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長い物語の終わりはハッピーエンドで  作者: 志麻友紀
長い物語のおわりはハッピーエンドで
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第9話 背中合わせの光と闇 その2




「宰相、これは一体どういうことですかな?」


 王宮、宰相の執務室に、表は黒、裏は赤のマントを翻したパウルス将軍の姿があった。


「私は近衛を動かすことを承知しておりませんぞ」


 どんと執務机を拳で叩く。

 ヴィルタークの逮捕を、パウルスはあとで聞いた。動かされた近衛兵の赤い制服をまとった者達は、すべて侯爵が金でやとった私兵であって、近衛副隊長もこの侯爵の手駒であった。

 だとしても、軍は将軍の管轄にあり、宰相から将軍に命が下り、彼が近衛に指令を出すのが順番であった。


「すまない、将軍。今回は殿下に暗殺の魔の手が伸びているという情報があってな。王都に戻られたならば、その御身が危ないと。

 そこで私の独断でゼーゲブレヒト騎士団長の身柄を拘束させてもらった。

 残念ながら、陰謀は事実であったようだ。騎士団長の友人であるピュックラー伯爵がこの陰謀の首謀者であり、現在逃亡中なことでもわかるであろう?」

「しかし、その陰謀をゼーゲブレヒト騎士団長が知っていたとは限りません。ただの疑いのまま、彼を処分すれば、聖竜騎士団がどのような反応をするか」


 聖竜騎士団は国の要である。その団員をまとめることが出来るのは、現状ヴィルタークだけなのだ。歴代の団長の中でも、初代英雄王ジグムントと並び立つと言われるほどの英傑。


「私はゼーゲブレヒト騎士団長をその力量だけでなく、高潔な精神からも評価しております。彼が王位を狙うことなどありえない。たとえ、あの知謀のピュックラー伯爵がそそのかしたとしても、動かぬはずです!」

「だからだよ、将軍。私も彼の無実を信じている」

「でしたら!」

「だが、今は彼を解放するわけにはいかない。この陰謀の加担者のすべてを処分し、皇太子殿下が聖女様のご神託受けて、王となれるまでな。

 それまではゼーゲブレヒト騎士団長にも、聖竜騎士団にも辛抱してもらわねばならぬが、嫌疑が晴れればその後は将軍同様、陛下となった殿下を支えてもらう」


 あくまで騒乱がおさまるまでの“隔離”であると、宰相は将軍に繰り返し説明する。その口許には穏やかな微笑さえ浮かべて。


「その証拠でもないが、ゼーゲブレヒト団長は王宮の一室にて謹慎してもらっており、地下牢になど放り込んではいない。

 もちろん、面会も可能だ。将軍が希望すれば、い 

つでも会うことは出来るが?」


 そこまで言えば「いいえ、私はそれほど彼と親しくはありませんから」と将軍が引き下がる。

 そして、鷹のような風貌の宰相を真っ直ぐに見て。


「私の忠誠は王家に、献身はこの王国に捧げております。宰相閣下もそうだと信じておりますぞ」

「もちろんだよ、将軍。私も王家の将来と、この国の未来をいつも考えている」


 将軍の言葉は心からのものであり、宰相のそれはとうてい本心で言っているとは思えなかったが、将軍はそれでも一礼をして、去って行った。

 彼が部屋を出て行ったあと、宰相はしばらく動かず。


「忠義者の将軍様としては、王家と国のためを思えば思うほど、身動きがとれんだろうな」


 おかしいとばかり、くくく……と笑った。




   ◇◆◇ ◆◇◆ ◇◆◇




 なにかおかしいとノリコは不安だった。

 湖に雨を降らせて、聖女としての大きな役目を終えて帰ってきた王都の王宮は、どこか浮き足だっているようで、人々の態度もなにか上の空だ。


「どうかしたんですか?」


 とメイド達に聞いても「なにごともありませんわ、聖女様」とばかり。トビアスはあいかわらず優しい言葉をかけてくれるけど、到着して明日には行われるという、教会から聖女として正式に認められるという儀式と、それから彼を次の王様だと告げる。その儀式の準備に忙しい。

 それでも、夕食前には「聖女の機嫌はいかがかな?」と訊ねてきてくれたけれど。


「あ、あの、明日の儀式が終われば、わたし、元の世界に帰れるんですよね?」


 今のノリコはそればかり考えていた。一月ほどの夢の時間に浮かれていたけれど、夢は夢で、お父さんやお母さんや、友達にも会いたい。

 ここではみんな優しい言葉をかけてくれるけど、それは自分が聖女だからなのだと、この少女も薄々はわかってきていたのだ。


「もちろんだとも、ノリコ。すべては女神アウレリアの思し召しのまま。この私を王へと指名してくれ」

「は、はい。それはわかってます」


 彼はこの国の皇太子殿下で、次の王になることは女神様の思し召しなのだと、神官達にも言われていた。まだ子供の彼女は、だったら、なぜ自分が彼を次の王だと言わなければならないのかさえ、わかっていなかった。

 綺麗なドレスに優しい人達、勉強もしなくていい。そんな夢の世界に浮かれていた少女だが、どこか漠然とした不安を感じるようになっていた。


「ではな、明日、玉座の間で会おう、ノリコ」

「あ……」


 まだ、聞きたいことがあったのに、浮かれた調子でそのまま行ってしまった、トビアスに手を伸ばして、ノリコは不安げに俯いた。






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