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仕事とバレンタインイベントとおじさんのアニメがおもしろすぎて更新が遅れました

いつも応援ありがとうございます。この物語も終わりが見えてきましたね

 アヤネたちが泊まる宿の受付に、複数人の男がやってくる。

 受付にいた従業員は読んでいた回覧板から視線を移し、男たちを訝しむように見た。

 

「本日は貸切でして……」 

 

 男たちは従業員の言葉を意に介さず、従業員を取り囲んだ。何人かは別行動なのか、奥の方へと進んでいってしまった。

 

「その貸切にしてるやつに要があってな。」

 

 一人の男が従業員を顎で示し、カウンターを乗り越えた男たちが従業員を押さえつける。従業員はあっという間に口に布を噛ませられ、叫ぶ暇さえ与えられなかった。

 

「身なりのいい奴だった。そこらのやつより金を持っているに違いねぇ!お前ら、手早く済ませろよ!」

 

 従業員を顎で示した男がそう言うと、カウンターから仲間がケラケラと笑いながら出てきた。

 

「女はどうします?」

 

「売るなりバラすなり好きにしろ!」

 

 男たちは下品な笑い声を上げながら、奥へと進んでいく。

 

 従業員は縛られた手足をなんとかしようともがきながら、貸切の予約を入れた女性のことを頭に浮かべた。

 顔を隠した背の低い女性だったが、普通の客とは違った雰囲気のある女性だった。どこか不気味で、あまり関わるべきではない、と勘が告げていた。

 

 どうにかしなければならない。自分の宿のお客に危険が迫っているという焦りと、責任が喉を締めていく感触が額に汗を浮かべさせた。

 それと同時に、どこか背筋がぞわりとするような気もした。この奥で、なにかおぞましいことが起きそうな予感がしていた。

 

 

 

 ・ ・ ・

 

 

 

「ここ、混浴はないんだよなぁ〜」

 

 温泉に浸かりながら、カヨが残念そうに言った。

 

「なぁにそれ。あれでしょ、混浴に入って美人が来るのを待つやつでしょ」

 

 アヤネは呆れたように笑った。

 

「違う違う!それはあるけど違う!みんなで温泉に入りたかったなぁ〜って」

 

「お前の家のお風呂だったらできるでしょ」

 

「お風呂と温泉じゃ状況が違うでしょ〜?温泉のほうが特別感あるじゃん?イベント感あるじゃん?」

 

「それは分かるけど」

 

「まあ……すぐ隣だからいっか。ディーくーーーん!のぼせてない〜?」

 

 カヨが高い衝立に向かって声をかけると、向こうからディートリッヒの声が返ってくる。

 

「のぼせてませんよー」

 

「本当かなぁ。後から冷たいとこにぺたーってしないとかな」

 

「こっそり氷でも張る?」

 

 アヤネがいたずらな笑みを浮かべて、人差し指をちょこんと立てた。

 

「あーちゃんがやったら温泉がスケートリンクになっちゃうでしょ。自分の魔法能力、分かってる?」

 

「重々承知してるよ。だからかるーくやるの」

 

「軽くでもこの水量じゃスケートリンク一直線だって!」

 

 カヨはアヤネの手をほどき、指を絡めるようにして手を握った。

 

「はい封印!スケートリンク製造あーちゃん封印!」

 

「それで封印できたと思ってるの?」

 

「わたしが温泉に浸かってる限り、あーちゃんはここをスケートリンクにはできないはずなんだけどなぁ」

 

「それはそうだね。一本とられたかも。でも、それじゃあ指をからめる必要なくない?」

 

「それは……わたしの好み〜!」

 

 カヨはアヤネに抱きついた。かかってくるカヨのやわらかな重みで、昔、カヨの家のお風呂に入っていたときのことを思い出す。

 狭いお風呂に二人で入って、こうやってカヨに抱きつかれていた。つい昨日のことのようで、懐かしい記憶だ。

 

 しかしそのとき、遠くで物音がした。

 笑顔だったカヨの表情が真顔になり、アヤネはさらりと周囲を見渡す。

 

「なんか音しなかった?」

 

 アヤネがそう聞いたが、カヨはどこか一点を見つめたまま動かない。

 

「……おかしいな。誰も入れないでって話だったんだけど。」

 

 カヨは立ち上がり、暫し考えを巡らせる。

 

「あーちゃん、わたし確認してくる。いざというときはディーくんでも、スーちゃんでもいいから呼んで。どっちもすぐに駆けつけられるから」

 

 カヨは早足で出口の方へと向かう。頭に巻いていたタオルをほどき、引き戸に手をかけた。

 

 引き戸を開けるか開けないか、というとき、迫ってくる足音が聞こえた。

 カヨの目つきが冷たく変わる。手にタオルを持っていることをさっと確認して、アヤネにちらりと目をやった。

 

「……あーちゃん、スーちゃんとディーくん呼んで」

 

 アヤネは頷き、すぐさまスキュブとディートリッヒを大声で呼んだ。

 カヨはそれを確認すると、なぎ払うように引き戸を開けた。

 

「ありがと、あーちゃん」

 

 引き戸の先には男が複数人いた。

 先ほどアヤネが出した声のおかげか、こちらを見て硬直している。

 この硬直も一瞬であろう。相手も相手だ。抵抗されることには慣れている。

 

 だが、その一瞬でよかった。

 男たちの目が見開かれていく一瞬が、スローモーションのように流れていく。カヨは手前の男を睨みつけ、目にも留まらぬ速さでみぞおちに思い切り拳をねじ込んだ。

 

 重い肉の感触と、痛みにえずく音が聞こえる。

 後ろでスキュブとディートリッヒが駆けつける音が聞こえ、カヨはニヤリと口角を上げた。

 ――あの音は、変身して駆けつけた音だ。

 

「な、なんだこの女!」

 

 男が刃物を取り出すのが見えた。カヨは素早く持っていたタオルをその男の顔面めがけて投げつけ、胸のあたりを蹴り飛ばす。

 

「教えたとしても、意味がないよ」

 

 蹴り飛ばされた男が倒れ、残り一人となった男はただ立ち尽くしていた。

 背丈の低い女が目にも留まらぬ速さで次々と男を倒していく。

 金持ちの女と聞いていたのに、護衛をつけていると聞いていたのに、目の前にいる女は何なのだろうか。

 

 女の緑色の目がこちらを捉える。

 爛々と光って見えるそれは人のそれとは思えなかった。猫なんてかわいいものでもない。悪鬼の類いだ。人の皮を被った化け物なのだ、この女は。

 

「あーちゃんの真似、してみよっかな」

 

 倒れた男の首を踏みつけ、カヨは薄っすらと笑う。

 

「デス・ウー」

 

 最大効力の即死魔法が男たちにかかる。たちまち、男たちの意識が刈り取られ、目から精気が消えていった。

 

「……よっわ。この程度の魔法でも効いちゃうんだ」

 

 カヨは吐き捨てるように言った。男たちの首を蹴飛ばし、死亡を確認すると、アヤネの元へ早足で向かっていった。

 

 

 

 ・ ・ ・ 

 

 

 

 カヨが戻ると、奥の方に蜘蛛の姿でアヤネを包むようにしているスキュブと、ぐったりとした男を丸呑みしているディートリッヒがいた。

 男湯の方にも男たちが来たのだろう。自分の兄の所有物が盗まれるのをディートリッヒが許すはずがない。

 

「ありがと、ディーくん、スーちゃん!こっちは終わったけど、そっちは大丈夫そう?」

 

 ちょうど、ディートリッヒの口へ男の足が消えていった。一息つくように身体をくねらせる。

 

「大丈夫です。問題なく終わりました」

 

「ちゃんと全員死んでるね。わたしの方も三人いるけどどうする?」

 

 カヨは男たちの頭を蹴り飛ばし、死亡を確認する。

 

「私の魔法で死にましたよ、こいつら。唱えたのがお姉様でも、お兄様でもないのに」

 

 ディートリッヒはスキュブの方へ振り向いた。

 

「お兄様、人間食べます?」

 

「だいじょーぶ〜」

 

 スキュブはもふもふとした脚を振ってこたえた。その脚元に糸で身体を包まれたアヤネがいる。ちょうど、身体にタオルを巻いたような姿に見えた。

 

「人間ですが、私はこれで大丈夫です。残りは家畜の餌にしましょう」

 

「おっけー。……あ〜、メイドを休みにしたの間違えたかな。」

 

 カヨは頬をかいた。今日はメイドたちに休みを言い渡していたのだ。

 

「いいえ。この程度、メイドたちの手を借りる程では。

 それに、たまには自分で狩るのもいいものでしょう?」

 

 ディートリッヒはカヨの方へとぐろを巻くようにして近寄り、口の先をカヨの頬へつけた。

 

「そうだね。腕がなまっちゃうといけないもの」

 

 その会話をスキュブの腕のなかで聞いていたアヤネは、ふっと一息つく。


「アヤネ、どうかした?」

 

 スキュブはそれに気づいたようだ。もふもふとした脚でアヤネの頬をくすぐるように撫でる。

 

「……いや、頼りある家族だなって」

 

 アヤネが視線を横へそらして言うと、スキュブは笑うように身じろいだ。

 

「ふふ、それもあるけど、カヨとディートの腕がなまるわけないのになー、っても思ったでしょ」

 

「お見通しだね、さすがスキューだ」

 

 アヤネが微笑みながらスキュブの顎を撫でると、スキュブは嬉しそうに触肢を動かした。

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