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「やっと話せたよ〜!ひっさしぶりにあーちゃん以外の人間と話すなぁ〜!」
物々しい鎧の下から快活な女性の声が聞こえ、皆が目を丸めた。
ユーモアのある動きをしていたので厳格な人物ではないことは予想がついていたが、ここまで明るいとは誰も思っていなかった。
「まずは……ダリアさんこんにちは!前に来たときに会ったよね?あーちゃんとスーちゃんから話は聞いてるよ〜!いつも面倒みてくれてありがとうね!同じ鈍器使いとして興味もあるし、会話上手だっていうとこにも興味あるなぁ〜!」
カヨがダリアの手をとって握手をした。ダリアは押され気味に「お、おう……」と返す。
「次に……ミドリさん!はじめましてだよね?あーちゃんから筋の良い魔法使いさんがいるって聞いてるけど、あなたのことだよね!若いのにすごいなんて将来有望だよ〜!
そしてベニさん!あなたもはじめましてだね!スーちゃんから教えた〜って話聞いてるよ!このままちゃんと鍛えれば良い剣士になれるって言ってた!頼れる接近戦メンバーなんだね!
最後にマシロさん!スーちゃんがちゃんと周囲も見れてるし、狙いも良いって言ってたよ!チームを支える良い射手なんだね!」
カヨは三人にも次々と握手を交わす。テンポの良さに三人はされるがままだった。
「いつもは身振り手振りしかできないからちゃんと話してみたかったんだ〜!
あっ、それでスーちゃんの話だよね?スーちゃんはすごいんだよ!全種類の武器が使えるし、スピードも威力も半端ない!あれはあーちゃんが効率重視なのとスーちゃんへの愛があったからこそスーちゃんもそれに応えられたってやつだよね〜!昔は普通の剣を振り回すのもやっとだったみたいだけど、今では何でも一振りでモンスターの首を飛ばせちゃうから、最短で依頼をこなせちゃうわけなんだよね〜!」
カヨの言葉の量に皆、圧倒されていた。そのなかで、おしゃべりなマシロだけがぽつんと言葉を漏らす。
「ふぇ〜……スキュブさんも最初は強くなかったんですね……」
「そうだよ!なんならあーちゃんもわたしもディーくんも!あれは努力だね。ヤッバイ量の努力だよ……訓練スケジュール見たことあったけどすっっごかったもん。あーちゃんもそれをおすすめしてこないあたり、本人にも自覚あったのかもね……」
「じゃあ、二人とも努力で強くなったんですね~。才能とかもあるのかな〜なんて思ってましたけど、誰よりもがんばったからなんだぁ」
「そうそう!まあ……忍耐は絶対に必要だけどね……ね、ディーくん?」
カヨは急に会話を振ったが、ディートリッヒは驚くこともなく淡々と答える。
「お姉様から直々に稽古をつけていただく、というのはそういうことです。終わりが見えませんからね、あれ」
「そんなにやばいんですか……?」
マシロが恐る恐る聞く。カヨは明るくサムズアップをした。
「やばいよ!ご飯は食べられるけど朝入って色々やって出たと思ったら夜だからね!燃え尽きて真っ白になるよ!自然脱色!」
今のアヤネのスケジュールでさえ、誰が見ても引きつった笑いしか出てこないようなものなのに、昔はもっと酷かったと思うと、想像がつかなくて笑えなかった。
借金で首が回らなくなったために仕事を大量に掛け持ちする者でさえ冗談だと思うだろう。
「まあめっちゃキツいけど強くなるよ!本当に!苦戦してた敵を片手でボキッってできたときはびっくりしたね!」
「「片手で……?」」
流石にモンスターの首を片手で折るのはドン引きである。ベニとマシロも思わずハモってしまったくらいに。
「え、片手でボキッ!ってしないの?わたし今日もしてきたんだけど」
「格闘家のひとでも片手で折りはしないですよ……?」
ベニが困惑したように、目線で周囲に賛同を求めた。
「聞いたことは……ないかなぁ……」
「伝説として語られるような方であれば、そのような話はききますけれど……」
「そいつはバケモノだな。普通折れねぇよ」
皆も同感だったようだ。カヨは首を傾げる。
「あっれ〜……常識だと思ってたんだけど……」
「モンスターの頭部を鷲掴みにし、杭打機のような勢いで別のモンスターにぶつけるのは一般的ではありませんよ」
ディートリッヒは立ち上がり、ぱん、と手を叩く。
「そろそろ行きますよ、カヨ。お喋りは十分でしょう。これ以上他の方と仲良くなられては困ります」
カヨはサムズアップをし、無言で立ち上がる。
「それでは皆様、ごきげんよう。もしも仕事で会うこととなったら、近づかないほうが身のためですよ。カヨに轢き殺されても文句は言えませんからね」
ディートリッヒは四人を一瞥して去っていったが、カヨは手を振ってからディートリッヒの後をついていった。
嵐が過ぎ去ったような雰囲気に、四人は暫く呆然としていた。
「……なんか、すごかったね〜」
マシロがぽわーんと力の抜けた声で言った。ベニがそれにこくこくと頷く。
「なんか……すごかった。カヨさん、あんなふうに喋るんだ……全然分かんなかった」
「たくさんお話されて、色んな方と仲良くできてしまうから、カヨさんの旦那様はあのようにしているのかもしれませんわね……」
ミドリも納得したようにそう言った。
「なんつーか……アヤネの親戚ってやっぱ濃いな……性格が……」
ダリアは呆れたように肉を齧った。少し冷めている。あっという間なようで結構時間がたっていたのだろう。




