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fgoのエロss書いてnowいミクトランクリアしながらデレステの総選挙やってバレンタインもチョコを嫁とママと身内と腹黒ウサギにあげたりもらったりしながらデレステのガチャ天井分の石を貯めてたら力尽きまして、更新が遅れました。
この作品の続きを書いていたら、思ったより暗い展開にならなくてつまんねーですね。なんでかこうなりました。
雑踏の中を何度か躓きそうになりながらも走り続けたアンヘルは、へカテリーナの家の近くまで来ていた。
それでもアンヘルは速度をおとすことなく、土埃があがるのも気にしないで走りつづける。
アンヘルはへカテリーナ達の姿がないか周囲を見渡しつつ、大きく息を吸って匂いを確かめる。
ここらへんは店と人で賑わっているところより人気が少ない。
自分のよく利く嗅覚を使うならここだろう。
非常に多くの匂いがごった返るところでは、どこにへカテリーナ達の匂いがあるのか分からないが、人気がまばらになったところなら、何とかいけるかもしれない。
しかし、いくらよく利くと言えど、時間がたってしまった匂いは探ることはできない。
それこそ、一晩たってしまったとか、時間があいてしまうと匂いを感じとることは不可能だった。
それでも、何かあるかもしれない。
アンヘルは息が切れて匂いを確かめるどころではなかったが、二人がどうなったのか心配で、どうにかしたくて、ひたすらにがむしゃらに、今自分ができることをやった。
それが実ったのだろう。
もうすぐでへカテリーナの家につく、といったあたりで、覚えのある匂いを感じることができた。
懐かしさの中に、夕方の香りと微かな機械油の匂いが混ざった優しい匂い。
アンヘルは息もきれぎれで立ち止まり、周囲を見渡す。
静かに流れる風が匂いを運んで来て、彼女がどこにいるのかを教えてくれた。
姿は見えないが、どこかの影にいるのだろう。彼女の近くまで来ていることは何となく分かった。
「へカテリーナさーん!」
息が苦しかったせいで響くような大声にはならなかった。
だが、届いているはずだ。アンヘルは息を整えながらへカテリーナの家へ近づき、入口あたりまで歩く。
すると、庭のあたりから影が出てきた。芝生の上を裸足で歩く影は俯いており、その表情がどんなものか確認することは難しかった。
しかし、その歩調からするに明るい表情ではないのだろう。
ゆっくりと顔を上げたへカテリーナの目のしたには隈ができていた。
いつもは若々しい顔が、今は実年齢より老けて見える。
それを見たアンヘルは、最初こそ見つかった安堵で明るい顔をしていたが、さっと表情が曇った。
「へカテリーナさん、どうしたんですか……?体調、悪いとか……?」
アンヘルはへカテリーナに駆け寄って、震える声でそうたずねた。
「……ううん。大丈夫。わたしは大丈夫なんだ」
へカテリーナは俯いている。
「それじゃあ……その……」
アンヘルは何となく察しがついていたが、言葉にできずに口ごもった。
「アンヘル、お願いしてもいいかな」
へカテリーナの声は少し翳っていた。
だが、目には微かな決意の色が宿っている。
「僕にできることなら、何でもしますけど……」
「大丈夫、君はただ話を聞いてくれるだけでいいから」
へカテリーナは庭の方へ歩いていき、アンヘルに着いてくるよう目配せをした。
庭は青々とした芝生が広がり、花壇には色とりどりの花が咲いていた。
花には時折、蜂や蝶が飛び交い、初夏の活発化してくる命の風を感じることができる。
年季が入って、ところどころ傷になっているのが馴染んで見えるテラスには、柔らかな日が射していたが、そこにぽつんと座り込むへカテリーナだけは、季節に置いていかれたみたいだった。
置いてけぼりにされたまま、何年もたってしまったような印象をうける。
「アンヘル、聞きたいのはロッパーのことでしょ」
膝を抱えて俯いた声が、静かにテラスの床を這う。
「昨日、うちで倒れてね。急いで検査したんだ。わたしが何か見落としたんだろうって思って。
でも、破損も、パーツの交換の必要もなかった。
異常があったのは一つだけ。記憶がほとんど、消えてた。
生まれてから、この街に来て、ちょっとの記憶しかなかった。そこから先はまっさらで、何も無かったみたいになってた。」
「……そんな、じゃあ」
「心配ないよ。そこに関してはバックアップを定期的にとってたから。
昨日までの記憶を全部ってわけにはいかないけど、ここ最近なら大丈夫。」
へカテリーナの髪が風に揺れる。
「でも、どうかな。あの子、また倒れちゃうかも。きっとどうしたって、あの子は胸を痛めると思って」
へカテリーナは目を細める。その目は揺れて、戸惑いと決意の狭間で揺らめくか細い炎のようだった。
「……へカテリーナさん、その。隠しててごめんなさい」
アンヘルはへカテリーナがロッパーの心中を察していることに気づいて、目をふせた。
「大丈夫、大丈夫。恋の悩みはトップシークレットだもんね。わたしも色々相談受けたりしたから分かるよ。
……何となく、気づいてはいたけれどね。だから、今回のは君のせいじゃないよ。わたしのせい」
へカテリーナはアンヘルを安心させるために笑ったが、それはどこかしおれていて、アンヘルは胸のどこかが絞められたような気がした。
「ロッパーはとっても人間くさい子だからさ。反応とか見てると分かっちゃうんだよね。
若い男の子がああいう反応するときって、大抵そうだよねって反応するんだもん。
わたしも、ロッパーと一緒にいるのは楽しいし……恋愛する歳でもないのにさ、若いころに戻ったような気持ちになったりして……」
へカテリーナは眉根を寄せた。
「でも、わたしが誰かに、そういう対象として愛されることなんてないって思ってて。
だって昔からそうだった……あの人も、結局そうだった。」
へカテリーナは髪を耳にかけて、寂しそうに笑う。
「ごめんね。若い子にこんなみっともない話。」
「いえ、そんなことは……だって、苦しい話は、ちゃんと吐き出したほうがいいって、ルイスも言ってましたし……
あ、でも人は選ぶべきだって深刻な顔をして言ってました。ちゃんと信頼できる人じゃないとダメだって。……僕、大丈夫かな?」
目を丸くして口をおさえたアンヘルに、へカテリーナはきょとんとし、くすっとふき出した。
「ははは!そんな、今更じゃないかそれ!まったくアンヘルはいっつも笑わせてくれる!
そもそも、大丈夫じゃなかったら君の前に出てこないよ」
「そっか、ならいいんですけど……」
それもそうか、と気づいたアンヘルは少し恥ずかしい気がして、頬をかいた。
「口にするのも億劫な話だったけど、何か話しやすくなっちゃったかも。」
へカテリーナは目の端を指で擦った。
「わたしね、辺鄙なとこで育ってさ。そこには魔法が得意な人とかいなくって、わたしは生まれつき魔法が得意だったからさ、小さなころは不気味がられたりしたんだ。
この街に来てからはましになったけど、それでもやっぱり目立っちゃって。若いころはわたしも魔女だとか言われたっけ……」
風が庭の草花を揺らす。緑の香りが漂ってきて、アンヘルの鼻を僅かに掠めた。
「そんな中で、あの人と……元の夫と出会ったの。はじめて自分をそのまま受け入れてもらえた気がして、この人とずっと生きていこうって思った。
だから、仕事だって手伝えるように、畑違いだったけど、機械のことだってたくさん勉強したし、色々やった。
でも……子どもができない体質だって分かってから、変わっちゃって……」
優しくさんさんとしていた太陽に、雲がかかった。
太陽に青々とした葉をかざしたときのように、日の光が僅かに翳る。
「子どもができなくっても、二人で生きていくことはできるし、どうしても子どもが欲しいなら、養子をもらうことだってできるとは言ったけど……それじゃあ気に入らなかったみたい。ある朝、手紙だけ置いて出て行っちゃったよ。
……どうしてかは、今でもよく分からない。受け入れてくれたはずなのに、やっぱり普通の女じゃなかったからかな。人間、ちゃんと満足に産まれなきゃダメなのかな」
「そんなこと、ないです」
へカテリーナは俯いた視線をはっと上げて、アンヘルの方を見た。
アンヘルの目は潤んでいる。泣き出しそうなのに、どこか強い瞳だ。
「そんなこと、ありません。だって僕、へカテリーナさんの腕がなくたって、足がなくなって、好きですよ。見えないところが実は調子が悪いんだって言っても変わりません。
生まれつき魔法が得意だったから嫌いになるんですか?赤ちゃんを授かれないから嫌いになるんですか?そんなの、関係ないじゃないですか。
へカテリーナさんはたまにおせっかいすぎるとこもありますけど、よく面倒を見てくれて、面白くて、毎日会うのが楽しくて……ロッパーさんも、へカテリーナさんのそういうところが好きなんだと思います。
満足に産まれなかったから、なんて理由で嫌いになるなんて、分からないです。へカテリーナさんと一緒にいて楽しかったって気持ちがそんなことで消えちゃうなんて、おかしいじゃないですか……!」
アンヘルの声は震えていた。瞳に強い光を帯びた、火の揺らめきが見えるような気がした。
「……そっか。そっか……ごめんね、アンヘル。君も、似たようなことで悩んでたね。
前に話してくれたよね、普通の人よりとっても鼻がきくから、辛いときもあるって」
「確かに……そうですけど……みんなと違うってことが辛いことはありますけど……
誰かを好きになるってことに、それって関係ないじゃないですか。僕の友達もそうですし、僕だってそうです。
だから……へカテリーナさんも、みんなと違うからってことで、ずっと苦しむ必要なんてないはずなんです。ないはずなのに、苦しいのは続くから、きれいさっぱり苦しまないってことは……できませんけど……」
言葉を探して、アンヘルは俯いた。
苦しむ必要はない、ということが正しいことだと分かっていても、完璧に苦しまずにいられるかというと、そうではないということは身を持って知っていた。
気にしなくてもいいと知りつつも、時折ふっと出てしまった言葉に眉をひそめられる度に、気づいてしまうのだ。自分が異質であるということに。
気にしない人もいる。それがどうしたと、鼻が利くのに気づく度、そういえばそうだったかと、まるで何ともないことを思い出すような反応をする人もいる。
むしろ頼ってくれたり、匂いの強いものはさり気なく遠ざけてくれたりしてくれる人もいる。
そういった人たちに囲まれている間は、異質であることなんて関係ないのだ、と当たり前のように思えるのだが、優しさに包まれてばかりいると、警戒の勘が鈍る。
そうではない人に気づかず、ふと言葉を口に出した瞬間、後悔する。
どちらが正しいのかは、世界や常識が決めるのではなく、自分が決めることなのだろうが、人のこころがそう強くあれるようになるには、時間と経験が必須だ。
まだ若いアンヘルにはそれが足りているはずがない。
影をずっと引きずり続けてきたへカテリーナにはどちらへ踏み込むのか、というきっかけがなかった。
「アンヘルはさ、やさしい子だよね。やっぱり。」
へカテリーナは立ち上がって、微笑んだ。
雲が流れ、薄くなった間を裂いて射し込む日の光が、へカテリーナの全身を照らした。
その姿は、いつもの年齢を感じさせない若々しさがあった。
「ありがとう。なんかちょっと、吹っ切れた」
へカテリーナは家の入口に向かって歩きだす。
ふらつきも揺らぎもない歩みは、しっかりと道を進んでいき、へカテリーナは遂に重苦しそうな扉を開けた。
「ロッパー、記憶の修復も済んでて、後は起動するだけなんだ。
だからもう心配ないよ。アンヘルはもうギルドに行っておいで」
アンヘルははっと顔を上げた。
「ありがとうってもう一回言わせて。
わたし、もうそういう歳じゃないけれど、行ってくるから」
「それじゃあ、へカテリーナさんとロッパーさんは……!」
「うん。だから二人きりにさせておくれよ?
一世一代のことなんだから」
アンヘルが笑顔で頷くと、へカテリーナは人差し指を唇に添えて中へと消えていった。




