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魔触機装 ep9 帝国へ

 見事な装飾が施された扉が叩かれる。

「入れ」

「失礼します」


 扉が開かれると執事服の男性が入って来た。


「どうやら、あの娘が生きていたようです」

「なに?」

「それにどうやらこの国から出て行くようでして」

「それはまずいな」


 派手な衣装を身に着けた男性は、そう言って手に持つワインを飲み干した。


「よし、刺客を送れ」

「しかし、あの時、あれほどの戦力で仕留めきれなかったのです仕留めることができる者がいますか?」

「いや、今だからこそだ。

 今ならまだ消耗しているはずだ。

 仕留めるなら今のうちに」

「分かりました」


 執事服を着た男性は一礼して引き下がる。

 書斎の扉が閉じた時、男性は独り言ちる。


「やれやれ、シショウお前は全く面倒な存在だよ。

 弟子まで厄介だ」



 ☆★☆★


「よいしょっと」

 レイリアナが、持ち上げたのは、木の箱だ。

 ただし大きさは彼女の大きさと同じほどはある。


「ごめんなさいね」


 シオンはそう言うと馬車の上から心配そうにこちらを見る。

 レイリアナが、している作業は、シオンの荷物を馬車に積み込むことだ。


「いえ、シショウ達には恩がありますからこれくらいなんでもありません」

「ありがとう」

「レイリアナ、準備は出来てる。

 シオンも乗ってくれ」

「わかったわ」

「シショウ、武器は持たなくていいんですか?」

「レイリアナがいるから大丈夫だろう?

 いざとなれば殴って何とかする」

「はあ、シショウ脳筋が過ぎますよ」


 レイリアナは呆れたようにため息をつく。


「でもまあ、確かにそうですね。

 でも短剣ぐらいは持ちましょう」

「む、そうだな」


 シショウは、家に戻り簡素な短剣を腰につけて来る。

 帝国までの道のりはそう簡単ではないはずだ。

 レイリアナを裏切った貴族が動かないとは思えない。

 シショウに武器を持たせたいところだが、


『シショウは何の武器使っていたんだ?』

『普段は剣だけど、槍、斧、弓、なんでも使ってたよ』

『殴ることはあったのか?』

『ま、まあ、なくはないけど、趣味の分類って言ってたね』

『そうか』


 困ったな。

 僕は、魔法はもちろん、武器の類は使えない。

 よって、今のシショウ、つまり分身体の僕も当然のごとく武器の扱いは全然できない。

 さて、どう誤魔化したものか。

 まあ、戦闘になったら僕とレイリアナで何とかすれば大丈夫だろう。


「レイリアナさんも乗って下さい」

「はい、わかりました」

「じゃあ出発しよう」


 御者台に乗ったシショウは、手綱を握る。


「よろしくお願いします」

 シオンがシショウの隣に座っているので後ろから乗り込んだ。

「おーい待ってくれー」


 そんな声が聞こえてきた。

 声の方を見るとギルドマスターが血相を変えて走ってきたのが見えた。


『どうしたんだろう?』

「あ、シショウ、顔隠して!」

「あ、ああ」


 ギルドマスターは息を切らして走ってきて馬車の横で止まり息を整える。


「どうしたんですか血相変えて」

「お前たち、帝国へ行くのだろう?」

「ええ、でもどうして」

「まあ、今のお前たちにとって一番安全なのは帝国だからな。

 それはいい、それよりお前たちに刺客が向けられた可能性がある」

「それはどうして」

「理由は正直わからん。

 お前たちの方が分かっていると思うんじゃ。

 それよりも重要なのは、旅の途中で襲われることだ。

 帝国までは長い。

 だから冒険者を雇わないか?」

「なんで?」

「儂の下にいた冒険者を殺されるなど万が一にもあってはならんからじゃ」

「それはどういう事?」

「冒険者ギルドの威信もあるが、可愛がってた冒険者を殺されかけたんじゃ。

 二度はない」


 ギルドマスターの目は、燃え上がっていた。

 どうやら本当に許せないようだ。


「でもなんでわかったんですか?」

「独自のルートじゃ。

 長く生きているとそう言った繋がりもできる」

「いえでも大丈夫です」

『受けないのか?』

『ええ、ジョンを使うところ見られたくないし。

 シショウのこともある』

「そんなことを言わずにお前さんとなじみのあるグロリアが来てくれるそうだ。

 だから少し待ってくれんか?」

「大丈夫です」

「ぐぬぅ」

「し……出して」

「わかった」


 しょんぼりしたおじいさんを置き去りにして馬車は走り出す。


『何事もなければいいが』

『そうねジョン。

 でも何があってもあなたが私に着けている限り大丈夫』

『そうだな』


 そうだといいな。


 ☆★☆★


 馬車を走らせていると倒木が道を塞いでいたので止まらざる負えなくなった。

 シショウが声を漏らす。


「これはまた、見事に」

「どいて、私がやるわ」


 シオンがそう言うと杖を構える。

 そして呪文を唱え始めた。


「我、シオンの名のもとに命じる、風よ障害を切り裂け、ウィンドカッター」


 シオンの唱えた魔術により見えざる刃が倒木を切り刻んでいく。


「危ない」


 シショウがそう言うとシオンを抱いて空中で何かをつかんだ。


「矢!?」


 レイリアナは驚く。


「敵は何処に?」


 周りは木々が生い茂っていて敵の姿を視認できない。

 いや、藪の中から複数の男が姿を現した。

 シショウは表情を引き締めて呟く。


「盗賊か」

『弱ったな。

 敵の数が多い』


 別に負けるとは思わないが、馬車を守りながらとなるとかなりつらいものがある。


『ジョン』

『ああ、どうやらやつらの狙いは荷物ではなさそうだ』


 盗賊らしき男たちは今度は火矢を射かけてきた。


「我、シオンの名のもとに命じる、風よ守護の結界を」


 シオンが魔術を展開して火矢を防ぐ。

 風の防壁は矢の狙いをそらすだけでなく結界の回りを回って敵に向かっていった。

 一本の矢が一人の男に当たる。


『これなら問題はなさそうだな』

『ジョン、ここからが本番』

『ああ、隠し立てするつもりはない。

 最初から全力でいくぞ』

『そうね。

 あまり見られたくなかったけど仕方がない』


 レイリアナはその場を動かずに両手を左右に向ける。

「我、レイリアナの名のもとに命ずる。大地よ隆起せよ」

 地面から土の槍が生えてきて敵を串刺しにする。

 さらにそこから巨大な岩が出現して押しつぶしていく。

『これがレイリアナの魔術か。

 僕の出番はないな』

『いえ、まだよ』


 盗賊達を仕留めたかと思ったが、どうやら早とちりだったようだ。

 幾人かの男が岩を砕いて前に出て来る。


『ジョンお願い』

『分かった』


 レイリアナの腕に擬態していた僕は本性を表し巨大な触手となって愚かにも攻撃範囲内に入って来た盗賊を叩き潰す。


『何か詠唱した方が良いんじゃないか?』

『そうれもそうね。

 次からは偽装の為に詠唱する』

『それがいいな。

 しかし、こんな風に伏兵を張られると上から偵察しても分からないものだな』


 頭上に飛んでいるバードは、捕まえるのに苦労した中サイズの鳥だ。

 と言っても上空から見えている地上の情報しか手に入らない。

 近づけばわかることもあるがそれでは空に飛ばしている意味がない。


『地上の動物も支配するべきか』

『そうね。

 こんな風に攻撃されるならそうした方がいいかも』

『流石に盗賊を支配するのはまずそうだしな』

『シオンに怪しまれるから駄目』

『そうだな』


 風の結界を張っていたシオンが、安心したように言う。


「終わったみたいね」

「はい」


 シショウは、まだ生きている盗賊にとどめをさしている。


「レイリアナの魔術凄かったわ。

 それに見たこともない魔術だったわね。

 腕を伸ばすなんてどこで覚えたの?」

「ありがとうございます。

 それとごめんなさい。

 教えることはできません」


 レイリアナは、残念そうに言う。

 まあ、正確には魔術ではないから教えることができないのは当然だ。

 けれど魔術と詐称する以上、若干の後ろめたさがあるのだろう。


「いえ、いいの。

 魔術師に魔術のことをただで教えろなんて言っちゃいけなかったわね。

 忘れてくれる?」

「は、はい」

「でも凄い魔術ね。

 中距離の敵を倒すのにはもってこいね。

 体を変える魔術はちょっと怖いけど私も研究しようかしら」

「や、やめておいた方がいいです」

「どうして?」

「あ、えっと」


 返答に困っているレイリアナに助け船を出す。


『研究していた魔術師が、爆発したのを見たから』

「えっと、言いずらいのですが、研究してた魔術師がその悲惨なことになりまして」

「あら、もしかして強化魔術の分野?」

「はい、その通りです」

「それじゃあ、あなたも多用しない方が良いんじゃない?」

「私は、その大丈夫です」

「そうなの?」

「はい」

「それじゃあ、これ以上野暮なことは聞かないわ。

 何かしらの対策ができたのね?」

「はい」

「正直、魔術研究会に報告したいレベルなんだけども、結構参加してないしもうあの連中と付き合うのも疲れてたからいいか」

『魔術研究会?』

『魔術師が集まって魔術をお披露目する集会。

 貴族から資金を貰うために結構派手にやってるからちょっと見物だけど実戦には向かないものが多いから私は興味ないんだよね』

『なるほど』

『ジョンが行きたいなら行ってもいいよ』

『いや、行く必要はないな』

『そう』

「よし、生きている者はもういないはずだから行くぞ」

「はい」

「うん」


 僕達は、盗賊が用意したであろう倒木。

 それをシオンが切り刻んで通れるようにした場所を通り抜けて、その場を後にした。

 シショウがとどめをさした死体が動くのを確認して僕はこの後どうやってそれらと連絡をとろうかと考えていた。

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