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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

短編小説(異世界恋愛)

最強令嬢の辞書に不可能という言葉はない ※婚約者探しを除く

作者: 三羽高明

「ああ……。どこかにいい男でも転がっていないだろうか……」


 先ほど倒したばかりのドラゴンの腹に座りながら、私はぼやく。すると、「どうしたの、ポーレット」と元気な声がした。


 背中に弓を背負った小柄な騎士がドラゴンの体をよじ登ってきて、ひょいと私の隣に座る。少し童顔気味で大きな目をした青年だ。私はかぶりを振りながら彼に応じた。


「別にフランソワが気にするようなことじゃない。どうすれば婚約者が見つかるのか考えていただけだ」


「こ、婚約者ぁ!?」


 フランソワはドラゴンの腹から転げ落ちてしまいそうなくらい背をのけぞらせた。


「何を驚いているんだ」


 私は不思議な気持ちになったが、フランソワは「驚くに決まってるでしょ!」と頬を引きつらせる。


「だって、『婚約者を見つけたい』だなんて! 『最強令嬢』である君がそんなことを言い出すなんて思わないじゃん!」


「おかしいのか?」


 私はむくれる。


 確かに私は「最強令嬢」と呼ばれていた。


 けれど、それは過分な評価だ。


 五歳の頃に山の中でたまたまゴブリンの群れに遭遇して返り討ちにしたとか、それがきっかけで騎士団に入り、今日のように魔物を千切っては投げ、千切っては投げな毎日を送っているとか、その程度のことしかしていないのだから。


「何で急に婚約者が欲しいなんて思ったの? 悪い物でも食べた?」


「……お前、失礼だぞ。ただ……気付いてしまっただけだ。私、全然普通じゃないな、と」


 先日のことを思い出し、私の心はとめどとなく憂鬱になっていく。


――あたし、やっぱりお姉様より先に結婚なんてできないわ!


 それは、もうすぐ挙式を予定していた妹が両親と言い争いをしている光景だった。


 偶然通りかかった私が柱の陰で聞き耳を立てているとも気付かずに、妹は今にも泣きそうな顔になっている。


――順序通りならお姉様の方が先に結婚してるはずなのに、こんなのおかしいじゃない! お父様とお母様のせいよ! だってお姉様、全然普通じゃないじゃない!


「周りを見回してみれば、私と同い年くらいの令嬢は皆どこかへ嫁いだり、そうでなくとも婚約者くらいはいたりする……。なのに私はドレスの代わりに軍服を着て、夫ではなく倒したドラゴンを尻に敷いている始末だ」


 私は椅子代わりにしている魔物の体を軽く叩いた。


 私を取り巻くこの状況について、今まで特におかしいと感じたことはない。しかし、あんな話を聞いてしまってからはそうはいかなかった。


 考えれば考えるほど、自分は令嬢として異分子なのではないかという気がして仕方がなくなってしまったのだ。


「……で、君は普通になるために婚約者が欲しい、と?」

「そうだ。それで、さっそく父と母に相手を探してもらうことにしたんだが……」


 何故か、誰からも色よい返事はもらえなかった。私は短く刈った髪を掻きむしる。


「何故だ!? 私の何が悪い!? 倒した魔物の数が十万では足りないのか!? その百倍くらいはいるのか!?」


「そういうことじゃないんじゃない……?」


 訳知り顔でツッコミを入れるフランソワを見て、私ははたと動きを止める。もしかして、彼はこういうことには詳しいのだろうか?


「フランソワ!」


 そう気付いた途端に居ても立ってもいられなくなり、私はフランソワとの距離を詰める。


「頼む、私を普通の女の子にしてくれ! この通りだ!」


 私はフランソワの手を握り、彼の顔を間近で見つめる。彼は見る見る内に真っ赤になっていった。


「え……その……」

「フランソワ!」

「わ、分かったよ!」


 フランソワは半ばヤケクソのようにも思える声で叫んだ。私は笑みを浮かべながら大きく頷く。戦闘においてもフランソワは頼りになる男だ。だからきっと、今回も彼に任せておけば大丈夫だろう。


「よし、ならば善は急げだ。早速特訓だな。走り込み、腹筋……。手始めに何をしようか」


「その発想からして、すでに普通の女の子じゃない気が……。うーん……そうだな……。じゃあ、まずは僕がいくつかの質問するから、答えてみて」


 何故そんなことを? と思ったが、師には従っておくべきかと思い、私は素直に「分かった」と応じる。


「君の趣味は?」

「鍛錬だな」


 いきなり趣味の話題を出されて戸惑ったものの、私は即答した。


「剣の素振りは毎日している。基礎は大事だ」

「休みの日は何を?」

「仕事仲間と酒場で飲んで騒いでいる。たまには息抜きも必要だ」


 話している内に妙な気分になってきた。鍛錬をしたり、酒場に行ったりする時は、よくフランソワを誘うからだ。彼も分かっているはずの私の日課。それを何も知らないていで聞かれるのは、少し寂しくもある。


「好きな男性のタイプは?」

「……私と戦果を張り合えるような奴?」


 これは中々難しい質問だ。そんなことは今まで考えたこともなかった。それだけに、次の問いはとても簡単に感じられる。


「……それじゃあ最後。もしオークと出くわしたらどうする?」

「戦う。一体だけなら十秒もあれば上等だろう」


 私は自信満々に返した。けれどフランソワは頭を垂れながら、「全然ダメだ……」と呟く。


「ダメ? どこがだ?」


 心当たりがまるでなかったので、私は困惑する。すると、フランソワは気の毒そうな目を向けてきた。


「あのね、普通の女の子は鍛錬とかしないから。それに、休みの日に汗臭い男たちと酒場にも行かない。『戦果』に関しては何の話だよって感じだし……。もちろん、オークが出たって戦わないよ」


「た、戦わない!?」


 私は雷に打たれたような衝撃を覚える。


 魔物を前にして、「戦う」以外の選択肢があるなんて思ってもみなかった。だって、いつもの私なら「遊んでやろう」と言って剣を抜いて……。


 そんな風に想像を働かせている内に、あることを閃いた。そして、目を輝かせる。


「分かったぞ! 『その首置いてけざます!』とか言うのか!」

「ざ、ざます……? いや、それは……」


 フランソワは、突拍子もないことでも聞いたかのような裏声を出す。それから低い声で唸った。


「でも……。言葉遣いを変えるっていうのは正しいかな……。ポーレットって口調も男性的だし。……いいかい、ポーレット。普通の女の子はオークが出たら悲鳴を上げて逃げるものなんだよ。もちろん、オーク以外の魔物と出くわした時もね」


「な、何だって!?」


 悲鳴? 逃げる? 私の体を二度目の衝撃が走り抜けた。


「戦わなければやられてしまうじゃないか! もしかして普通の女の子というのは、命を賭すほどの危険な職なのか? 戦場にいるよりよっぽど危ないぞ……」


 普通の女の子、侮り難し。私は自らに課した使命の重さに背筋を伸ばした。


 けれど、フランソワのお陰で「普通の女の子」について大分理解できた気がする。私は自信満々に笑った。


「何となく分かってきたぞ。見ていろ、フランソワ。明日から私は普通の女の子になってやる!」


「そ、そう。頑張って……」


 フランソワは不安しかなさそうな顔をしていたが、私の決意は揺るがない。燃える夕焼けを見ながら、気分が高揚してくるのを感じていた。



 ****



「うぎゃー! 怖いざます! 助けてざますー!」


 翌日。戦場には、私の甲高い声が響いていた。


「魔物さん、あっちへお行き遊ばせざます!」


 ケルベロスの牙をバックステップでかわしながら叫ぶ。そんな私を見ながら、皆はヒソヒソと囁き合っていた。


「あんな素早い攻撃を避けられるなんて、流石は最強令嬢ポーレットだな」

「でも、何で悲鳴なんか上げてるんだ?」

「ってか『ざます』って……?」


 皆私の普通の女の子っぷりに感心しているようだ。フランソワなどよほど感極まったのか、額を押さえながら首を小さく横に振っていた。


「ふふふ。大成功だな」


 私は不敵に笑う。後はこのちょこまかと動く魔物を葬り去るだけだ。


 とは言え、普通の女の子としては戦うわけにもいかないので、ちょっとした工夫は必要だろう。


「いやん! 触らないでくださいまし……ざます!」


 私は剣を抜き、足元に思い切り突き立てた。すると、そこからたちまちのうちに割れ目が広がっていき、地面が陥没。やがては穴になった。即席の落とし穴だ。


 体が宙に浮くような感覚がして、私はケルベロスと共に地の底へ落ちていく。けれど、こんなところで死ぬ気など毛頭ない。頭上から降ってくる岩に飛び移りながら上を目指し、やがては地上に足を付けた。


「やったな、ポーレット!」

「随分回りくどい方法だったが、よくやったじゃねえか!」


 仲間たちが駆け寄ってくる。その中にフランソワの姿を見つけ、私は胸を張った。


「これで婚約者探しも上手く行くな!」


 私の言葉にフランソワは変な顔になる。何だ、そのかわいそうなものを見る目は……。


 何かおかしなことでも言っただろうか? と首を傾げたが、それからすぐに嬉しい知らせが入り、私は誇らしい気持ちで彼のところへ報告に行くことにした。


「実家から連絡が来たぞ。私と婚約したいという相手が現われたそうだ」


 先ほど受け取ったばかりの手紙を、フランソワの前でヒラヒラと振ってみせた。気持ちが高ぶって、つい大きな口を叩きたくなってしまう。


「この最強令嬢の辞書には、不可能の文字などない! それが、たとえ戦闘以外のことであってもな!」


「よかったね」


 フランソワはちょっと笑っていた。「何ていう名前の人?」と尋ねてくる。


「さあ。知らない」


 私は軽く首を振った。フランソワは目玉が飛び出しそうなくらい驚いて、「えっ」と素っ頓狂な声を上げる。


「だって、そこは問題じゃないだろ。私はただ普通の女の子になるために婚約者が欲しかったんだ。だから、相手が誰かなんて興味がない」


 そんなの当然じゃないか。なのにどうして、フランソワはひどく仰天しているんだろう。


「明日はその男と会うことになっている。ボロが出ないようにしっかり『普通の女の子』として振る舞わなければ。ここが正念場だな」


 私は意気込んだが、フランソワは複雑そうな表情だ。「ねえ……ポーレット」と言いながら眉を曇らせる。


「君はいつまで『普通の女の子』でいるつもりなの?」


「どういうことだ?」


「だって君は『普通の女の子』として婚約するんでしょう? そうしたら、その相手とずっと一緒にいるためには、永遠に『普通の女の子』でいないといけないじゃないか」


「永遠に……」


 そんなことは考えたこともなかったので、私は少し後ずさりしてしまう。


「永遠に魔物からに逃げ回って、永遠に『ざます』と言い続けなければならないのか……。それは……大変そうだな」


 想像すればするほど息の詰まるような光景だ。私が私でなくなってしまうような気さえする。


「普通の女の子って、そこまでしてならないといけないものなのかな?」


 フランソワがじっと見つめてくる。やけに真摯なその眼差しに、私は動揺せずにはいられない。


「僕は今の君が好きなんだけど」

「……お前に好かれたって意味がないだろ」


 飛び出してきた「好き」という一言が、思いもかけず私の心を揺さぶった。それ以上は彼を直視できなくなって目をそらす。そして、言い訳がましい発言をしてしまった。


「私が好きになって欲しいのは、私に……『普通の女の子』の私に婚約を申し込んできた相手なんだから」


 だとするならば、今は明日の面会のことだけを考えるのが上策だろう。他には何も気を取られまいと必死になりながら、私はその場を逃げるように立ち去った。


 しかし、次の日になって緊急事態が発生した。大勢の魔物が、こちらへ進攻しているとの情報が入ってきたのだ。


「あいつら、この前ポーレットが倒したドラゴンの手下みたいだぜ」


 作戦室のテーブルに地図を広げながら、部隊長が言った。


「敵討ちに来たみたいだな。まあ、飛んで火に入る夏の虫ってやつだが。なにせ、こっちには最強令嬢がいるんだからよ。ポーレット、昨日みたいに逃げ回るのはナシだぜ?」


 今日は婚約者との面会の日だ。どんなに遅くとも、正午の鐘が鳴るまでにはここを離れないと約束の時間には間に合わない。


 そのためには、お客にさっさと退場願わねばならないだろう。私は部隊長の言葉に頷きかけた。


 けれど、室内にフランソワが入ってきたことによって体が固まった。昨日言われた「今の君が好きなんだけど」という言葉が蘇る。気付いた時には、言おうと思っていたのとは別のセリフを口にしていた。


「わ、私は普通の女の子ざます。普通の女の子は逃げるのが仕事ざます!」


 私は剣を片手に部屋を出た。外からはすでに大きな物音が聞こえている。


 スライム、スケルトン、トロールにラドン……。駆けつけた先では、軽く千は超えそうな魔物たちが騎士団員と交戦していた。


「わあ……! 敵さんがたくさんざますねぇ……!」


 最強令嬢としての血が騒ぎかけたけれど、拳を固く握って必死で自制した。ゾンビが放ってくる拳の一撃をいなす。その様子を見た団員たちが「おいおい」と肩を竦めた。


「またマダムみたいになっちまったのか? フランソワを見習って、キビキビ働いてくれや」


 マダムじゃなくて普通の女の子なんだが……と思いつつも、私は団員が指差す方を注視した。弓を手にしたフランソワが、辺りの魔物を手当たり次第に矢で貫いている。


「フランソワ、もっと下がるざます!」


 私は思わず大声を出した。


 今のフランソワは一騎当千の活躍を見せている。表情も普段よりずっと真剣で、気迫に満ちていた。


 その殺意に当てられたように、魔物たちはフランソワに突撃を繰り返していたのだ。

 

 弓を得物としているフランソワは、私のように前線に出て魔物をなぎ倒していくような役回りは向いていない。もっと後方から敵を狙い撃ちするべきなのに、今の彼はすっかり敵に取り囲まれているような状態だった。


 このままではまずい。そう思った時だった。コボルトに飛びかかられたフランソワが姿勢を崩し、地面に背をつけたのは。


「フランソワ!」


 私は魔物の包囲網を無理やり突破し、フランソワの元に駆け寄る。今にも彼の喉笛を噛み切ろうとしていたコボルトを手早く始末し、フランソワを抱き起こした。


「……っ」


 フランソワが苦しそうな声を出す。あちこち怪我をして全身血まみれだったが、どうにか息はあるようだった。


「よくもやってくれたな……」


 駆けつけてきた衛生兵にフランソワを任せると、私は剣を構え直す。懲りずに湧いてくる魔物どもに鋭い視線を向けた。


「百……二百はいるか……」


 目算で魔物の数を確認する。私は薄く笑った。


「頭数だけ揃えても、最強令嬢は倒せないぞ。かかって来い。遊んでやろう」


 正午を告げる鐘が鳴り響く。それを合図とするかのように、私は敵に向かって突っ込んでいった。



 ****



 一時は意識を失っていたフランソワが目を覚ましたのは、夜になってからだった。私が病室へ向かうと彼はすでに起き上がって、自室へ帰る準備をしているところだった。


「もう何ともないのか?」


 私の質問に、フランソワは「うん」と答えた。知らず知らずの内に肩に力が入っていた私は、大きく息を吐き出す。


「面会には行ったの? ポーレット」

「面会?」

「ほら、婚約者と会うって言ってたじゃん」

「ああ、それか。……行くわけないだろ」


 病室を出て二人で廊下を歩きながら私は小さく首を振る。正直に言って、フランソワに指摘されるまでそんなことはすっかり忘れていた。


「お前が大変なのにここを離れられるか。何の連絡もせずに約束を破ってしまったこと、相手には申し訳ないが……」


「僕、何体魔物倒した?」


 急に話題を変えられ、私は少し戸惑う。顎に手を当てて首を捻った。戦いの後は、毎回撃破した魔物の数が掲示板に貼り出されるのだ。


「十五……くらいだったか?」

「じゃあ、君は?」

「よく覚えていない。七百は超えていたと思うが」

「そう……」


 何故かフランソワはガックリと肩を落とす。「どうした」と私は尋ねた。


「君には敵わないなって思ったんだよ」

「……何だ、急に」


 今日のフランソワは変だ。今まで彼が私と倒した魔物の数を競ったことなど一度もなかったというのに。


「……君が言ったんじゃないか。『私と戦果を張り合えるような男が好き』って」


 フランソワは頬を膨らませる。


「僕なら君と鍛錬もするし、酒場にも行くし、目の前で君がオークを倒しても、いつものことか、って思うけど……。やっぱり君の好きなタイプにだけは、どうしてもなれそうもないな……」


「おい、待て」


 フランソワが何を言いたいのか分からずに、私は混乱した。


「どうして私の理想とする男に近づく必要があるんだ。それじゃまあるで、フランソワが私のことを……」


「好きだからだよ」


 フランソワがセリフの続きを引き取る。私はその場に立ち尽くした。


「……何、その顔」


 フランソワがふてくされた声になる。


「昨日言ったでしょ。君のことが好きだって」


「あ、あれはそういう意味の言葉じゃなかったはずだ! 相棒とか、仕事仲間とか、そういう相手に対する『好き』だと思って……」


 とっさに言い逃れをせずにはいられない。あれがどういう意図を持った「好き」なのかなんて、心の中では分かっていたはずなのに。


「大体お前、私に婚約者ができるかもしれない、となった時だって、平然としていたじゃないか! 好きな相手が他の男に取られてしまうかもしれないとなったら、もっと狼狽えるだろ!」


「だって、他の男じゃないし」


 フランソワは口を尖らせた。


「君の実家に手紙を送ったのは僕だよ。つまり、君と婚約したいと言い出した男っていうのは僕のことだ」


 あまりのことに声が出なかった。フランソワは私の反応を見ながら、「どうでもいいって言われて、ショックだったなぁ」と、さも哀れっぽい顔になる。


「まあ、僕も『普通の女の子』の君には興味がないからお互い様かな。昨日も言ったよね。最強令嬢の君の方が好きだって」


「そ、そう何度も、好き好き言わないでくれるか……」


 落ち着かなくなって腰の剣をいじる。心の中でこっそり嘆息した。


 普通の女の子でいたら、あの時魔物に襲われていたフランソワを助けることはできなかったはずだ。


 だから私は、普通の女の子でいることをやめた。フランソワとこれからも一緒にいたかったから、最強令嬢に戻ったのだ。


 そうやって脱ぎ捨ててしまった仮面を再びつける機会は、もう巡って来ないだろう。


 だって、私もフランソワが……。


「一つ訂正だ、フランソワ」


 鼓動が早くなっていくのを実感しながら口を開いた。


「私の好きなタイプは『戦果を張り合える男』ではなくて、『フランソワ』になった」


 フランソワは目を見開く。やがて、堪えきれなくなったように「何それ」と吹き出した。


「……私は真剣だぞ」


 と言いつつも、頬が緩んでくる。


 そうして気が付いた時には、私たちは声を合わせて笑っていたのだった。

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[良い点] 最強令嬢! 面白いですね~。 この鈍感さがいいです。 ( *´艸`)
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