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企画やイベントを走っていた結果、いつの間にか時間が経過しており、更新が遅れました。
カズラドロップちゃんの宝具、木馬が変形してロボットになるんすね。かっこいいな。低くていい声してるし、いいやつだし。無敵スキルもあっていいですね。なんかギリシャっぽいし。よかったです。
全身に鎧を纏った人物が街を歩く。
見慣れぬ黒いその出で立ちの足音は重く、いつもは外で追いかけっこをしている子どもは物陰に隠れている。
その隣を歩く少年も佇まいこそ美しく、静かで清らかに見えるが、触れた瞬間手を切り落とされそうな恐ろしさを醸していた。
二人が行く道に人はいない。
避けた人々はその背中を伏せがちに眺め、遠く離れたところでは風にかき消されそうな声で話をしている。
ギルドに着いてもそれは変わらなかった。
二人を見たことがある者も目を見張り、思わず武器に手を置く程だった。
へカテリーナの隣でロッパーの警告音が鳴る。へカテリーナは戸惑いながらもロッパーの前に出た。
「ルイス、へカテリーナ、ロッパー、は貴方たちでよろしいでしょうか」
ディートリッヒが三人の前まで来てそう訊ねる。三人が頷くと、ディートリッヒはそのまま言葉を続けた。
「お姉様とお兄様の代理で参りました。面識のある方もいると思いますので、自己紹介は省略しますね。」
ディートリッヒはアイテムポーチからメモを取り出し、読み上げようとしてふとカヨの方を見る。
「……ご存知とは思いますが、私の隣にいるのが妻のカヨです。この前とは格好が違うので一応お伝えしておきます」
カヨは紹介されたが微動だにしなかった。その様子にへカテリーナは顔を曇らせる。
「……ちょっと、いいかい?」
へカテリーナが軽く挙手をした。ディートリッヒはさして興味がないような様子でへカテリーナを一瞥した。
「どうぞ」
「いろいろ聞きたいことがあるんだけど……まず、アヤネとスキュブはどうなったの?遠目で見てたけどさ、結構まずい様子だったんだけど――」
「貴方たちは知らなくても良いことです。ですが、これくらいは答えておきましょう。お兄様にはお姉様がついておりますので心配は不要です」
へカテリーナが言い終わらないうちに、ディートリッヒは答えた。
「……アヤネも大丈夫なの?あの子、目を離すと無理するから」
ディートリッヒの冷たい声色に物怖じしないへカテリーナに、ディートリッヒは微かに眉をひそめた。
「私たちの管理下にあるのです。お姉様の身に何かがあったら、などということはあり得ません」
ディートリッヒは口早にそう言うと、話を切り上げるようにメモの内容を読み上げ始めた。
「依頼内容の確認に移ります。対象は特殊個体の人魚一体、達成条件は人魚の討伐、及び討伐の証拠となる人魚の一部の納品、でよろしいですか」
へカテリーナが頷くと、ディートリッヒはメモをアイテムポーチに素早くしまい、姿勢を正した。
「それでは参りましょう。人魚に関しましてはこちらで始末いたしますので、作戦等の再確認は不要です」
ディートリッヒとカヨが踵を返し、歩き出そうとした。
「ちょっと待って!」
へカテリーナが一歩踏み出した。
ディートリッヒは足を止め、振り返る。
「……何でしょう」
「君の奥さん……前にあったけどさ。本当に中身、一緒?」
「同じに決まってるでしょう。どこを見ているのですか」
ディートリッヒは不機嫌そうに言い捨てて、再び歩き出した。
・ ・ ・
二人と会ったことはあった。
アヤネに連れられてギルドに来た二人は仲の良い夫婦といった様子で、カヨは喋らないものの、明るく愉快な人物だった。
表情は見えなかったが、アヤネと一緒にいるときは本当に楽しそうだった。こんな友人がいるのなら、アヤネも大丈夫だろう、そう思えるほどだった。
今、二人の背中を見ると別人のようだ。
人間に二面性があることはこの歳になれば分かることだが、中身がそっくり違うのではないかと思うくらいだ。
へカテリーナは魔法で波をゆらしながら、杖をぐっと握った。
そういう雰囲気は見たことがないわけではない。仲間を殺された者が復讐に向かうときのそれと似ている。
ルイスも同じことを思っていたようだが、ロッパーにはなるべく二人とは距離を取るように話した。
武器の射程範囲に入ったら、命があるか分からない。あの二人の武器は敵味方関係なく振るわれるだろう。
波が揺れ、海から影が現れる。
餌につられて罠にかかるネズミのように、人魚は姿を現した。
水飛沫が上がり、人魚に雷が走り、それを避けて……そこまでは前回と一緒だった。
カヨが兜に手をかけたとき、プログラムされたように同じ動きをする人魚の動きが止まった。
カヨの桃色の髪が風にほどかれ、鎧の下の素顔が晒される。
人魚は目を見開き、ぴくりとも動かない。
すれ違いざまに一目惚れをした映画の主人公のように、カヨの瞳に釘付けになっていた。
波の音が随分遠くに行ってしまったような気がする。風も息を殺したように静かだ。
カヨが兜を脱いだそのときから、全てが変わってしまったかのようだ。
静寂のなか、カヨの唇が開いた。
息に呪文を溶かし、甘い言葉を囁くように、それは唱えられる。
「チャーム・ウー」
魅了の魔法だ。最大威力のそれは、唱える者によっては魅了耐性のある対象にさえ効果がある。
低い声に、人魚は弾かれたように頭を反り返らせた。目を両手で覆い、そのまま浜へ倒れ込む。
「……やっぱり魅了耐性はあるんだ。生意気」
カヨは片手で後ろに背負ったハンマーを持ち上げた。
常人では扱えぬ大きさのそれを、彼女は杖でも扱っているかのように振り下ろす。
鈍い音が鳴った。
骨が折れ、肉が潰され、人魚の口から血が吐き出された。
彼女が狙ったのはみぞおちのあたりだった。頭を狙えば即死だっただろうに。
人魚は声にならないうめき声をあげ、震える腕で下腹部を押さえる。
闇の中で手探りをするようなその様を、カヨは冷たい目で見下ろした。
「何してるの?」
人魚は喉で息をひゅうひゅうと鳴らす。魅了を完全に防げていないせいで液体に変化することもできず、陸で干からびた魚のように横たわることしかできなかった。
「何してるのって聞いてるんだけど」
カヨは冷たい眼差しのまま、人魚の下腹部を踏みつけた。
人魚は火炙りにされたような形相で荒い呼吸をする。
「お……おな……か……の、こ……」
ほとんど言葉になっていないような訴えだったが、カヨは構わず足で煙草の火を消すように踏みにじった。
「ここに何かあるって言うわけ?」
人魚は顎の肉が盛り上がるほどに歯を食いしばり、ぎらぎらと光る目でカヨを見た。
カヨはそれを一瞥し、ディートリッヒに目で合図をした。
「かしこまりました」
ディートリッヒは手にしていた槍の矛先を人魚の腹へ突き付ける。
人魚はぴくり、ぴくりと身体を震わせ呻いた。
「私の妻に魅了されているというだけでも不快極まりないというのに、それに抵抗するなんて、更に不快です。」
ディートリッヒは躊躇なく人魚の腹を裂いた。
バターでも切っているような手つきは美しかった。そして何の感情もなく、冷酷だった。
血が浜を染め、悲鳴のような掠れ声が空を切る。
カヨはそれを路傍の石を見るように眺め、しゃがみこんだ。そして何度もやったことがあるような手つきで人魚の腹に手を突っ込み、中身を引き抜く。
カヨの手には"人間の"胎児のような形をした肉塊が握られていた。
血の滴るそれは最初こそ胎児そのものだったが、次第に黒い煙と化し、骨も残らず消える。
カヨは眉をひそめ、立ち上がる。
「ディーくん、これ、ミミックだよね」
「私もそう思います。人魚とミミックの混血でしょう。
……私たちの『母』であれば、やりそうなことです」
「そうだよね。もうはっきりしたからいいや。」
「ええ。それでは、貴方の望むように。」
カヨは兜を被りなおし、踵を返した。ディートリッヒはその後ろで槍を軽く薙ぐ。
仕事は終わった、というようにこちらへ歩いてくるカヨに三人は戸惑った。
「……あの、人魚はどうなったのですか?」
目の前まで来たカヨにルイスはそう聞くと、カヨは親指で首を切る仕草をした。
三人が未だに戸惑っているような様子なので、カヨはディートリッヒの方を指差す。
ディートリッヒは人魚の首を持ってこちらへ歩いてきていた。
人魚の頬に、流れた涙の跡がはっきりと残っている。長く美しい髪は首と一緒に切れてしまったのだろう、ばっさりと短くなっていた。
開かれたままの目は虚ろだった。
焦点の合わない視線はどこを見つめているのだろう。
「人魚ですか?証拠になりましたよ。こちら、私たちの方で運ばせていただきます」
当然のようにそう言うディートリッヒの背後に既に遺体はなく、浜には血の跡だけが残っていた。
戦闘描写を書こうとすると筆の速度が落ちます
好きじゃないんでしょうね




