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家族のかたち  作者: メデュ氷(こんにゃく味)
第一章 始まり
9/74

「ざぁこ♡ざぁこ♡ざまぁみやがれ♡何にもできないまま弓使いに殴られて負けちゃってかわいそー♡

 家畜以下♡そのままずーっと地べた這いつくばってろクソザコ♡」


 ケージに入れられて、アヤネにスキル封印の魔法もかけられた三匹に、今回の依頼人がメスガキのような煽りをする。

 依頼人の一人称が「僕」だったので男かと思ったが――いや、実際に男だったのだ。気合いを入れていない素の声は男のそれだったし、足や腕もよく見てみると骨太でしっかりしている。

 服装が女の子だったのだ。つまり、男の娘である。

 ツインテールと大きなリボンがかわいい男の娘だ。

 男の娘で、メスガキだ。

 もうわけが分からない。


「あ~スッキリした♡魔のつく二つ名のお兄さんお姉さん、ありがとうございましたぁ♡僕じゃどうしようもなくって困ってたんですぅ♡」


 依頼人はそう言ってアヤネの腕に絡み付く。

 媚びた声でそれをやられるとイラッとするのだが、アヤネが気にしなくてはならないのは自分の方ではない。スキュブの方だ。絶対に不機嫌になっているに違いない。

 彼は他人がアヤネに触れるのを嫌がる。警戒している相手であれば尚更だ。

 そしてこの依頼人は警戒すべき人、という認識をされている可能性が高い。こういう距離感がおかしい輩は彼にとっては天敵に等しい。拒絶したいに違いないだろう。


「離せ。アヤネはそうされるのが嫌いだ」


 スキュブは鋭い目付きで依頼人を睨んだ。やはり怒っている。

 しかし依頼人はアヤネの腕から離れようとしない。


「え~、いいじゃないですかぁ♡同じ魔法使いとしてぇ……最近ウワサの『黒曜の魔女』とくっつけるなんて♡僕、嬉しくってフリフリのスカートで来ちゃったんですよぉ♡」


「アヤネは魔女じゃない。全身痛みを感じるし、黒猫も飼っていない」


「黒猫なんていなくても、『白い悪魔』のあなたがいるじゃないですかぁ♡

 あれ、それだと僕、ラブとラブの間に入ってる……?僕が泥棒猫ってこと……?」


 依頼人はアヤネの腕から離れ、自分のツインテールを弄りはじめた。


「僕ネトリは好きじゃないんだよなぁ……うわ。自分の行動に萎えてきちゃった……」


 眉尻を下げ、素の低い声でそう言った依頼人はため息をつく。


「っとかわいくない声がでちゃった♡ごめんなさぁい♡僕、ウワサで憧れなアヤネさんに会えるって思ったらテンション上がっちゃって♡」


 依頼人は自分の両頬を人差し指でつついた。

 いちいち動作がイラつく野郎だ。

 何故だろうか。友達がわざとそういう動作をしていたときはここまでじゃなかったのだが。

 

「あー、そう……あとスキューは悪魔じゃないから。天才且つ努力家で人類の宝ね。」


 アヤネの声は起伏のない沈んだ声だった。


「あー♡やっぱり二人ともラブ&ラブなんですねぇ♡推しのカップリングにしておきまぁす♡

 ベッドの上でイイコトあったら是非♡僕に教えてください♡その晩のオカズにしますので♡」


 依頼人はアヤネの手に何かを書いた紙を握らせてきた。

 ちらりとそれを確認すると、名前と住所が書いてあった。彼の名前はクリスというらしい。その隣には偽名だろうか、「くりすてぃーにゃん♡」という名前も書いてある。

 絶対に行きたくない。というかスキュブとの関係をどういうふうに見ているか分からないが、言っていることが「そういうこと」であったら心底気持ち悪い。何度か記述しているが彼は実年齢十五歳、自覚している年齢は十歳の子どもである。二十五歳の自分が手を出したら犯罪だ。

 家族としてのスキンシップであったら喜んでやるが、恋人同士が行うような一線を越えたものは絶対にしたくない。

 スキュブは恋人ではない。夫婦でもない。この関係を何というのが正解かは分からないが、もしも名前があるとするのなら、家族、身内で間違いないのだろう。

 血は繋がってはいないが、家族のかたちに血縁など関係ない。家族というこころが帰りつく場所は、血の繋がりが全てではないのだ。

 血が繋がっていようが愛してくれない人だっている。

 血が繋がっていなくても、そうであらねばならない立場の人だって愛してくれないこともある。

 そこに血の繋がりがあろうが、帰る場所などないことだってある。

 それなのに、産まれも育ちも違うような他人が居場所となってくれたりする。

 自分のこころが安らぎ、無意識にそこへ帰りたいと思える場所、関係というのを家族や身内と定義するのなら、スキュブはそれなのだろう。

 そんなスキュブを抱くなんて考えられない。彼がそれで怖がったり怯えてしまったらどうするのだ。

 それは愛を伝え合う手段ではない。ただの暴力である。

 それに、彼はとても寂しがりやだ。

 暴力を愛だと思い込み、捩じ込まれた痛みと違和感を愛されている快感と勘違いしてしまう可能性も大きい。

 そんなことになってしまったら、彼は簡単に身体を開くようになるだろう。身を売るように、捉え違えた愛を欲するようになるだろう。それでは夜に身を窶した子どもと違わない。

 きっと、こころがボタンをかけ違えたようになって、独りで泣くようになる。それだけは絶対に避けたい。

 

「クリス、口が過ぎますよ」


 ルイスがクリスに注意をしてくれた。こちらが言おうと思っていたが、手間が省けた。察しのいい男である。


「わ。……じゃなくてぇ、ルイスさんが言うなら僕、言うことききまぁす♡ごめんなさーい♡」


 クリスが一瞬真顔になったのは気のせいではない。彼もルイスに叱られた経験があるのだろう。食い下がることなく引いてくれた。

 良かった。変なのに絡まれなくて済む。


「ところで、このモンスターはどうするんですか?」


 ルイスがクリスに対して問う。

 そういえば依頼には煽りたいから生け捕りにしてこいと書いてあった。その後のことは考えているのだろうか。


「え~僕もうスッキリしたんでそこら辺にポイッとしてくればいいんじゃないですかぁ?」


「……あなた、また被害を出してもいいと?」


「え、だってもうこいつら伸びてるじゃないですかぁ。後はどうでもよくないですかぁ?」


「今はこんな状態ですけど、またやらないとは言えないでしょう。」


「そうですけどぉ……僕飼えないしぃ……」


 後のことは考えていなかったらしい。本当に煽りたかっただけのようだ。

 後始末までできないのに生け捕りにしてこいとは無責任な奴だ。付き合いたくないレベルが更に上がった。

 恐らくこいつは自分の快楽しか考えていない自己愛の塊なのだろう。そんなやつと関わると、おもちゃの人形のように弄ばれてしまう。スキュブには最も近づけたくない。


「……二度と、被害を出さなければいいのか」


 行き詰まりつつあった話にスキュブが提案する。

 クリスはそれに目を輝かせて食いついた。


「え!もしかして解決策とかあるの?!やったぁ♡これでどうにかなるぅ♡」


「……あなた、そういう態度を改めなさいって前に言いましたよね?」


 ルイスがクリスを一睨する。クリスはばつが悪そうな顔をしてしゅんとした。


「う……ルイスさんはそういうこと言うから彼女できないんですよぉ?」


「それは余計な一言です。これも前に言いましたよね?」


「……僕泣いちゃう……」


「泣いても解決しませんよ」


「鬼……悪魔……」

 

「よく言われます」


 クリスはそれ以上言い返せないようだ。口を尖らせて何かもごもごと言っている。


「……提案、いいだろうか」


 スキュブが話を戻す。


「ああ、話が逸れていましたね……ごめんなさい。お願いします。」


「……気にしていない。そいつが悪いだけだ。

 モンスターのことだが、二度と人のものを盗まないように調教できる人物を知っている。」


「え、そんな人いたっけ?」


 スキュブの提案に驚いたのはアヤネだった。

 彼に知り合いなんていただろうか。他人には警戒しすぎているきらいがあるから、そこまで人との繋がりがあるとは思えないのだが。


「……?アヤネも知っているぞ。ディートだ。あいつならこの程度、容易いだろう」


 スキュブが首を傾げながらこたえた。

 ディートとは、スキュブの弟のことである。

 彼はアヤネの友達……これはカヨという名前の女性なのだが、彼女のパートナーだ。

 本名はディートリッヒというドイツ感あふれるカッコイイ名前で、カヨもそれを気に入っている。

 カヨ曰く、


「性格も見た目も名前もパーフェクトかっこいい理想の彼ピ」


 らしい。

 そんな彼の性格はサディスティックで執念深く、色気もあふれるガチのヤンデレだ。

 ガチだ。本当にガチだ。

 サディスティックなところも特筆すべきであるが、それを上回ってヤンデレなところがびっくりするほどガチなのだ。

 カヨに対しては勿論、自分の年齢が十三歳であるのにも拘わらず籍をいれるよう強要したし、いつの間にかカヨの指にぴったりの指輪を準備しているし、家の使用人――彼が調教により洗脳した人間やモンスターである――がカヨと目を合わせるようなことがあれば、お仕置きとして丸呑みしてしまう程である。

 ここまでいうと、ドン引きしてしまうほどのヤンデレなのでは、と思ってしまうだろうが、かわいいところもある。

 蛇のモンスターと人間のハーフなので、日向ぼっこするのが好きなのだが、そのときの表情がとても心地よさそうで癒される。

 何だかスキュブが頭を撫でられているときの表情に似ていてかわいいのだ。出身が同じであるだけで血の繋がりはないが、こういうところが兄弟なのだろう。

 それに、気に入った相手、懐いた相手には甘えたがる。

 本人は否定しているが、彼は結構甘えん坊だ。

 アヤネに対しても最初のときこそ距離があったが、仲良くなっていくとスキンシップが増えていくのだ。そのうち、二人きりになると抱き締めて欲しそうに見つめてくるときだってある。

 ――こういうときに何も言わず、目で訴えてくるのもスキュブと似ている。

 サディスティックで、強情な相手の膝を折るのが大好きな彼だが、好きな相手には年相応の態度を見せることがある子だ。これをデレというならデレなのだろう。

 しかし、好きな相手ほど束縛したくなる傾向にある。

 アヤネも何度か巻き付かれたことがある。

 蛇の姿に変身したと思ったらぐるりと巻かれて、全身の骨が折れそうになったことがあった。

 そのときはスキュブが止めに入ってくれたので、骨に罅が入った程度で済んだが、もうちょっと一緒にいたかった、帰ってほしくなかった、という理由でそうするのなら、言葉で伝えてほしいものだ。

 要求を口に出せないところもスキュブと似ている彼だが、調教は彼特有の能力である。

 人間もモンスターも関係なく、従えることができるその腕前は相当なものだ。

 過去にレベルの高い盗賊を捕まえて持ってきたことがあったが、翌日には家の使用人として働いていた。

 襲いかかってきたときや、麻痺させたときなどの態度からしてかなり強情で傲慢だったはずなのだが、彼の手にかかれば主に忠誠を誓う使用人に変わってしまう。

 モンスターのこともおやつにちょうどいいからと手なずけていたこともあった。

 それほどの腕前をもつ彼であれば、この三匹の調教もお手のものだろう。

 簡単すぎてつまらなそうと不満げな顔をしそうだが。


「あぁ……ディートか……あいつならやれそう」


「そうだろう、わたしの弟はとってもすごいからな」


 スキュブは「とっても」を強調し、自慢気な表情をした。

 兄弟愛の強い子だ。尊い。


「とにかく、その人に頼めばいいんですね♡助かったぁ♡じゃあこの三匹はお願いしまぁす♡」


 クリスは三匹が入っているケージをスキュブへ押し付けた。ルイスに注意されたその態度をなおすつもりはないらしい。


「分かった。これで依頼は終わりだな。」


「そうですねぇ♡いやぁ、何とかなって良かったぁ♡

 あ、そうそうスキュブさんも何かイイコトがあったら僕に――」


「言わない。アヤネのことも、わたしのことも、知る必要はない」


「そんなぁ、つれないなぁ」


「……特に用がないなら立ち去れ。お前がここにいる理由はもうない。」


「つんつんしちゃってもう……まあ、別にいっか」


 クリスはくるりと踵をかえし、手を振りながら去っていった。


「それじゃあみなさーん♡ありがとうございましたぁ♡また何かあったら何とかしてくださーい♡」


 本当に今の態度を改める気はないらしい。反省の「は」の字もない笑顔だった。

 ルイスは眉をひそめ、眉間を指でおさえている。


「……クリスが、すいませんでした……何度も注意しているのですが……」


 ルイスが謝罪の言葉を口にする。本来はクリス本人が言うべきことだろうに。


「気にしていない。新しい玩具をねだられていたから、ちょうどいい」


 玩具、という単語にケージの中の三匹が不安げな声を上げる。

 玩具という表現が間違っているわけではないが、ディートリッヒは比較的子どもには優しいので安心してほしい。クソガキには容赦ないが。

 恐らくこの三匹程度であればクソガキという判定には入らない。いたずら好きな子ども、くらいにしか認識されないだろう。


「アヤネ、ちょっとディートに手紙を送る時間が欲しい」


「いいよ。手紙の在庫は大丈夫?」


「大丈夫。ほら、この通り」


 スキュブはアイテムポーチから「それゆけ!高速飛行お手紙セット」を取り出した。

 名前がちょっとギリギリをせめようとしているのは開発者の所為である。これがお手紙マンとかだったら訴えられろ。

 さて、そんな下らない名前のついたこの手紙だが、名前から察しがつく通り、ただの手紙ではない。

 書き終わると送り先へと高速で飛んでいくのだ。どのくらい高速かというと、テレポートくらいははやい。

 まさかの瞬間移動である。それなら飛ぶとかそういうレベルではないので、瞬間!速達くんとか、瞬間移動を思わせる名前にすればよいと思うのだが。

 因みに、このお手紙セットは流通していない。月の民の工房でのみ作成が可能だ。

 それはそうだ。こんなものが普遍したら郵便配達業は悲鳴を上げるだろう。

 

 しかし、これまで普通にディートリッヒの話を聞いていたが、彼はこの世界にきちんと存在しているのだろうか。

 彼はカヨのパートナーである。彼が存在するにはカヨもこちらへきていないといけないのではないか。

 確かにカヨはこちらの世界へやってくるときに「こっちにもおうちがあったほうがプレイしやすい」という理由で、こちらの世界にもマイルームを建てたが、それだけで二人の存在は確定するのだろうか。

 アヤネは不安になった。もし、ディートリッヒがいたとしても、彼の妻となるカヨがいなければ、彼はとても寂しいだろう。こころに穴があいてしまうに違いない。

 

 アヤネはアイテムポーチを探り、お手紙セットを取り出した。

 送り先のところにカヨの名前を書く。

 内容はどうしようか。空メールでは何だか不気味だろう。

 かといっていきなり長文で殴るのも良くない。

 アヤネは悩んだ末に「チビ」とだけ書いて便箋を封筒へ入れた。

 封筒はは自ずと封がなされ、光を帯び、消える。

 これだけで文通ができるのだから便利なものだ。宛どころにたずねがないと返ってこなければ良いのだが。

 アヤネの心配をよそに、手紙ははやめに返ってきた。

 送ったときから時間はほとんどたっていない。

 アヤネは恐る恐る手紙の封を開けた。すると、中から再生マークだけが書いてある便箋が飛び出てくる。

 このお手紙セットは音声を添付することも可能だ。

 宛どころにたずねがない場合はどうだっただろうか。そういうメッセージが流れる音声によるものだっただろうか。

 アヤネは再生マークに触れた。

 

 途端、大音量の女性の声がアヤネの鼓膜を貫く。


『はぁあああああ?!?!あーちゃんもこっちにいるんだ嬉しい♡って思ったのに何このメッセージ?!チビって何?!チビって酷くなぁああああい?!

 てかチビじゃないもーん!かわいいサイズってだけだもーん!!!いいじゃんかわいいサイズでおムネはおっきいもーん!!!

 あ~!ごっめーん!あーちゃんは貧乳だったもんねぇ~!虚しい乳とかいてきょにゅう、だもねぇ~!!!フラット、更地、山ひとつない見晴らしの良い大地、耐震EXだもんね~!!これじゃあ下着はおさがりあげられないや~!!あーあ!!

 てか最初のメッセージがチビって酷くない?あーちゃんツンデレだったっけ?ツンはなかったけど……鬱デレ?いやそれは鬱じゃん……じゃなくて、とにかくチビって酷くない?わたし、あーちゃんが謝るまで毎日ディーくんとのイチャイチャ日記を送り付けまーす!

 えーとまず一日目ね。今朝起きたら――』 


 アヤネは停止マークに触れた。


 わぁ。ガッツリいるじゃーん。

 めっちゃ元気じゃーん。

 通常運転じゃーん。


 心配して損した。

 やつめ、やはり身長は気にしているらしい。

 それと下着のおさがりはいらない。過去にもらったことがあったが、デザインの好みがあわないのだ。着るのがなかったから仕方なく着たが。

 さて、そっちが音声できたのならこちらも負けじとレスポンスしなければなるまい。

 アヤネはお手紙セットを取り出し、端に書いてある録音マークに触れた。


「わたしより小さいじゃん。あと乳がちょっとデカいからって何?あんんな肉袋つけて肩こってんの誰だっけ?あと貧乳じゃなくてシンデレラバストね、シンデレラバスト。

 それと下着のおさがりいらない。もう着るのあるし。てか何あの派手なデザイン。趣味悪くない?

 ディートとお前のイチャイチャとか聞いてないから。前に散々聞いたから。あ、謝って欲しいんだっけ。うちのスキューが可愛すぎてごめんねぇ~~~~。はいこれでいい?謝ったからOKね。あとシンデレラバストな。シンデレラバスト。」


 録音を終了し、便箋を封筒につっこんだ。

 封筒はまた消え、送達される。

 そしてまたすぐに返ってくる。

 さすがカヨ。即レスが得意と言っているだけある。


『身長がちょっと高いからっていい気になってんじゃねぇええ~!!!おムネは武器だし?ステータスだしぃ?確かに肩こるけど……あーちゃん揉んでくれるでしょ♡

 シンデレラwwwバストwww何それwwwえ?何?魔法でデカくしてもらえるとか夢みてるの?妖精さんがビビビーって?wwwムリムリwwwあーちゃんもはや無乳じゃんwwwそういえば無乳って響きはいいよね。むにゅーんって。柔らかそう。マシュマロみたいな?

 おさがり貰ってよぅ~!てか今は着る服とかちゃんとあるの?スーちゃんの服はめっちゃあるけど、どうせあーちゃんの服ないんでしょ?じゃ、貰ってね♡それと趣味悪くねーし。

 スーちゃんかわいいのは分かるわぁ……ってそうじゃねーよ何そのムカつく謝り方ぁ!!人を怒らせる方法集に載れ!!

 という訳で一日目その2ね。きょ――』


 停止マークに触れた。

 ここからが長いのだ、彼女は。多分五分くらいは喋っているはず。


「胸が武器って窒息させるってこと?ぅゎ。こわ。肩なら揉んでやるけど、一揉みにつきダンジョン周回一回代わりにやってね。

 それとお前こそかわいいサイズとか夢みてるんじゃないの?あと無乳じゃねーし。ちゃんとあるし。触るか?確かめてもいいんだぞコラ。何がマシュマロだよ鼻に詰めんぞ。

 着る服はありますぅ~。どっかで手に入れたやつだから何があるか把握してないけど。

 お前趣味悪いじゃん。何あのフリッフリでスケスケのやつ。変態しか着ないでしょ。

 スキューはかわいい。異論は認めない。

 あーはいはいワロスワロス。ディートとのイチャイチャは聞いてないから。」


 こちらも即レスには自信がある。オタク特有の早口スキルを発揮して捲し立てた。

 便箋をまた封筒へつっこみ、送る。

 しかしカヨも負けていない。煽られたら煽り返すのがモットーの彼女らしい。手紙は先程よりはやく返ってきた。

 

『窒息しないもーーーん!え、一揉みレートぼったくりじゃない……?あそこでしょ、あそこ。ぼったくりだよ……

 夢見てませーん現実見てまーす。合法ロリで巨乳でーす。そう考えたらすごくない?わたし。ねぇディーくん!わたしすごくなーい?属性盛り盛りじゃん!超魅力的なハニーでしょ、わたし!

 ……え?ちょっと待って、ディーくん喋るの?なになに?』


 音声録音中にディートリッヒに話を振るとはなかなかにカオスである。

 そのせいだろう、ディートリッヒはカヨの録音に割り込んでくるらしい。ごそごそ、という雑音が暫く続くと、艶のある少年の声が聞こえてきた。


『お久しぶりです、お姉様。カヨとばかりお喋りなんて、つれないですねぇ。それとも、お会いしたときにたっぷりお相手してくれるのですか?

 それはそうとして……口喧嘩はこちらにいらっしゃってからにしてください。今、私はお兄様への手紙を書いているのですから。

 カヨったら、お姉様と一緒になると熱くなってしまうんですよ。まあ、煩いと思うかもしれませんが、そこが彼女の可愛いところだと思ってくださいな。

 それでは、これで失礼します。お会いできるのを楽しみにしていますね。』


 録音はそこで切れた。

 まるで近々会うことが確定しているかのような口振りだ。

 スキュブの要求が通らないということはないと思っていたが、既に逃げることのできない予定をとりつけられた気分だ。

 こうやって外堀を埋めていくのが彼のやり方である。

 ヤンデレの彼らしい。恐ろしいと思われるかもしれないが、懐いている相手ほどこういうことをしたがる子なのだ。

 

「……む。ディートの声だ。……はやく会いたいな。」


 スキュブが手紙を覗き込んで呟く。その声は淡白なものではなく、愛が見えるものだった。

 表情もこころなしか穏やかだ。弟への想いがどういうものか見て取れ

る。

 きっとディートリッヒも同じ想いであろう。

 

「多分……てか、ほぼ確実に近々会えると思うよ。ディートのことだもん、絶対会うつもりだよ、あいつ。」


「そうだな。さっきの話からして、断るとディートの方から来るぞ。

 ディートには『おつきのものども』が最低でも三人はついてくる。わたしたちの家では狭いだろう。」


 確かにディートリッヒとカヨ、使用人が三人となると我が家では狭く感じるだろう。

 それと、スキュブとディートが二人で遊ぶにも狭すぎる。それなら外で遊ばせれば良いのでは、と思うかもしれないが、二人ともインドア派なのか、二人きりの時間を野生のモンスターに邪魔されたくないからなのか、室内で遊ぶことを好むのでそういうわけにはいかない。

 ――因みに、スキュブがディートリッヒの使用人のことを『おつきのものども』というのは、ディートリッヒがそう呼ぶように言ったからである。

 そう言われる前は、『おてつだいさん』と呼んでいたからだ。

 あまりにも呼び方がかわいすぎる。この美少年フェイスでそれを言われたら落ちないやつはいないだろう。アヤネもそれを聞いたときは、あまりのかわいさにうめき声を上げた。

 ディートリッヒも同じことを思ったらしい。使用人が変な気をおこさないように、という理由でちょっと行儀の悪い呼び方になった。

 

「あ~……あそこ行くのかぁ。めっちゃ使用人とかいるから部屋に案内されるまでが何か肩こるんだよねぇ……」


「緊張するのか?それなら大丈夫だ、わたしが手を繋いでいこう」


「まじで?それなら楽勝だわ。」

 

「……むふ。そうか、そうか……」


 スキュブの口元が緩んでいる。嬉しいようだ。

 嬉しいのはこっちの方である。

 丁寧に対応されることに慣れていないせいで、変に力が入ってしまうアヤネに対して、少しでもこころが落ち着くように、安心できるようにと彼は提案してくれたのだ。

 恐らく、手を繋いでもらったときに心地が良かったから、自分もそうしようと思ったのだろう。

 端から見ると分かりにくいとは思うが、彼は優しい子だ。こころの根っこは優しい子なのである。

 その優しさが裏目にでないか、ということにいつも怯えているだけで。


「よっし。次の目的地は決まったようなものだね。行くよ、スキュー。」


 アヤネはそう言ってから、ルイスの方へ振り向いた。

 

「それじゃ、今回はありがとうね、ルイス。また何かあったらよろしく。

 ……あと、気にしないでね。こういうモンスター、うちの弟が欲しがってるからさ。困ってるとかないから。」


「いえ、こちらこそありがとうございました。それに、都合も良かったみたいで……」


「そう。都合はバッチリ。問題ないってね。」


 アヤネは言い終わるとスキュブを連れ、ギルドの出口へ早足で歩いていった。

 

 一人残されたルイスは指を顎に添えて目を伏せる。


「……兄弟が、いましたか……」


 ルイスはスキュブとアヤネの会話を思い返していた。

 どうやら二人には弟がいるらしい。となると、二人は姉弟ということになるのだが、アヤネはそうではないと言う。

 双子というわけではないだろうし、二人の謎は深まるばかりだ。

 しかし、それが真実だとするのなら、一つ、確定したことがある。

 夢のような話だが、ありえないような話だが、その可能性が消えてよかった。それが事実であった場合、自分は強硬手段に出なければならない。

 ルイスは眉間をぎゅっと押さえる。


「……ああ、駄目だ。こんなことを考えてしまうようでは。本当に寝不足かもしれないな……」


 ついたため息がどこか重い。

 その足はふらふらと、次の仕事がある方へ向かっていった。


 

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