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fgoの塔イベで、嫁の足を撮ってたりしていましたが、案外投稿は遅れませんでした。

ところで、やっとこ水着の嫁をおむかえしたのですが、これは重婚ということになるのでしょうか。

マナプリズムで指輪も買っちゃったしつけちゃったんですが……

「あーちゃん、何でスーちゃんが怒ってるのか分かる?」

 

 糸で巻かれて動けないアヤネのもとにやってきたのはカヨだった。

 

 ベッドのヘッドボードに寄りかかるように座らされたアヤネの隣で、カヨはくつろいだ様子で膝を抱えている。

 

「……昨晩起きたことが主な原因なんだろうけど……

 覚えてないんだよね。記憶がすっぽり抜けちゃったみたいに。

 身体は大丈夫なんだけどな……」

 

「そういうところだよ、あーちゃん」

 

 カヨはため息をついた。

 

「記憶がすっぽり抜けちゃった〜なんて状態、大丈夫じゃないに決まってるじゃん。

 大体そういうときって、あーちゃんパニックになった後だよ」

 

 カヨはアヤネと付き合いが長い。

 アヤネのことはお見通しだ。

 

 アヤネの記憶が抜けてしまったときは、大抵昔のことを何かの拍子に思い出してしまった、ということが多い。

 

 忘れている今はこんな風に、普段通りに話せるが、ギルドに行けば思い出してしまうだろう。

 一緒に行った人からも、あの後は大丈夫だったのかとか、色々と質問されるに違いない。

 

「てかさ、スーちゃんがあーちゃんとここに来たとき、どんな状態だったか分かる?」

 

 アヤネは目尻にしわを寄せ、唇を噛んだ。

 暫し目を伏せて黙っていたが、やがて、重たくなった口を開く。

 

「……教えて」

 

「すっごい苦しそうだった。

 もうほとんど蜘蛛モードだったし、自傷もしてたし」

 

「……自傷……?何で……?何があったの?」

 

 アヤネがカヨのほうへ身を乗り出し、態勢が崩れそうになる。

 

 カヨはアヤネの身体を元の位置に戻しながら、言葉を続けた。

 

「あーちゃんが悪夢にうなされてたみたいでさ。

 スーちゃん、心配になってあーちゃんの様子を見に行ったんだって。

 そしたら……あーちゃん、やっぱり、"アイツ"の夢見てたらしくて」

 

 カヨの目つきが鋭くなる。

 

 カヨは、"アイツ"の話になると、こういう表情をする。

 

「スーちゃん、あーちゃんがその記憶に連れて行かれちゃうのが、もうどうしようもなく嫌で、それならいっそ、自分の中に入れちゃおうって思ったんだって。

 でも、あーちゃんを食べると、あーちゃんが痛いでしょ。

 でも、あーちゃんをものすごくお腹に入れたいって状態。

 それで、うちに連絡くれたの」

 

 カヨはアイテムポーチから、一枚の紙を出した。

 

 アヤネはその正体に目を見張る。

 瞬間移動する手紙セットの便箋だ。

 所持しているのは知っていたが、半ば蜘蛛になりかけの状態で、その行動に出たのは想定外だった。

 

 しかし、便箋には宛先以外の記入はない。

 音声も添付できるのだが、それもないようだ。

 

「ディーくんがあげてたの。

 もし、助けが必要だったらこれに何も書かないで出して欲しいって」

 

 カヨは便箋を裏返して、アヤネに見せる。

 そこにはディートリッヒの筆跡で「SOS」の文字が書いてあった。

 

「モンスターに変身すると、喋りづらくなるでしょ。

 そのせいで魔法が唱えられないから、テレポートもできないしね。

 だから、ディーくんがあげたみたい。」

 

 カヨは手紙を綺麗にたたんで、アイテムポーチにしまう。

 

「スーちゃん、鎮静剤も打ってたけど、あーちゃんがずっと苦しんでたからね。

 落ち着こうと思っても、あーちゃんが目の前で唸ってるんだもん。落ち着けないよ。

 それでも、ここであーちゃんのこと食べたら歯止めがきかなくなるって、自分の腕を食べてたの。

 ……一噛みくらいはしちゃったみたいだけど」

 

 アヤネは胸を突かれたような痛みを覚えて、眉をひそめた。

 

 スキュブの再生能力は高いが、そういう問題ではない。

 アヤネを傷つけぬようにと、自分を傷つけたのだ。

 それが分かって、痛みを覚えぬ者がいるだろうか。

 

「うちにテレポートさせて、暫くしたら落ち着いたけど、スーちゃん落ち込んでたよ。

 あーちゃんが苦しんでるのに助けられないって。あっち側にいっちゃうと連れ戻せないって。

 それなのに、あーちゃんが無理して笑うから、すごく痛いんだって。」

 

 カヨはアヤネの髪を手に取り、さらりと手のひらの上で流す。

 

「あーちゃんいつもそう。

 スーちゃんに心配かけたくないのは分かるし、スーちゃん第一なのも分かるけどさ。

 あーちゃんはいっつも自分のことはどうでもいいみたいな、そういうことするんだもん。

 ……ちょっとは頼ってほしいな」

 

 カヨの指がアヤネの髪の先で止まり、何か、一本を探るような動きになる。

 

「わたしたちだって、あーちゃんのこと好きなんだよ。

 好きな人が、好きな人に蔑ろにされるの、わたしは嫌だな」

 

 カヨはアイテムポーチから、小さなハサミを取り出し、アヤネの髪の先を、慣れた手付きで切った。

 

 迷いなく、手早いそれに音はない。

 聞こえたのは、口を尖らせたような、長いため息だけだった。

 

「……ほんと、昔から変わらない。

 枝毛もそのまんまだし、石けんで雑に髪の毛洗うし。」

 

「……ごめん」

 

「謝るならなおしてよね。

 昔と比べると、よくなったけど、さ」

 

「癖なのかな」

 

「そうだよ。今気づいたの?わたしはずーっと前から知ってたよ」

 

「……どう頼るのか、あんまり分からない、かも」

 

「助けてって言えばいいよ。

 あとは、わたしたちが何だってやってみせる。」

 

「……分かった」

 

 カヨはアヤネの髪の毛を、指でさらりと梳いた。

 

「スーちゃんが傍にいるときは、スーちゃんをちゃんと頼って。

 スーちゃんはあーちゃんの半身、あーちゃんもスーちゃんの半身なの」


 アヤネはカヨの方へ振り返る。

 

「……そうだね。スキューにとっても、わたしは半身か」

 

「当たり前でしょ。

 スーちゃんが帰ってきたらちゃんとお話してね。スーちゃん、すっごく心配してるんだから。

 ……そうすれば、昨晩あったことも、ちゃんと話してくれると思うよ」

 

「お前からは聞けないのか」

 

 カヨはやわらかに笑った。

 

「それはスーちゃんとの約束違反だから。

 あーちゃんがまたパニックになるかもしれないしね。ちゃんと休まないと」

 

 アヤネは軽く息をつく。

 

 身内が気を遣ってくれているとはいえ、自分の知らないところで様々な思惑が動いているのを知ると、何とも言えない気分になる。

 

 カヨも、ディートリッヒも、スキュブも、アヤネのために、アヤネを傷つけないように、と裏で動いていることがある。

 

 スキュブはなるべくアヤネに話を通してくれるが、カヨとディートリッヒは、全く話もしなければ、勘付かれるようなこともしない。

 そんな二人にスキュブが加わると、スキュブがこちらに話をする前に、事を終わらせてきたり、スキュブの思考を読んで、そうすることが当然だと、スキュブに思わせるようにしてきたりと、かなり隠蔽性や攻撃性の高い行動をする。

 

 もし、それを止めたいのなら、勘でカヨに釘をささねばならない。

 主に司令塔となるのはカヨだ。

 カヨが思案を練っている間に、過激な方向へむかわぬようにしなければならない。

 

「そういえばだけど」

 

 アヤネがそう聞くと、カヨは、ふっとアヤネに視線を向けた。

 

「なぁに?」

 

「この部屋、いつ準備したの?」

 

「……いつだっけ。わりと前だよ」

 

 カヨは顎に人差し指を添え、考える素振りをする。

 

「そうだ。あーちゃんがこの世界に来てから、初めてわたしに手紙を送ってきたあたりだ。

 ディーくん経由でお願いされたの。

 もし、あーちゃんのことを閉じ込めたくなったときのために、部屋を用意してほしいって。

 ここが一番安心だからって言ってたみたい」

 

「お前の思惑かと思ってた」

 

「それも半分ある。

 あーちゃんがギルドで酷いことされたらここに閉じ込めるのもアリだし、スーちゃんのお願いもあったし、ちょうどいいかなって」

 

「……やっぱり」

 

「ま、こうして役に立ったんだし。いいでしょ?」

 

 カヨが妖しい笑みを浮かべる。

 

 すると、扉からノックの音が聞こえた。

 カヨが返事をすると、ディートリッヒが軽く一礼して、部屋に入ってくる。

 その手にはお粥を二つ乗せた盆があった。

 

「失礼します。お姉様の体調は」

 

 ディートリッヒは入るなり、アヤネの様子をカヨに訊ねた。

 

「まあまあ。スーちゃんが帰ってきてからだね」

 

「そう、ですか」

 

 ディートリッヒはベッド脇のサイドテーブルに盆を置き、カヨに目配せする。

 

 カヨは微かに片眉を上げ、ベッドから素早くおりた。

 ディートリッヒの傍に近づき、アヤネには聞こえない囁き声で何かを訊ねる。

 

 ディートリッヒの目に影が射し、顔つきが鋭くなる。

 ディートリッヒの言葉も聞き取れないが、声には地を這うような低さがあった。

 

「……何か、あったの?」

 

 アヤネがそう言うと、二人はさっと振り向いて、目を細め、微笑を浮かべる。

 

「「何も?」」

 

 二人同時だった。

 獲物を狙って、静かに鎌首をもたげる蛇のような目でこちらを見ている。

 

「……殺さないでよ」

 

 アヤネは目を細めた。

 

 カヨが何か、思案を練っているように感じた。

 

 こういうとき、釘をさしておかないと、カヨは相手をとことん追い詰める。

 カヨが狙っている相手は、もしかしたら自分に何かをした相手なのかもしれないが、そこまではしなくてもいい。

 相手が自分にしたことにもよるが、最悪、首の皮が繋がっているくらいでいい。

 

「……なんのこと?」

 

 カヨは首を傾げてみせる。

 

「何かやってるんでしょ。」

 

「やってないよ?」

 

「まだやってない、でしょ」

 

 カヨはくすくす笑って、ディートリッヒと顔を合わせた。

 

「大丈夫。殺しはしないから。ね、ディーくん?」

 

「ええ。お姉様からのお願いであれば。」

 

「あーちゃんは勘が良くって困っちゃうね」

 

「そうでなければ、今頃、うちの家畜は丸々と太ってしまっているでしょう」

 

「そっちの方が困るなぁ。ディーくんにはヘルシーなお肉食べてほしいし」

 

 カヨとディートリッヒは、軽い雑談をしているような様子で笑い合う。

 

「それじゃあ、あーちゃんは昼ごはんの時間ね。

 ……ディーくんは?一緒に食べる?」

 

 カヨがアヤネの分のお粥を膝の上にのせ、ディートリッヒを横目で見た。

 

「いえ。私はつまみ食いをしてしまいましたので。」

 

 ディートリッヒはにこりと笑った。

 

「もー。ご飯の前につまみ食いはだめって言ったでしょ〜?」

 

 カヨは軽く頬を膨らます。

 

「ごめんなさい、つい。」

 

「まあ、晩ごはんまでにはお腹空いてるだろうけど……

 ディーくんにはちゃんとしたの食べてほしいんだから」

 

「ええ。暫くは気をつけます」

 

 ディートリッヒは踵を返して、部屋から去っていった。

 

 カヨはその背中をちらりと見て、口を尖らせる。

 

「……暫く、じゃなくて、ずっと、でしょ。まったく……」

 

 カヨはお粥を匙ですくって、尖った口のまま、ふーふーと息をふいてお粥を冷ました。

 

「はい、あーちゃん。あーんして」

 

 アヤネの口へ、匙が運ばれる。

 アヤネは何とも言えぬ気持ちのまま、口を開いた。

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