触発②
医務室に到着し、検査してもらったところ軽い捻挫だったようで、先生は会議があるため簡単な処置をして医務室を出て行った。
「あの、ありがとうございました。正直、どうしていいか分からなかったので」
ベットに腰掛ける彼女は茶色の髪を肩くらいに揃えており、少しあどけなさが残る見た目をしている。
先ほどの件でかなり落ち込んでいるが、普段なら小動物のような雰囲気を醸し出す彼女は間違いなくかわいい部類に入るだろう。
「礼なら雨宮に言ってくれ!俺は何もしてないからさ」
「赤星が来てくれなかったら多分まだ揉めてたと思うぜ?俺も何も考えないで割り込んじまったからなー。迷惑だったならごめんな」
「そんなことないです!本当に感謝しています。逆に今回のことで二人に迷惑がかかるかもしれないので...。それが申し訳なくて」
さらに落ち込む彼女を見て、申し訳ないがかわいいと思ってしまう。
「気にすんなって!俺は前からあいつといざこざがあったから今更だし、雨宮のことは途中から俺が入ったから覚えてないんじゃね?影うすいし!」
彼女を励ますことに意識が向いているためか、ナチュラルに貶された。
が、昔からあんまり気にしない性格だったので、ディスは聞き流し、先ほどの事を尋ねてみる。
「さっきはなんであんなことになったんだ?君のことは全然知らないけど、誰かとトラブルを起こすような人には見えないけど。そういえば名前聞いてないな」
「さっき自己紹介してたじゃねーか!」
「自分の番が終わってから何も聞いてなかったわ。わりぃ」
「いや、最初だったよな?それまでは聞いてましたみたいな言い方だけど、お前一番だったよな?誰も聞いてねーじゃねーか!」
赤星からテンポのいいツッコミが入ると彼女に少し笑みがこぼれた。
「ふふふ、二人って今日会ったばっかりですよね?息ピッタリ!私は一式晴海って言います。さっきの原因は私の家系にあるんだと思います」
「一式って、もしかして」
赤星が何かに気付いたようだが、俺にはピクリとも分からない。
「赤星くんの想像通り、一式家は代々式神使いの一族で、もちろん私もそうです。結構有名だと思うんですけど、雨宮くんは知らないですか?」
「見たことも聞いたことも食べたこともないな」
「食ったことは誰もねーよ、九条の野郎、それであんなことをしてやがったのか。くそ野郎が」
冷静にツッコミを入れながらも怒りが抑えきれない様子の赤星を見て、またしても話しについていけていない自分の世間知らずさに少しショックを受けた。
「世間知らずですまん。全然内容がつかめないんだけど、その話とさっきの件がどう関係してるんだ?」
「いやいや!知らない人もたまにいるので!むしろ私的には知られてない方が嬉しいというか。有名って言ってもよくない意味でなので。私たちは契約した式神達を呼び出して戦うんですけど、式神達の見た目が魔物に似ていることで差別の対象になっているんです。特に貴族の人達の中には、同族狩りと呼ぶ人たちもいるくらいで。九条さんも貴族の方なので、おそらくそれが原因かと」
なるべく明るく話そうとしているが、本来ならかわいいはずの一式の笑顔がひきつっている。
黙って話を聞いている赤星も、怒りと悲しみが混ざった複雑な表情を浮かべている。
(なるほどねー。そういや九条とかいうやつ、赤星も似たもの同士とか言ってたな。あれはどういう意味だ?まぁ赤星から何も言わねーならこっちから聞くほどのことでもないか。にしてもまー)
「くっだらねーなー」
重い空気の中で思いもよらぬ発言に二人の視線が集中する。
「くだらねーって、雨宮、お前」
「だってそうだろ?他人の能力が魔物に似ているからどうとかくだらねーよ。そんなこと言ってたら貴族だって魔力使ってるじゃねーか。魔物にだって魔力は流れてるぜ?貴族にも見た目がゴリラみたいなやつもいるだろーし。それと一式のことと何が違うんだよ」
目の前の二人は目をまんまるにして俺の話を聞いている。
「それに、一式は自分の能力が嫌いなのか?」
「...誇りに思っています。式神達はこんな私にいつも答えてくれて、力を貸してくれます。そんな式神達のこと、嫌いだなんて思ったことないです!」
「ならそれが全部だろ。一式は堂々としてればいいんだ。周りの奴らの言うことなんて気にしてたってキリないぜ?自分の都合のいいことだけ聞いてればいいんだよ」
「雨宮はもっと周りを気にした方がいいと思うぞ」
思わぬところからカウンターを食らい大げさなリアクションをすると、一式から笑い声が聞こえた。
「あははは!はー、雨宮くんって不思議ですね。初対面なのにずっと前から友達だったような。すごく気分がすっきりしました!」
一式の本来の笑顔を取り戻すことが出来たところで、そろそろ寮に戻ることを提案した。
捻挫をしているので三人で寮まで戻り、念のため一式の部屋まで送ることにした。
「二人とも、今日は本当にありがとうございました!」
深々とお辞儀をした後、俺と赤星の手を順番に握った。
(こちらこそ初日からかわいい女の子と過ごせて眼福でした)
心の声が聞こえていたら今までの善意が水の泡になっていただろう。
「気にすんなって!雨宮もかわいい女子と知り合いになりたがってたし!一式も助けられて一石二鳥だろ!」
赤星の言葉を聞いた一式の顔がみるみる赤くなっていく。
(こいつ!その言い方じゃ一式がかわいいから助けたみたいじゃねーか!いや違うよ?助けた結果、それがたまたまかわいい女子であっただけで、それがたまたま寮まで一緒に帰る仲になっただけで。ん?あながち間違ってねーのか?まぁいいや、めんどくせ)
「そうそう、全然気にすることじゃねーよ。じゃ、足気をつけてな、また明日」
来た廊下を戻るため振り返ろうとすると、
「あの!良ければ私と、友達になってくれませんか!」
先ほどより顔を赤くして小刻みに震える一式を見て思わず求愛行動しそうになるが理性で押さえつけた。