伝説のドラゴンに転生したのでお姫様を誘拐したら、いつの間にか誘拐した姫の尻に敷かれる様になってるんだが。俺ってそんなに威厳ないのだろうか……。
「ウオオオオオオオオ!!!」
あれ? 俺、ドラゴンになってる?
見るからに俺、空王裕翔の身体はドラゴンのものだった。
山よりも巨大な身体と美しくも何よりも堅く紅黒い鱗、どんな盾も貫きそうな鋭い牙と爪を持っている。そして瞳は蒼く、宝石の様に輝いていた。
うん。これはドラゴンだな、間違いなく。
とりあえず、状況の確認だ。
俺が今いるのはどうやら、山の山頂らしい。
見渡す限りの広大な森が続いていて、人間がいそうな村は無かった。ただ、湖が山を降りたすぐそばにあって、飲み水には困らなそうだ。
そもそもドラゴンが水を飲むのかは知らないが。
ただ、困った事に俺が住んでる?山には何も無かった。無理矢理山をくり抜いて作った様で、寝心地も最悪、藁すらも引いていない。
はあ、こんなもので寝れるものか!
俺は居心地の良い睡眠をしたいんだ!
そうと決まれば材料集めだ!
グルアアアアァァァ!!!
雄叫びを上げて、舞い上がる。俺。
最初は浮かんでる、という恐怖感があったものの、すぐに慣れてきて次に来たのは楽しいという感情だった。
おお、飛んでる! 俺飛んでるぞ! すげえ! ひゃっほーーっ!!!
うおー! 曇って高いんだな! うわ! すげえ、海見えたよ、海!
あの飛んでるの何かな! ワイバーン?
うおー! 楽しー!
と、しばらく遊んでやっと我に帰った。
「ああ、良い歳こいて恥ずかしい……」
まあ、とりあえずは腹が減ったからな。飯だ。
適当にその辺にいたでっかい猪を獲って来た。なんか油乗って旨そうだったし。
「んー、焼いたら食べれるかな?」
ドラゴンから出るだろ、火。口から。
物は試しだ。口をもごもごさせて、出るかなー?と半信半疑で息を吐くと見事な炎が出た!
「おー、すっげえ火力! 一瞬で猪丸焼けにできたぞ!」
ガブリガブリガブリ、ゴクン。
うおおお! 旨い、旨いぞ! 今夜はパーティだあああ!
その後、死ぬ程猪食べた。
さて、腹ごしらえは済んだ。
まずは寝床作りから始めよう。
まずは藁が必要になるが、藁ってどうやって作るんだ?
んー、なんか乾燥してるっぽいから
よし、まずは草の採取だ。
なんか草を切れそうなもの……あ、良いところに爪が。
「竜之爪〜っ!」
次の瞬間、森が禿げた。
いや、冗談とかじゃなくて。
軽〜くっ、ほんとに軽〜く腕を振ったら、何か思った以上に斬れちゃって……。
ほんと、すみません。森さん。反省してます。
「よし、気を取り直して次は乾燥だ!」
俺、気持ちの切り替えは早いんだよね!
乾燥させるなら炎を出せばいいのかな?
よし!
「竜之吐息〜!」
今度は森が禿げが焼け禿げになった。
いや、冗談じゃねえよ!
禿げた部分の知れちゃった木を乾燥させて藁にできないかな〜?と思ってやったけど、ダメだ!
全部焼いちゃった! もう影も形もないよ! 墨しか残ってないよ!
うわー、世界の終わりみたいだなー。はははは。
「…………もしかして俺、細かい作業とかめっちゃ向いてない?」
いやでも、もしかしてって可能性もあるし、試しにもう一回…………いや、辞めとこう。
うん。これが正解だな。
さて、困ったぞー。
雨風凌げねえし、寝床もねえし。
何かねえかな〜。
うーん……。
「あっ、姫様を攫えば良いんだ!!!」
そうだよ、何で気づかなかったんだろ!
俺=ドラゴン=宝と美女が好き=美女=美しい=姫!
「うおおおお! よし、姫を攫いに行こう!」
街はどっちだ〜?
高く飛んだら見えるかな?
それ〜!
んー……、お! 見えた!
あそこに街が見えたぞ!
かなり遠いけど、ドラゴンの眼のおかげかな? はっきりくっきりと見える。
「可愛いお姫様いるっかな〜?」
鼻歌混じりに街に飛んで行く。
これは余談だが、見た事が無い紅黒いドラゴンが村の上空を飛行し、その時にドラゴンが呪いの歌を歌っていた、と後の【呪いの竜歌伝説】として語り継がれて行くのであった。
む。街に着いてしまった。
全力を出せばもっと速く飛べたんだが、景色を見たかったからゆっくり飛びながら景色を見ていたんだ。途中で人間の村をいくつか見かけたが、それらとは比べ物にならないほど街は綺麗だった。
おっと、こんなところで止まってる訳にはいかんな。
お姫様だから城っぽい所にいると思うんだけど……お、あれかな?
何か見るからにデカイし、一番目立つ場所に建ててあるし、何やら人の気配が密集してる。
よし、そこに行こう。
んー? それにしても、さっきからヤケに下が騒がしいな。お祭りか? いや、そんな風には見えないな。
ようし、お城に着いたぞ!
お姫様、は………………いた。
腰まで伸びている真っ白で純白の髪。
宝石の様に輝き、透き通った美しい蒼眼。
小柄ながらも堂々とした覇気を纏った振る舞い。
「…………美しい」
「え」
思わず口から漏れてしまった。
俺は彼女に見惚れた。
「そ、それは私の事ですか!?」
「う、うむ」
パアッ!と宝石の様に笑顔になる姫様。
何がそんなに嬉しいのだろう?
まあいいか。
「姫よ、我と共に来ないか? 不便はさせぬぞ」
姫に手を差し出して、一応聞いてみる。
「き、貴様! 我が娘に何をする!」
「む?」
何か五月蝿いのが出て来たぞ。
太ってるし、頭に王冠被ってるし、多分王様かな?
「あらあらまあまあ」
その後ろから一人の美女が現れた。
どこか姫様に似た雰囲気と白髪を見ては疑いようもない。
この人が姫様のお母さん、もとい王妃様だろう。
姫様に負けず劣らず美しい。人妻で無ければ連れて行きたい所だ。
だが、今回は姫様を連れ帰るのだ。
一応王様に許可を求めてみるか?
それにしても、下の奴らがうるせーな……。
「うおおおお!」
「姫を守れー!」
「密集陣形!」
「弓矢を構えよ!」
「魔法部隊、魔力充填開始ー!」
「王様だけでも守れー!」
ちょっと黙っててもらおうか。
下にいる奴らだけに《威圧》っと。
「ぬ、ぅ……!?」
「な、なんなんだ、この化け物はぁああああ!!」
「逃げろ、逃げろぉおおおお!」
「死にたくねえよぉおおおお!」
「アハハハハハハハこの世界は終わりだアハハハハハッ!」
あり? なんか、ちょっと黙ってくれないかなって思ってやったのに、なんか半狂乱状態になってる奴いるし。
ま、まあ、結果オーライ!静かになった!
さて、今更なんだが。
何て言えば良いのだろう。
娘さんを僕に下さい? 結婚の挨拶かよ。
娘さんの力が必要なんです! 患者さんが珍しい血液型ですか?
僕が緊急事態なんです! だからなんだよ。
いや、どれも違う! 納得いかん!
ええい、めんどくさい! ゲームのセリフ丸パクリでいいや!
とりあえず、爪を姫の目の前にまで差し出して!
深呼吸深呼吸。ひっひっふー。ひっひっふー。よし!
「ワハハハハハ! 貴様の姫を我の妻にするためにここまでやって来た! 大人しく我に従わねば、分かるな?」
よし! 完璧! 完全に悪役ドラゴンだ!
って、違う! これじゃあ姫様も怖がってこっち来てくれないだろ!
ああ、ほら、姫様も恐ろしくなって王妃様に近寄って行って……。
「聞いた!? お母様!」
「ええ、聞きましたよ」
「何て素敵なプロポーズなのでしょう!!」
え?
「お母様、今まで育てて下さってありがとうございました。私はこのドラゴンさんの元で幸せになりますわ!」
「ふふふ。まさかこんなに早く娘の嫁入りを目にするなんてね」
え? え?
「それでは!」
姫様は豪快にもベランダから飛び、俺の爪にしがみ付いた。ここ結構高いけど怖く無いんですか?
って、いや、ちょ、待て待て待てぃ! それはおかしいだろ!
自分で言うのも何だけど、俺完全に悪役やん!
なのに何で姫様は俺に着いてこようとしてるの!?
プロポーズ!? なにそれおいしいの!?
「よせぇええええ! 私の娘を連れて行くなぁああああ!
ほら! 王様怒ってるじゃん!
「えっと、あれ、いいの?」
「いいんです!」
いいの!?
「早く行きましょう、ドラゴンさん! 私達の愛の巣に!」
はあ。まあ、どっちにしてももう後戻りは出来ないし、どの道誘拐するつもりだったしなー。
よし。攫っちゃおう。
爪に捕まる姫を手のひらで包み込む様にする。こうしないと落ちてしまうからな。
「さらばだ」
「みんな、元気でね!」
最後に別れの挨拶をして、俺は姫様と共に飛び立った。
「凄い、綺麗……!」
「む。そうであろう。我も初めて見た時は感極まったよ」
今は俺の巣へ向かう道中だ。
姫に影響があるかな、と思い速度を緩めて飛んでいる。
ちなみにこの変な喋り方は威厳を保つためだ。
ほら、やっぱり俺って誘拐犯だし。
「わあ! 海が見えましたよ、海が!」
「綺麗だな」
「あっ、あれは何でしょう! 何かが飛んでますよ!」
「そうであるな」
「あそこの村は一度行った事があります!」
「そうなのか」
やはり空を飛ぶのは楽しいらしい。
普通なら上空から景色を見下ろす事は無いからなぁ。
気持ちは分かる。
「さて。そろそろ到着するぞ。準備しなさい」
「はいっ!」
俺の住処の山頂に着陸した。
降りやすい様に姫を乗せたまま手を地面に置いた。
「到着、ですね!」
「うむ。到着だ」
記念すべき第一歩!って感じで、姫は手から降りた時はそれは嬉しそうだった。
「おお、ここが愛の巣ですね!」
「いや別に愛の巣ってわけじゃ…………」
「む? むむ? むむむっ?」
最初は楽しそうにこの場所を見ていたのに、その内に段々と顔が険しくなって行った。
そして一つの山を指差して言う。
「これは何ですか!」
「え、な、何が?」
「このゴミですよ!」
「えっと、今朝食べた猪の骨です……」
「ちゃんと片付けないとダメでしょう!」
あれ? 何で俺、攫って来た姫にゴミ捨てで怒られてるの?
「それにまともに眠れる場所も無いじゃないですか!」
「あ、その……」
「水場も整って無いですし、こんな場所じゃ人間が住める場所じゃないですよ!」
「えっと」
姫の勢いに負けて図体に対してどんどん声が小さくなって行く。
「まったく! どうしてこんな事も出来ないんですか!」
「ごめんなさい……」
「謝るのは後です! 草を沢山集めて来てください!」
「わ、分かりました!」
あれ、本当にこの姫って攫われて来たんだよね!?
俺攫ったよね!? 確かに攫ったよね!?
「早く!!!」
「はいっ!!」
うう、もしかして俺って威厳ない……?
「とりあえずこんなところでいいでしょう」
姫様の尽力もあって、寝床は確保できた。
と言っても、まだ草を敷いただけの簡易的なものだ。雨風は凌げないし、それを今日一日で作るのは無理だからな。
「今日はもう終わりにしましょう。もうすぐ夜ですし。旦那様、晩御飯の確保、お願いしますねっ!」
そしてまたこき使われる俺。
まあ別に良いんだけどね。狩りみたいに危ない仕事は俺がやらないと!
「おお、凄いです! 流石は旦那様です!」
「いやあ、それほどでも」
またその辺にいたから猪を狩って来た。さっき食べ過ぎちゃったから、今度は一頭だけ。これだけあれば姫も足りるだろう。
「本当にすごいですよ! ジャイアントボアはかなり強い魔物ですよ!」
「そうなの? さっき群れごと食べちゃったんだけど」
「ふふっ。流石は旦那様です!」
う〜ん、お世辞でも悪い気はしないな〜。
やっぱり可愛いお姫様に煽てられるとドラゴン舞っちゃうよ?ドラゴンブレスいっちゃう?
すると姫がどこかからナイフを取り出して、ジャイアントボアを切り出した。
「ん? 何をしてるんだ?」
「毛皮を剥いでるんです。ジャイアントボアの毛皮は肌触りも良いので服にする事も出来ますし、夜は毛布としても使えますから」
「おお〜。流石は姫様!」
「えへへ。そんなに大した事じゃないですよ」
そんな話をしながら、どんどんと毛皮を剥いて行く。凄くテキパキしてるし、狩りとかで経験してるのかな?
ほら、徳川家康とかも鷹狩りが趣味だったって言うし。
身分が上の人はやっぱりそう言うのが趣味なのかなー?
「ふう。これで完了です!」
「もう終わったのか?」
「はい。次は火を入れないといけませんね」
「おお、それなら任せておけ」
《竜之吐息》。
何故か猪の焼き加減は絶妙なんだよな! 何故か!
「わあっ! 凄い、美味しそう!」
「そうかな? お姫様ならお城で美味しいご飯とか食べてたんじゃないの?」
「うーん、確かにお城での食事も美味しかったですけど、こういう豪快な食べ方にずっと憧れてたので凄く楽しいです!」
そうして二人で肉を頬張る。
姫の唇に付いた肉汁がエロかったり、姫の名前がシリーナ・ルースタスだった事を知ったり。
夜はシリーナが寒そうだったから寄り添って眠った。
そんな日々が幸せだった。
その後、攫われた姫が里帰りしたり、姫が竜を従え【竜騎士】と呼ばれる様になったり、ドラゴンが竜人に崇められる竜王国を設立したり。
ドラゴンと姫は色んな伝説を残しながら、幸せに生きていく。
一方その頃、王宮では。
「国王よ! 我が姫を救うため、私は旅に出ようと思います!」
「うむ! 頼むぞ、【勇者】リンドウよ! 姫を救い出した暁には貴殿を娘婿に!」
「はい! 待っていて下さい、我が姫よ! 必ずや悪しきドラゴンから救い出してみせます!!!」
国王が勇者を使ってドラゴンを討伐するべく動き出した。
が、結局のところ、国王と勇者の策略は悉く空回りして行く事になるんだが、二人はそうなることをまったく想像していない。
ここまで読んで頂いてありがとうございます!
ドラゴンがお姫様を攫うのを書きたいなー、と思って書きました。
ブックマークや高評価、感想をくれると嬉しいです!評価数次第で連載版も考えてます!
みなさん、出来るだけ沢山評価をくれると嬉しいです!