魔触機装 ep7 sisyo's home
真っ白な視界に徐々に映しだされたのが、見たこともない民家だった。
「ここが我が家か?」
「そうです師匠の家です!」
レイリアナが同意したことによりここが、師匠の家であることは確信した。
「結構狭く感じるな」
「さっきまでいた場所が広かったですからね。
さあ、師匠立ち話も何ですし中に入りましょう」
そう言ってレイリアナは、扉をノックする。
「シオンさん!
師匠が帰ってきましたよ!」
しかし、反応が無い。
「あれ?
おかしいですね?」
そう言ってレイリアナは、空を見上げる。
「もうじき夕方になりそうな時間帯なのにいないなんて」
レイリアナそう言って首を傾げて家を見ていると家の中からドタバタ音が聞こえてきて扉が勢いよく開かれた。
「シショウ!」
その第一声に僕の頭は真っ白に染まった。
そんなことはいざ知らず突撃するように
師匠の妻であるシオンが抱きついてきた。
余りの衝撃に後ろに倒れてしまうが、彼女と僕との体勢を固定するために咄嗟に抱き留める。
「ただいま」
ふと、そんな言葉が出てきてしまった。
その言葉を聞いたシオンは、盛大に泣き始めた。
僕の胸を激しく叩きながら。
痛い、胸が、痛い。
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彼女が落ち着いた所で、家の中に入る。
レイリアナは、とても気まずそうな顔をしている。
これほど喜んでいるシオンに僕が記憶を失っているなんて事を言い出せずにいるのだろう。
シオンが僕に抱きついた状態で眠ってしまっている事もこのなんとも言えない空気の原因だろう。
彼女に伝えるべき事があるのだが、それを伝えるために今起こすのも憚られる。
とても幸せそうな寝顔をしているのだ。
尚のこと今はこの状態で……。
「いやぁあああああ!!」
絶叫が、家中に響き渡る。
耳を塞いでなお、若干のダメージを受けたレイリアナは勿論のこと。
更に近くにいた僕の耳はもはや耳鳴りしか聞こえない。
それでもシオンを落ち着かせる為に頭を撫でる。
するとシオンは、叫ぶのを止めてこちらを見る。
「良かった!
夢じゃなかった!」
シオンは、そう口を動かしてこちらに抱きついてくる。
耳鳴りのせいで声は聞こえないが、口を読むことは出来た。
師匠の体は性能が高い事がよく分かるな。
取り敢えずシオンの頭を撫でてやる。
もぞもぞ動いているが、どうしたんだろうか?
耳を塞いでいたレイリアナが、シオンに話し掛けて来た。
シオンは、振り向いてこちらの耳に口を近づけてくる。
「聞こ…る?」
シオンは、顔を離してそう言いこちらの反応を確認する。
「ああ、分かるよ」
微かに声も聞こえた。
けれど声だけでは、言葉を拾いきれない。
シオンがこちらを見てくれるので、口を読むことにする。
「良かったシショウが生きてるって確信はしてたけど、帰ってこないんじゃないかって心配してたの」
「悪かったな心配かけて」
「いいのこうしてシショウが戻ってきたんだから問題ないわよ」
シオンは、そう言って笑顔を見せる。
「もう、何処にも行かないで」
「分かったよ」
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二人を置いて、外に出るレイリアナ。
『いいのか?
二人を置いて出ても』
「少しの間だけですよ。
師匠は、記憶喪失なので心配ですが、シオンさんの思いも分かりますので」
『そうか。
それで、何所に向かうつもりだ?』
「冒険者ギルドです。
私をこんな目に遭わせた奴を許したりはしない」
こんな目と言うのは、両手両足を切断されたことだろう。
『冒険者ギルドで何をするつもりだ?』
「お金の引き落としです」
『お金の引き落とし?』
「ええ、何かをなすには先立つものが必要です。
これでもそれなりに蓄えがあるので、それを活用します」
『そうか』
「正直、諦めてました。
師匠が入った場所に逃げ込めたのは良かったけど生きて出てこられるなんて思いもしなかったんですよ」
まあ、確かにあのまま僕が助けなければ死んでいただろう。
「だから、もし、生きて帰って来られたなら。
必ず復讐してやると誓っていました」
当然の帰結だろう。
やられたのならやり返さないと気が済まない。
「しかし、どうやって復讐したらいいでしょうか?」
『どうやってということは復讐が難しいということか?』
「ええ」
『相手が強いということか?』
「いえ、私でも簡単に殺せます」
『では、何が難しいんだ?』
「相手は上級貴族で護衛には師匠の攻撃に耐えたことがある人物が居ます」
基準がよく分からないな。
『その人物は、レイリアナにとって倒せない人物なのか?』
「そうですね。
戦えはしますが、絶対に勝てない相手です」
『僕が一緒でもか?』
僕の言葉にレイリアナは、思案する。
「それなら勝てるかもしれないです」
『なら、問題は無いじゃないか?』
「いえ、それだけでは無いです。
私が、その貴族を襲撃すると師匠にも迷惑が掛かります。
そして、シオンさんにも」
ああ、あんなになってまで助けた師匠の待ち人だ。
何かしら思い入れがあるのだろう。
『成る程、それならやることは2つだ』
「何かいい案があるのですか?」
『案と言うほどでもないが、一つは殺したと分からないように殺す』
「暗殺ですか。
難しいですね。
厳重な警備を抜けないと殺せないでしょうし」
『もう一つは、その貴族の敵対的立場の人間に取り入るか』
「取り入る……ですか」
レイリアナは、表情を硬くする。
『そちらは止めておくか?』
「いえ、あいつに復讐するためなら何でもします」
『そうか。
なら二つの線を両方見るか』
「暗殺と暗躍?」
『まあ、そういうことだ』
「暗殺は、出来るけど暗躍は苦手です」
『そちらは、僕が手伝ってあげるよ』
「手伝うってどうするの?」
『暗躍の基本は情報収集、その情報に基づいてアプローチを仕掛けるのが重要な事だ』
「何でそんなこと知ってるの」
『……何故かな?』
「私が聞いてるのに」
『ゴメン、でも僕にも分からないんだ』
「そう、それは、ごめんなさい」
『いや、いいんだ。
一先ず冒険者ギルドによってから森に行こう』
「森に?」
『ああ、さっきも言ったが暗躍の基本は情報収集。
だから情報を集めるための手足が必要だ』
「それは、どういう」
『要するに鳥を捕獲したいということだ』
「鳥、分かったわ。
冒険者ギルドで、お金を下ろしたら森に行きましょう」
『ああ、よろしく頼む』