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推しキャラ推しユニットイベント、推し水着実装イベント、読みたいものの急増などで更新が遅れましたが新章突入です。

雌雄同体な子で男性妊娠という自分の癖に忠実に書きますのでゆっくりしていってね!!!

 人が通れるよう整備された森の道を歩いていると、開いた空から注ぐ太陽の光がふとまぶたに注いで、足を止めた。

 太陽はさんさんとしているが、風があるので心地よかった。

 汗ばんだ肌の上を風が撫でていく涼しさは、冷たい水を浴びるのとは違った良さがある。

 アンヘルにとってはどちらも良いものだが、ついつい身体をぶるっとさせたくなってしまうので、人前では少々控えたいのだ。

 

 木々が揺れて、たくさんの葉が噂話をしているみたいにざわめく。

 ギルドに来る前は当たり前のものであったが、今では懐かしい音だ。

 今度の休みは実家に帰ってみよう。受付の人にもそろそろ長めの休みをとるように勧められたところだったので、ちょうどいい。

 

 森を抜けると、眩しい日差しが明るみになる。

 肌をじりじりと焼くような夏の太陽は、綺麗だけれど手厳しい。

 緑を青々と輝かせ、水面をきらめきで彩らせる太陽の力は強く、こちらの体力を容赦なく奪っていく。

 

 後ろの三人は大丈夫だろうか。マシロとベニは幼い頃から両親と共に森に入ったりしたことがあるようだが、ミドリは裕福な家の生まれだというので、もしかしたら慣れていないかもしれない。

 本人曰く、それで倒れるほどやわではないらしいが、全員の顔色は見ながら進むべきだろう。

 

「やっと森を抜けたね〜」

 

 マシロが手でぱたぱたと扇ぐ。

 

「マシロ、ここからが本番なんだからね!気を抜かない!」

 

 ベニがアイテムポーチから扇子を取り出し、マシロを扇ぐ。

 

「うへへ〜すずしい〜」

 

「もう、マシロがしっかりしてくれないと、安心して戦えないんだからね?」

 

「ミドリちゃんもアンヘルさんもいるから大丈夫だよ〜」

 

「ミドリもアンヘルさんも、マシロがいるからガンガンいけるんだから、そういう考えはダメ!」

 

「そうですわ。わたくしが落ち着いて戦えるのも、あなたの活躍があってこそ、でしてよ?」

 

 ミドリも扇子を取り出して、マシロを扇ぐ。

 その所作はやはり優雅で、持っている扇子にファーがついていたら様になっただろう。彼女はシンプルなデザインの方が好きらしいが。

 

「えへへ、二人がそう言うなら〜」

 

 マシロは穏やかに笑って、二人からの風を受けていた。

 

 この様子だと大丈夫そうだ。マシロは暑がってはいるが、顔色は悪くない。

 そもそもこの三人であれば、アンヘルより先に体調不良に気づきあうことができる。それくらいに仲が良く、互いをよく見ているのだ。

 

「三人とも、大丈夫そう……ですね」

 

 アンヘルが振り返ってそう声をかけると、三人ともこくりと頷いた。

 

「ええ、大丈夫ですわ。わたくしたちも初心者とはいえ、ギルドの一員ですもの。これくらいは平気ですわ」

 

 扇子をたたみ、ミドリは上品に微笑んだ。

 

「ミドリってお嬢様って感じなのに、森とかスイスイ行けるしね。前に採集の依頼で森に入ったとき、いつもみたいにさらさら〜って歩いてたからびっくりしちゃった」

 

「わたくしの才を見抜いたお父様のおかげですわ。優れた人材は見逃さないことで有名ですもの」

 

「じゃあ結構教育熱心だったの?」

 

「巷で言うような教育熱心とは違うような気がするけれど……わたくしが学びたいと言ったことに関しては指導も投資も惜しまない方でしたわ」

 

「流石だよね……私のお父さんもいいひとだけどさ、ミドリのお父さんもすごいよね!」

 

「ええ、自慢の父ですわ。

 家に遊びに来てくれたら……紹介を……」

 

 ミドリが照れくさそうにそっぽを向く。

 

「行きたい行きた〜い!ね!ベニ、一緒に行きたいよね?行こう〜!」

 

 マシロがベニの腕をぎゅっと抱きしめ、屈託のない笑顔を浮かべた。

 

「そんなの答えは決まってるでしょ!

 あ、でもあれかな……いっぱいオシャレした方がいいよね?」

 

「気にしなくてもいいけれど、お二人に似合う服ならわたくしが仕立てますわ。

 お父様にもわたくしの腕前を見せられますもの」

 

 ミドリは得意げに胸を張った。

 彼女の家は富裕層向けの衣服や、高品質な装備品などを製造している財閥のひとつで、彼女はそこの娘として、衣服を仕立てる技術を叩き込まれた。

 刺繍などはお手のもので、アンヘルもかっこいい刺繍――かっこいいひまわりをリクエストした結果、力強いひまわりの刺繍が施された――のハンカチをもらったことがある。

 

 彼女は魔法使いとしても、仕立て屋としても良い腕を持っている。

 そのため、多くの者から期待され、新人にとっては憧れの的となっているが、勿論ライバルとみなされることも多く、嫉妬の対象でもあった。

 それらの視線や言葉の応酬を華麗にかわす大人びた余裕もあって、余計に彼女を嫌う者もいたりする。

 

 それでも彼女は気にしていないらしい。

 そんなもので挫けるレディではないとのことだ。良い友達が傍にいるのもあって、傷ついたことなど一度もないらしい。

 

「そのためにも、まずは依頼をこなしませんと。気を引き締めていきましょう」

 

 ミドリは杖をしっかりと握り直し、ベニとマシロもそれに続いて頷いた。

 息のあったチームだ。戦闘でも連携がとれているのに納得がいく。

 

「いざというときはミドリさんのテレポートで逃げましょう。

 強力な敵だったら、もっと強い人方が対処するので、命を大事にする方向で調査お願いします!」

 

 アンヘルの言葉に皆は頷きあい、進みだした。

 

 目的地は森を抜けた先にある海だ。

 広くもなく、小さいというわけでもない、なんの変哲もない海。

 今回の依頼はそこに最近現れる謎のモンスターについての調査だ。

 近くの住人が子どもたちをつれてこの海に来た際に目撃したらしく、正体は不明だが、ここにモンスターの目撃情報があったことは今までなかったため、念のためにと報告をしてくれたようだ。

 依頼を出してくれたのはそこの村長で、危険なモンスターであれば、依頼を調査から討伐に変え、報酬を上げてくれるとのことだ。

 これなら撤退することになってもベテランの人に任せられるだろう。

 

 アヤネなら報酬関係なしに片付けてくれそうだが、彼女は他の人には難しすぎたりする依頼を大量にこなしているので、頼むのは少し気が引ける。

 それでも頼めばやってくれるが、ただでさえ過密なスケジュールがどうなるのか想像すると、さすがに……と思う。

 

 まあ、そこまで心配することはないだろう。浅瀬にでてくるモンスターならば巨大クラゲのようなものだ。

 海に出てくるモンスターは船を襲ったりするものが多く、浅瀬にはあまりでてこない。

 水が豊富にあるところのほうが有利だし、船には自分たちの餌があると思っているようなので、人間しかいない浅瀬より船を襲いたいのだろう。

 

 流木が浜にうちあげられた海には、波の音が静かに漂っている。

 モンスターの気配はなく、平然とした様子で、ここに危険があるだなんて想像もできないような眺めだった。

 

 砂浜を進み、海辺へ近づいてみても、これといった気配はない。

 子どもが浅瀬で遊んでいたときに現れたと聞いているが、本当にいるのだろうか。

 

「今のところ、気配はありませんわね」

 

「遊んでるときに出たんだっけ?」

 

「そのように聞いていますわ」

 

「私たちも音とか出してみる?」

 

「ですわね。ちょうど良い大きさの流木があれば……」

 

 ミドリとベニが話している間に、マシロが手頃な大きさの流木を持ってきた。

 

「ちょうどいい棒持ってきたよ〜」

 

「ナイスマシロ!これで暫くぱしゃぱしゃしてみよう!」

 

 全員が棒状の流木を手にし、海辺のあたりで音を鳴らす。

 水で遊んでいるような音を四人並んで出している光景に、ベニはため息をついた。

 

「何やってるんだろ……私たち……アンヘルさんに手伝ってもらってるのに……」

 

「大丈夫ですよ!僕こういうの好きなので!」

 

 目的のために地道な作業をするのは苦手ではない。そういう小さなことから丁寧に、とルイスから教わっているので、むしろどんとこいなのだ。

 

「すごいなぁ〜。こういうの、ミドリちゃんのほうが得意だよね。」

 

「地道なことこそ大切ですもの。ね、アンヘルさん?」

 

 ミドリがこちらを見てほほ笑みかけた。

 

「そうですね、そういうことこそ大事って教わりましたし、僕もそう思います!」

 

「先輩の鑑だわ……」

 

「かがみですね〜」

 

 ベニの真似をするマシロ。意味はあまり分かっていなさそうだ。

 

「それにしても、こんな海辺でモンスターなんて珍しいよね〜」

 

「海のモンスターって船を襲うのよね?私たちはまだやったことないけど、先輩たちが言ってるのを聞いたことがあるよ」

 

「そうですわね……親戚の方から船で襲われた話なら聞いたことがあるけれど、港で襲われた話は聞きませんわ。」

 

「え、大丈夫だったの?親戚の人……」

 

「心配ありませんわ。腕が立つ護衛の方が何とかしてくださったおかげで、無傷で済みましたの」

 

「そっか、護衛の人もすごいのか……」


「とても強い方でしたわ。今は歳だからそろそろ隠居を……なんておっしゃってますけれど、まだまだ若い方には負けないという雰囲気ですもの」

 

「「この歳の戦士がいたら、生き残りだと思え……ってやつだ……」」

 

 ベニとマシロが同時にそう言った。

 

「三人とも仲良しなんですね!」

 

 アンヘルがそう言うと、ベニとマシロは照れくさそうに笑った。

 

「ふふ、自慢の友人ですわ。最初に出会ったのがベニとマシロで本当に良かったと――」

 

 誇らしげに語っていたミドリが、急にそこで口を噤んだ。

 ぱたりと止んだ言葉に違和感を感じ、アンヘルがミドリの様子を確認しようとしたとき、ふっと今までにない匂いが鼻をかすめる。

 

 海の香りだけど、今までにないような。

 ほんの微かなのだが、どちらかというと嫌な予感、というのに近いのかもしれない。

 

 こういう勘は信じたほうがいい。

 今までもこの勘に助けられてきた。

 

 アンヘルは立ち上がり、戸惑うマシロとベニに後ろに下がるよう促した。

 ミドリも同様にし、杖を構えて臨戦態勢に入る。

 

 海に影が現れる。

 魚とは違う影がまっすぐに向かってくる。

 素早いその動きは今にも姿を現して飛びかかってきそうなほどだ。

 思い当たるモンスターはいくつかあるが、こんな浅瀬には来たことがない。

 変異種、というものなのだろう

か。それとも何かあって異常行動をとっているのだろうか。

 いずれにせよ、警戒せねばなるまい。

 

 剣を構えると、影が姿を現した。

 ぬらりと水を纏った影が浅瀬で身体を起こし、白く長い髪が日の光を照り返す。

 

 美しい人魚だ。

 身体つきから男性だと分かるが、その顔立ちはどこか女性のようで、両方の特性を持ち合わせているような不思議な雰囲気だった。

 改めてよく観察してみると、しっかりとした体躯とはいえないが、線が細いというわけでもなく、やわらかな丸みを帯びていそうでそれなりに筋肉がある。男性と女性の身体の美しさをあわせ持ったような身体つきといえば分かりやすい。

 

 人間としてすれ違ったら、美しい女性にも、男性にも見えただろう。

 中性的、という言葉はこういうことを表すためにあるのかもしれない。

 

 しかし、一つだけ違和感のある部分があった。

 腹だ。下腹部が少し膨らんでいる。

 太っているということではない。そうであれば他の部位にも脂肪がついているはずだ。

 下腹部だけが膨らんでいる。まるで子どもを授かった母のように、いのちをそこに抱えている。

 しかし、人魚といえど子どもを授かるという神秘を起こせるのは女性だけだ。

 彼はどのようにしてその神秘を起こしたのか。想像することは難い。

 

 長いまつげで翳っていた目が光を受ける。

 瞳の色は黒いが、どこか赤みがかっていて、見つめていると吸い込まれそうだった。

 

 人魚は海の深いところに住んでいるのに、どこかぬくもりを感じるその表情は、名画のなかでやわらかく微笑む女性のよう。

 

 手を差し伸べられたら近づいていってしまいそうだ。

 話したこともなければ、会ったのも今日がはじめてなのに、手を取って微笑んでくれるような気さえする。

 

 人魚の唇が微かに動いた。

 何かを口ずさむのだろうか。人魚の声はひとのこころを奪うというが、こんな浅瀬まで来て彼は何をするつもりなのだろうか?

 

 さらりと風が頬をかすめたとき、それに音色を乗せるように人魚は口を開いた。

 言葉が透き通る声と共に奏でられ、意味を持ったものとして伝わってくる。

 それは幼き日にひだまりで聞いた子守唄に近く、こちらへくるよう誘う意味を纏っていた。

 

 人魚は腕を広げ、微笑む。

 おいでと言うようなその仕草に、アンヘルは母親のことを思い出した。

 血の繋がりは無いが、天からの授かりものだと言って、本当の我が子のように育ててくれた、あたたかい母。

 駆け寄っていけば、抱きとめてかかえあげてくれたのを今でも覚えている。

 

 その風景が、妙に鮮明に目に浮かぶ。

 思い出に浸るときよりももっと明らかで、深い。記憶の海に沈んだようなここちだ。

 これではまるで幻影だ。過去の記憶を歩くようで、はっきりとした夢の中をざぶざぶと進んでいくようで。

 

 このままではいけないと本能が告げた。

 覚めなくなる前に出なければならない。

 しかし解き方が分からない。こころの何処かがここに居たがっているし、これがどういう状態異常なのか分からない。

 混乱とは違うし、魅了とも感覚が違う。

 

 徐々に目の前の人魚が母と重なってきた。

 面影も声も違うのに。こんな風にやわらかいだけの人ではないのに。

 やさしくあたたかい人だが、叱るときはどこの誰より怖かった。やさしいけれど、甘い人ではなかったのだ。

 母として我が子を守る覚悟を持った強い人でもあった。

 なにより、ここまで愛をもって育ててくれた人だった。

 

 それを目の前の人魚と重ねるなんてできない。アンヘルは勝手に移ろっていく意識に強く歯を食いしばって抵抗した。

 

 ――突如、熱風が側を通り抜け、深いところに落ちていた意識が、ふっと顔を見上げたように浮上する。

 それは微かなものだったが、抜け出すには十分な突破口だった。

 アンヘルは首をぶるぶると振って幻影を払った。

 夢が空気にとけ、侵食されかけていた意識が晴れる。

 視界もはっきりして、今の状況がぱっと目に飛び込んできた。

 

 そして、目を疑った。

 毛を逆立てて牙をむく獣のように殺気を放ち、唸り声をあげるミドリの姿がそこにあった。

 見えたのは後ろ姿だけだが、表情は見ずとも手に取るように分かる。

 

 彼女は身を微かに低くし、人魚に向けて炎を放っていた。

 人魚は水を自由に操ることができるので、炎は効かないはずだが、目眩ましや隙をつくるには十分な火力だ。

 

 人魚は水で炎を振り払う。

 そのとき、一瞬だが歌声に近い言葉が止んだ。

 

 ミドリはその隙を見逃さず、杖を振るう。

 

「テレポート!!!」

 

 幸運なことにテレポートの効果範囲にいた四人は幻のようにそこから消えた。

 

 海には波の音が漂うだけとなった。

 人魚は目を細め、ゆっくりと静かに海へ戻っていった。

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