触発
解散になったため荷物の片づけをしていると机の上に影が覆った。
目線を上に上げると赤みがかった茶髪のイケメンが絵本の太陽のような笑顔でこちらを見ている。
「初日からいきなり目立っちまったな!自己紹介も独特でおもしろかったぜ!」
「えっと、お知り合いでしたっけ?」
「初対面だけど、雨宮だろ?さっき自己紹介してたじゃねーか。俺は赤星透っていうんだ!よろしくな!」
再び太陽のような笑顔を向けられたため、こちらも笑顔で応戦したが、表情筋が休暇中だっためすぐに諦めた。
「赤星ね、こちらこそよろしく。じゃ、また明日」
初対面のクラスメイトに対する適切な距離の言葉を残して教室から出ようとしたが、後ろから肩をつかまれ阻止される。
「おいおい!どうせ今から寮に行くんだろ?せっかくだし、一緒に行こうぜ!雨宮一人だと寮に着けるか心配だしな!」
「もしかして、自己紹介で言ったこと本気にしてる?ありがたいけど、どうせ世話されるならかわいい女子が良かった...」
わざとらしくがっかりした仕草をすると「贅沢いってんじゃねーよ!」とケラケラと声をあげた。
「冗談だよ。ありがとう、それじゃ行こうか」
二人で教室を出ようとすると、教室の後ろで何か大きな音が聞こえたため同時に音の方向へ目線を向けると、一か所だけ机が散乱していた。
散乱した机の真ん中に、女子生徒が倒れていたため、おそらく音の原因はこの生徒だろう。
そのすぐ目の前に、取り巻きを背負った銀髪の男が彼女をを見下ろしながら立っている。
「なぜお前のような汚い人間がここにいるんだ?同じ空気を吸うなんてとても耐えられないな。初日で申し訳ないがさっさと退学してくれないか」
「・・・・・」
おそらく彼女はこの銀髪の男になんらかの理由で押し倒されたのだろう。うつむいたまま暴言を吐かれ続ける彼女を周りの生徒は固唾を飲んで見ているだけだった。
(んー、どんな理由かは知らないけど多分やりすぎだよな。しゃーない)
荷物を机に置いて、彼女のもとへ足を進める。
近づく人影にに気付いたのか、暴言が止まり、銀髪の目線が俺へと向けられるが無視して彼女へ手を差し伸べた。
「大丈夫か?結構派手な音がしたけど。どこかケガしてるかもしれないから医務室行こうぜ。赤星、医務室の場所って分かる?」
「おい」
声のほうに視線を向けると、銀髪が不愉快そうな顔でこちらを睨んでいる。
正面から見ると、かなり整った顔をしており、取り巻きの女子たちの目的はおそらくこれだろう。
「お前、一体どういうつもりだ?今その女とは僕が話してるが?」
「話合いなら口は出さないけどさ、手を出したらそれはもう話合いじゃないだろ?それにこの子怖がってるように見えるし、一旦この場はおさめたほうがいいんじゃね?」
差し伸べた手を掴む手は震えている。
「雨宮の言うとおりだ。やりすぎだぜ、九条帝」
いつの間にか近くに来ていた赤星が倒れたままの彼女を支えている。
「赤星か。ふん、貴様もその女と似たようなものだったな。似たものどうしお似合いじゃないか」
嫌な笑みを浮かべながらそう吐き捨てると、取り巻き達もニヤニヤと笑みを浮かべている。
「そういうお前は相変わらずだなー。誰かをコケにしてないと生きていけないのか?寂しいやつだな」
話の内容にもついていけず、先ほどとは別人のような赤星を見て何も話すことが出来ない。
「獣風情に何を言われても気にならないね。さっさとそこのごみを連れて視界から消えてくれないか。不愉快だ」
「こっちこそお前の白髪頭を見てると目がチカチカすんだよ。光すぎて後ろに虫が集まって来てるじゃねーか。行こうぜ、雨宮」
赤星に虫扱いされた取り巻きから大ブーイングを受けながら、三人で教室を後にした。