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異世界の夜空に舞う流星群 「休止」  作者: 望月八月
第一章 赤い目の少年
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第5話 不気味なマスカレード...

 快適な運搬のためではなく罪人を運ぶために作られた馬車の乗り心地が酷かった。

 暗闇の中で全身の怪我が痛むほどの揺れを耐えたシンが到着して扉が開けられた時最初に見たのは別の作りと素材のホール。

 部屋の利用目的は見た目と内容からおそらく大闘技場で最後に見た輸送エーリアと一緒。


 それを見てまたしても裏切られた期待に満ちた溜息を漏らすところだったが、前の周囲の反応を思い出して我慢した。

 だが、闘技場と違ってここで彼を運ぶために用意された簡単な担架を見て微かに目を見開いた。

 ただの二つの棒の間に張られたテント用布が友好的な姿勢を表している。

 この場所での彼に対する待遇が比較的に良いと思わせる。

 兵士達に丁重に担架へ移されていながら周囲を密かに確認していたシンが見たのは主に大量の荷物と大勢にいる兵士。

 そして一つしかない大きな門が高確率で外部につながっているとしたら、反対側が内部へつずく。


 その内部の扉から出てきたのはレナールと少し似ていた騎士の鎧を着ていた壮年の男性とその後を追う幼い金髪の女性騎士。


「バリスト卿!ようこそ王立軍本部へ。お待ちしておりました」


 壮年の男性はレナールをみて明るい笑顔で近ずき歓迎の言葉を告げた。

 重要な人物に見える二人の会話からは有力な情報を聞き取れると判断し耳を傾けるがあいにくと言語能力が非常に低い彼には大半の言葉はただの音にしか聞こえなかった。

 闘技場奴隷として生きるには要らない言葉。


「おお、ソロス卿、お久しぶりです」


 レナールは喜びと懐かしさが滲み出るような顔付きでソロスに挨拶した。


「バリスト卿、ここは軍の領域で勤務中なので「大佐」が適切かと」


 と、ソロスの一歩後ろを歩く若い女性騎士が淡々と告げた。

 表情と声には一切の敵意はなかったが、それは他の感情も同様。


「これ、そう堅苦しい事言うなと何度も...それに、久しぶりに実の兄を見てそれだけか?感動的な再会を期待したからバリスト少尉を同行させたのに...」


 ソロス大佐は愉快そうに、どうやらレナールの妹である彼女を、軽く叱った。

 しかし期待した面白さが欠けている再会に残念がって愚痴をこぼす。


「お変わりないようで何よりです、大佐。オリヴィアも元気そうで良かった」


 苦笑交じりに答えるレナール。


「はい、レナール兄様」


 そのままの声で受け答えたオリヴィア。


「ほう、これが噂の『レギオス』か?何だかパッとしないな。髪と目の色意外ただのガキじゃない?」


 兄妹に興味をとっくに失ってシンを見ながらソロス大佐がまたしても落胆の表情を見せた。

 しかし、視線をそらさなかった。


「はい。王城へ奴隷である彼を連れていく事はできませんのでしばらくはこちらで管理する事になりました」


 本題にいきなり突入したソロス大佐に答えながらどこかぎこちなく視線をそらした。


「ふむ、奴隷からか...魔族からではないのか?」


 王城に入れらさせない理由を低い声で言い当てるソロス大佐。

 鋭い眼差しでレナールを見るが口に刻んだ愉快そうな笑みがからかっている事を明かす。

 その視線を感じていっそうぎこちなくなったレナールを眺めながら楽しんでまたシンに視線を戻す。


「でもま~、厄介ごとは避けたいが事情が事情だし仕方がない。国王陛下の命令とあらばしたがう他に道はない」


 諦めたように言って、肩を竦める。

 そして、


「さ、こんな所でいつまでも立っていたら報告を待っているであろう陛下がお心配になられる。行こう」


 と言って兵士達に合図をだした。

 騎士三人とシンを運ぶ兵士二人と彼を囲むように同行するもう4人の兵士で本部内に進み始めた。


「でも、この一件がいくら陛下のご意向で行われていても王立軍最高責任者である大佐がわざわざこ迎えに来るとは思いませんでした」


 道中、レナールはそう言って、ソロス大佐に問うような視線を送った。


「ま~、軍とて一枚岩ではないと言うことさ」


 と、ソロス大佐が自分の影響力を使っているに過ぎない事を言外で説明した。

 つまり、この王立軍本部に魔族が連れてこられて管理されていると噂が広まれば多少の問題は避けられない。

 しかしここにいることでこの一件は自分の公認済みとアピール出来る。

 これで魔族の管理に関する不満を持つ者はそれに抗議したいなら大佐にケンカを売っている事になった。


「なるほど」


 関心するレナール。

 たがすぐに思案顔をうかべて、何かを思いついた。


「となると、この一件は大佐に面倒事を増やすでしょうね」


 と言って苦笑した。


「私はそう言う台詞大嫌いだよな...」


 悪い予感しかしなかった発言に同じく苦笑して正直に答えたソロス大佐。


「実は公にはされていない情報ですが、国王陛下がこの奴隷を購入したのは昨日、夜会の後の食卓で第七王子殿下アルフォンス様の強い願いの結果です。予定ではアルフォンス様に仕える護衛にすることになっています。陛下もどこまで本気かわかりかねますが殿下の立場を考えると保険として本当にそうなる可能性は十分にあります」


 声を低くして、内密にシンの行き先に関してソロス大佐にうちあける。

 それはつまり、彼を護衛の一人にする為にここで教育して、鍛える必要がある。

 実質的にここで暮らして、教育されて、鍛えられている兵士と同等以上の待遇を彼に施す。

 それを聞いてソロス大佐は目を見開いた後顔を曇らせて深く考え込んだ事が伺える。


 これでようやく合点が行く。


 なぜ、国王マティスが直接ソロス大佐を呼び寄せて事情を話さなかった、そして伝令にオリヴィアを送り最低限の情報だけを持たせた。

 そしてなぜ奴隷を購入するだけの任務に昨日晩餐にて護衛をしていたレナールを向かわせた。


 バリスト伯爵家は代々国王に忠義深い一族だがそれをしっているのは信頼されている少数。

 表にはその代の当主によるが中立か、或いは三大公爵家の内一つによる立場。

 いま隣をあるいている兄妹は国王に絶対的な忠義を誓っている内輪の存在。


 グレン・ソロス侯爵は国王直属軍の最高指揮官である大佐、そして最も信頼されている家臣の一人。

 このことを王国内で知らない貴族はいない。

 予定を自分で伝えなかったのはそのせい。

 と言うことで王はこの一件が注目を集めることを望んでいない。

 が、裏ではソロス大佐にやって欲しいことはある。

 そして、それに国王が関わる事は出来ない。

 となると計画、その細かい詳細と実行は完全に部下である彼らの問題。


「昨日、他にいた護衛は?」

「全員こっち側の者ですが、私を含めて大半はあと数日でそれぞれの殿下と一緒に学園都市に出発します。残るのはゴットフリーど卿と部下の三人、王妃陛下護衛の双子とアルフォンス様の護衛トーレ卿」


 とソロス大佐の真剣な質問に出来るだけの情報を提示したレナール。

 二人とも声を抑えていた。

 オリヴィアは油断なく周囲を観察して会話の内容にもしっかり付いていく。

 そしてレナールが『公にはされていない情報』と口にした瞬間から、彼女が付けている綺麗なネックレスの小さな水晶が僅かに淡い黄色い光で輝き始めた。


「ち、残るのは表側だけか。オリヴィア意外にバリスト家の者を関わるのはお前らの仮面を燃やすリスクが大きいし、動ける裏側の者はほとんど殿下たちの護衛で王国を離れる。彼が護衛になると言うことは魔族である事実を消す事。そんな大仕事には信頼できる手が足りない」


 瞬時に事を運べる手段を考え、利用できる人材を確認するソロス大佐。

 人間族が信仰しているデウス教の教会が積極的に広めるプロパガンダは人間族以外の種族を下賤な存在で、支配される対象だと主張している。

 人間族の領域で長い歴史にわたって凄まじい影響力を保有している国際組織だから、その教旨は深く人々の心に刻まれている。


 強い信仰心が無くとも強くそう思っているものも大勢いる。

 人間族は他の種族に比べて特徴がないのは一つの大きな要因かもしれない。

 魔族とハイエルフはそれぞれ異なるが魔法に長けている、獣人やビーストマンは優れた身体能力、エルフとダークエルフほどの弓使いと剣士はいない、ドワーフやは優れた職人等・・・

 それは大まかな特徴に過ぎないが、それは事実であるように、人間族は多芸だがそれぞれの種族の特徴において劣っているのも事実だ。


 人間族の領域では他の種族は奴隷しかいない。

 己の存在が特別だと示さなければならない。

 それは、人間の醜い嫉妬と劣等感の結果だ。


 だから、権力の象徴でありながら人々にとっての手本でもある王族が護衛に魔族を使用したら教会も民衆も貴族も大騒ぎを起こす。

 下手したら王家が追放される場合も想像出来る。

 その大きなリスクを負ってでもその魔族の少年を護衛として付けたいなら国王マティスは本格的にアルフォンス王子の命の危険を感じ始めた。

 それも、信頼できる近衛騎士団が防ぎきれない程の。


「ふむ、それに隷属の首輪を付けられている護衛も見たことがないですね」


 なるべくソロス大佐に考える事を邪魔しないようにしていたレナールが逡巡した結果その重要な点を述べることにした。


 何しろ種族の差別と他に人間族の中にも様々な差別のタイプがある。

 ここは身分社会の法則も働けるだから。

 別に他の種族の存在がいなくとも人間は差別する方法を見つかる生き物。

 誰かを下に起きなければ、自信がつかない。 

 勿論それは全員ではないし、差別意識には個別の度合いもある。

 完全な例外もいるが群れに比較するのは滑稽な話だ。

 集団意識の強い生き物でもあるから。


「バカな。首輪を外したら殿下を守るどころか、高確率で外した相手を手にかけて殺されるか捕獲されるまで殺戮を行う」


 レナールの意見を聞いて、明らかに実現不可能な提案だと宣言した。


「分かりました。失礼でした」


 怒られた子供のように見えたレナールをみて、


「まったく、この理想主義者め。家族そろって甘い考えをして。ま~、そんなだから陛下も忠誠の誓いを信用できるだがな...」


 微笑みながら労う様に温かい声で言った。

 つずけて、


「ほら、もうそろそろ着くぞ。この話は一旦中止。後の事は私とオリヴィアに任せて自分の役目をしっかり果たすことだけに集中して。陛下に報告を終えるとこの一件での重要な役割を終了したと思っていい。良くやった」


 と、話し合いに区切りのいい所を見つけたソロス大佐。

 知っている情報を全て伝い、あたえられた任務を遂行したレナールがこれ以上この一件に関わる事は百害あって一利なし。


 目的の部屋にシンを置いて鍵をかけるとそれぞれの職務を全うしに向かった。


 部屋に残されたシンは兵士が寝るような普通のベッドに置かれてそのまま横たわっていた。

 そもそも、今の状態であまり動く事も出来ないが今日で結構動かされて全身の傷が普通以上に痛む。


 なにが起きているのかは分からないし当然、何の説明を受けていない。

 無論、この明るく窓がいるそして簡単だが家具もある部屋は暗くてかび臭い地下牢屋よりずっと良い。

 だが、基本的に閉じ込められた事には変わりはない。


 だから、シンは知る由もなかった、ここは仮面を被る者達が踊る不気味なマスカレード。


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