レベル2 魔族の王
赤い瞳の少年はゼルトを見てすぐに寄ってきた。
少年「ありがとうございます。助かりました。」
ゼルト「(俺は何もしていないんだが・・・)大丈夫だったか?君は・・・?」
少年「僕はヴァンクといいます。・・・近くに住んでいるのですが、森で必要なものを採取しようと立ち寄ったところ、あのドラゴンに遭遇してしまって。」
ゼルト「そうか。あのドラゴンは君を見て立ち去ったようにも見えたが、何かしたのか?」
ヴァンク「いえ。僕もよく分かりません。何もできずに立ちすくんでいたら、運よくドラゴンがどこかへ・・・。」
ゼルト「・・・。とりあえず森を出るまで一緒に行こう。頼りになるが分からないが、1人よりはマシだろう。」
ヴァンク「ありがとうございます。」
2人は一緒に森を進んだ。
これが2人の最初の出会い。
勇者ゼルトと魔王ヴァンクの2人の出会い・・・。
森を進んでいくと水辺があった。2人は一休みすることにした。
ゼルト「俺はゼルト。ポトラ村の出身で18歳。魔王討伐のための旅に出たところだ。」
ゼルトは自己紹介を済ませると、ヴァンクの身上について問い始めた。
ゼルト「ヴァンク。君は何者なんだ?近くに住んでいると言っていたが・・。」
ヴァンク「・・・。あなたには正直にお話しします。僕は魔王です。」
ゼルト「?!」
ゼルトは驚き、思わず含んでいた水を噴き出し、身構えた。
ヴァンク「大丈夫です。戦う気はありません。少し思うところがあり、この森まで来ていたところでした。」
ゼルトは警戒態勢を解かずに話を続けた。
ゼルト「(魔王って・・・。俺は魔王討伐の旅に出ているんだぞ?)魔族は好戦的な種族だと聞く。君はどうして戦わないんだ?いやまあこちらとしては魔族と争わなくて済むならその方がいいんだが・・・。」
ゼルトは村の教えほど魔族に対して偏見が無かった。
というのも、ゼルトは幼い頃に一度魔族に出会い、助けられたことがある。
その時から魔族に対する村の教えについて疑問が湧くようになったのだ。
ヴァンク「僕は数年前に前魔王より力を継承されました。魔族の王は、次期魔王候補が生まれ育つと力を継承し、死にます。魔族は他の種族より寿命が長く、特に魔王はかなりの寿命の長さです。エルフよりも生きると言われています。ただ、次期魔王に力を継承することで死に時を選べるわけです。僕もこれから長い人生があるとしたら、嫌われた種族の王として生きるのは嫌なんです。だから各地の魔族に交渉しながら他の種族と共生していけるようになっていけばと思ったんです。」
ゼルト「なるほど。簡単に信じることはできないが、君の雰囲気を見る限り争う気は無さそうだし嘘をついているとは思えない。それに・・・。ん?ちょっと待ってくれ!各地の魔族?魔族は中央大陸にしか生息していないんじゃないのか?」
ヴァンク「実は魔族は世界の各地に街や村を作り生活しています。魔族は他の種族に化けるのが得意なんです。あなたも僕を見て魔族とは思わなかったんじゃないですか?」
ゼルト「確かに言われてみれば・・・。それが本当なら大変じゃないか!世界はいつ魔族に征服されてもおかしくない。」
ヴァンク「確かに今までは世界征服まではいかないものの、チャンスは窺っていたようです。しかし、そう簡単に制圧なんてできないようですね。他の種族でも手練れはたくさんいるでしょうし、ゼルトさんみたいな勇者も活躍していたことでしょう。そういうバランスの中で世界は存在してきたみたいです。」
ゼルト「なるほどな。とりあえずこのままでは日が暮れてしまう。聞きたいことも多々あるが、まずこの森を出よう。話はそれからだ。あと・・・俺のことはゼルトでいいよ。」
ヴァンク「わかりました。ゼルト。」
2人は出発し、森の出口へと急いだ。