたかったのに。
秘密なんて、知るもんじゃない。
それを知るのは自分だけでいいのに……、うまくいかないな。
……一人に秘密を渡そうとするから、いけないのかもしれない。
ごく自然に、偶然を装って秘密を広めたら……あるいは。
……あるいは。
。
。
!!
。
!!!!!!
……ああ、無念だ。