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 アヤネはギルドの一角に来ていた。

 

 朝の仕事を終わらせた後、受付から声がかかったのだ。

 どうやら特例の依頼らしく、頼める者が少ないらしい。

 詳細は聞いていないが、アヤネのすぐ後にきたルイスにも声がかかっていたので、高難易度の依頼なのだろう。

 ちゃっちゃと終わらすことに変わりはないが、高難易度となれば、スキュブがいくら強いとはいえ気を引き締める。

 他人もいる依頼となれば、スキュブが暴走しないように気をつけなければならない。

 

 アヤネがアイテムポーチを確認していると、肩を軽く叩かれた。

 この少し力強い挨拶は、おそらくダリアだろう。アヤネは振り向いた。

 

「よ、アヤネ。お前らも呼ばれたのか?」

 

 予想通り、ダリアがそこにいた。

 ダリアはスキュブにも軽く挨拶して、アヤネに視線を戻す。

 

「おつかれ。わたしも呼ばれたってやつだよ。」

 

「そうか。なんかルイスも呼ばれたらしいな。」

 

「わたしも見た。これだけの戦力を集める依頼、高難易度かな」

 

「お前らが呼ばれるって時点でそうだろ。

 そういやアンヘルは手伝いたいって言ってたけど、受付のやつ皆に止めろって言われてたな」

 

 受付にいた若い者、それなりの者が揃ってアンヘルのところに集まって、説得していたのを、アヤネは思い出した。

 実力不足というわけではなく、彼の体質を考慮すると、彼にかなり不利な依頼らしい。

 

「……アンヘルの体質だと、不利だって言ってた。

 匂い、かな」

 

「匂い?鼻が曲がるようなやつが相手か?」

 

「腐った牛乳みたいな?」

 

「……具体的なのを出されるとテンション下がるな……」

 

 ダリアは苦虫をかみ潰したような顔をした。

  

 暫くすると、仕事が一段落したルイスがやってきた。

 アヤネたちを見つけると、一礼して歩み寄ってくる。

 

「おつかれさまです。あなた達も例の依頼で?」

 

「おう。声をかけられてな。」

 

「私もです。

 ……少し厄介な依頼かもしれませんね」

 

「何だよ。何か知ってるのか?」

 

 顔を曇らせたルイスに、ダリアはわずかに眉をひそめた。

 

「ちらりと文書が見えましてね。

 近くの町で、どうやら行方不明事件が多発しているようで。その原因を捕獲してほしい、という内容でした」

 

「捕獲?ぶちのめせばいいじゃねーか」

 

「依頼主の名前、商魂たくましいことで有名な方でした。何かに利用するんですかね」

 

「行方不明者製造機を雇うってか。暗殺か?」

 

 ダリアが片眉を上げ、笑いまじりに言った。

 

「……さあ。でも暗殺ではなさそうですよ。その方、あそこの夜店の店主ですから」

 

「……ああ。あいつか……でも何で捕獲しろって言うんだ?分かんねーな」

 

 ダリアは顎に手を当てた。

 

「……依頼の詳細を見れば、分かると思うわ」

 

 声のしたほうを見ると、いつもは受付の仕事をしている若い女性が立っていた。

 手には少し多めの資料を持っている。

 

「よぉ。おつかれさん、レーナ。昼の仕事は大丈夫なのかよ」

 

 ダリアは軽く手を振った。

 

「先輩に代わってもらったから大丈夫よ。

 まったく、ルイスの言うとおり、厄介な依頼がきたものだわ」

 

 レーナは腰に手をあて、資料をわさわさと軽く振る。

 

「近くの町で夜な夜な行方不明者が出てたらしいの。

 発見された人はみーんなクタクタ。安静にしてれば回復したみたいなんだけど、起きたら、いの一番に何て言ったと思う?」

 

「……喉がかわいた、とか?」

 

 アヤネが半笑いで言った。

 

「それだったら良かったわ。本当に。

 あいつら、起きてそうそうに『あの女はどこだ』とか『あの男はどこだ』とか言い始めるのよ。

 しかももう一回会いたいとか言い出すのよ?お金を工面しようとして、貴重品まで売ろうってやつもいるの。」

 

「……おかね?」

 

 レーナの発言にスキュブが首を傾げた。

 

「そうよ、お金。アレよ、会ってまたクタクタにしてもらうためにお金払うのよ。」

 

「体力の消費におかねを払うのか?何かの訓練か?」

 

「あーー……えっと、ねー」

 

 レーナが言葉に詰まる。

 頬をかいて、視線を泳がせていた。

 

「……身売り、でしょうね」

 

 ルイスが淡々と言う。

 

「夢魔か、それの混血でしょう。依頼主もそう踏んで捕獲を依頼しているのかと」

 

 スキュブは納得しているのか、していないのか、考える素振りをした。

 

「夢魔が、みうり?内臓を売るのか?ごはんは人間の方なのに?」

 

 スキュブは眉をひそめた。

 

 アヤネは何とも言えない微妙な気持ちになった。

 このスキュブの発言は、ボケでもなんでもない。純粋な疑問である。

 

 スキュブは夢魔がどうやって人間で食事を行うのかは理解しているが、身売りという言葉の意味は理解していないのだ。

 

 レーナは暫く口をぽかんとさせていたが、やがてくすくすと笑い出した。

 ころころとした笑い声に、嘲りは感じられない。

 

「ふふ!これじゃあこの子が悪魔だなんて噂、ウソね!

 こんな純粋な子が悪魔だなんて、やっぱり男たちの妬みじゃない!

 ねえダリア、知ってたの?こんなかわいい子がうちのギルドのエースだって」

 

 レーナは肘でダリアの脇をつついた。

 

「アヤネと一緒だともっと緩いぜ?

 アヤネをジロジロ見てる奴にはすげぇ睨みきかせてるけどな」

 

「それなら教えてよ!私、受付とか依頼関係の処理でこっちには全然出られないんだから!」

 

「歩く噂話事典のお前ならそのうち分かるだろ」

 

「情報はスピード、でしょ?」

 

「お前のとこの食堂は、物を食うより、話すために口動かしてるもんな」

 

「分かってるなら、またお邪魔してくれてもいいのよ?ご飯奢ってあげるから」

 

「もう行かねーよ、あそこにいたら耳が何個あっても足りねぇ」

 

「あら残念。ダリアがいてくれたら恋バナでも噂話でもなーんでもできるのに」

 

「あたしの恋愛話なんてあれ以上なんも出てこねぇし、お前らあれこれもみくちゃにしたいだけだろ……」

 

 ダリアは四方八方から話しかけられ、あれこれ話の渦に揉まれたのを思い出したのだろう、深いため息をついた。

 

「……モテる女は大変ですね、ダリア」

 

 ルイスは片眉を上げた。

 

「モテてるくせに全部いい感じにあしらってるお前に言われると、何か腹立つな」

 

「年の功、ですよ」

 

 ルイスが上品に笑った。

 

「……さて、話がそれたけど依頼の詳細、話すわよ」

 

 レーナが可愛らしく咳払いをする。

 

「要するに、夢魔だか夢魔の混血の子が、お金を払えば遊んであげるって名目で、毎晩毎晩男女問わずのフルコースをしてるってことね。

 そんでもってそいつは男か女か分かんない。ちゃんとした容姿の情報もあるけど、どれもどっちつかず、って感じよ」

 

 レーナはウインクでスキュブに目配せし、資料に視線を戻す。

 

「最初は討伐、もしくは捕縛って依頼をそっちのギルドに出してたみたいなんだけど、全員返り討ちにあって、ギルドの主戦力は全滅。

 そこで、それを知った今回の依頼主さんがうちのギルドに依頼を出したってワケ。」

 

 レーナは資料をぺらりと捲った。

 

「近づいただけでメロメロ、魅了はされなくてもボコボコ。

 恐ろしく身のこなしが上手いやつで、素手での格闘、体術が得意らしいわ。

 だから、出てくる場所は分かるけど叩けないってことね。

 そこで白羽の矢がたったのがあなた達。」

 

 レーナは資料を指差すように向けた。

 

「他の奴らより強くて異性にも骨抜きにされないような、っていったらこのメンツでしょ?

 アンヘルもなかなかいい子だけど、あの子は夢魔のフェロモンを嗅いだら目を回して倒れそうだからね。」

 

「アンヘルは鼻が良いですからね。

 彼も夢魔を相手にするのは苦手らしいですし。」

 

 ルイスは納得したように頷いた。

 

「そーゆーこと。

 てなわけで、明日の夕方に集合ね。出てくるところの特徴はこれから渡す資料に書いてあるから、目を通しておいてね。

 それじゃあ質問がなければ解散!各自、準備をしっかりね!」

 

 皆、特段これといった質問はないようで、資料を受け取るとその場を去っていった。

 

 アヤネも資料を手にし、この後の依頼の目的地に着くまでに、内容を頭に入れておこうと、歩きながら資料を読んでいた。

 すると、スキュブが隣にやってきて、耳打ちするような小声で話しかけてきた。

 

「……アヤネ、大丈夫?」

 

 アヤネは資料から目を離し、スキュブと目をあわせる。

 

「大丈夫って、何が?」

 

「相手が、男か女か分からない。男だったら……」

 

 スキュブが目を伏せた。薄紅色の目に、仄青い影が落ちる。

 

「お前がいるし、今回は他の人もいるから大丈夫だよ。心配いらないって」

 

 アヤネはスキュブの頭を軽く撫でた。

 スキュブは目を伏せたまま、うん、と小さく頷いた。

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