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異世界の夜空に舞う流星群 「休止」  作者: 望月八月
第一章 赤い目の少年
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第3話 仮面を被る者達

 王城にて。

 他国の客人と自国の貴族をもてなす夜会の後、国王マティス・エウフィリアとその家族が食卓に着いて、晩餐を開いている最中。


「どうしたの、アルフォンス?美味しくない?」


 幼きアルフォンス王子が誕生日を祝っているにもかかわらず不機嫌そうに頬を膨らんでいることに気づき、母のレノーラが尋ねる。


「お母様、お気になさらないでください。アルフォンスは珍しく欲しい物を手に入れなかったので、すねているだけに過ぎません」


 アルフォンスの兄の内一人、チャールズがやれやれと苦笑を浮かべながら告げた。


「すねていないもん!」


 とアルフォンスはすかさず否定する。


「あらあら、そうなのですか。何か購入の困難なものを欲しがっているでしょうか?」


 少し驚きの色を見せるレノーラ。国王が可愛い息子の誕生日にくれないものはそうそういない。


「ははは、こやつ、昼間に大闘技場で見た奴隷と友達になって欲しいいといきなり言っておってな」


 マティスは穂からかにに笑って答える。


「ま、然様でございますか。アルフォンス、奴隷はおもちゃではありません。お城に奴隷を使う仕事もありませんし、貴方の年齢で触れ合うものではない。わかってあげてください」


 レノーラは一瞬顔を曇らせて、でもすぐにアルフォンスに向き直って、少し困り顔で優しく説得を試みた。


「じゃ、僕の護衛にする。お父様が彼のこと強いといったでしょう?」


 だがアルフォンスは引き下がらない。


「まあ、強いとは認めるが護衛なら立派な近衛騎士が付いておるであろう」


 とマティスは答えたが瞳の奥に真剣な念が宿った。

 そして、その変化を長年王妃としてマティスの傍に賢明な相談役と腹心役を勤めていたレノーラが見逃すはずがない。

 二人の間に目に見えない無音な意見の嵐が発生した。


「ね〜、お願い、お父様!」


 その意思のぶつかり合いに無知なアルフォンスは別のアプローチを試みる。

 上目使いでおねだりすると言う子供の秘密兵器。


「ふははは、困ったのう!」


 妻から視線をそらさないまま、苦笑交じりの答えを出すマティス。

 に対して


「ほら、陛下を困らせないであげてアルフォンス。奴隷は帝城敷地内に入る事は禁じられている」


 もう一度、息子を説得しようと思ったレノーラが優しく語りかけた。


「...うむ...でも、僕、後2年で学園都市に行くでしょう?そこは帝城ではない。それに、学園都市は国外なので、注意が必要と前に母様が言っていました」


 と、レノーラが出した理由に対して正論をのべることにしたアルフォンス。


「え?...ま~そうですけど...でも...」


 意表を突かれたレノーラだった。

 長年王妃としてマティスの傍に賢明な相談役と腹心役を勤めて...

 百戦錬磨の王侯貴族の名が泣くと言っていい場面だが、自分が産んだ5歳になったばかりの子供に対して警戒しなかったのも事実。


「フム...それも確かだな」


 と、小刻みに笑うマティスが『一理あり』という意味も込めてレノーラを見ながら告げた。


「陛下、まさか!?」

「お父様!?」


 妻のレノーラとアルフォンス以外の子供達が面喰らう。


「ま〜、こやつがそこまでこだわるなら。それに、その奴隷は確かに強いし余も興味はある。何よりも、学園都市の警備はどうも気に入らん。あそこに遅れる人員も学園のルールで限られているし。奴隷の首輪があれば害をなすこともあるまい、そして力もある。この二年間で丁度少し教育すれば、大人しく立つぐらいはできる。そして、年が近い分、教室の中でも入ることが認められるやもしれん」


 マティスは右手を突き出して、反対の声が出る前にそれを静止する。

 そしてゆっくりと自分の意見を述べる。


「ですが・・・」


 まだ、納得し切っていないレノーラが弱々しく声を挙げる。


「それに、もう五歳だ。早く世のあり方を知るに越したことはない。大体、今日の戦いの後生きているかどうかもわからん。だが、生きているならば明日購入する」


 と、マティスが釘をさすように宣言した。


「本当?ありがとう、お父様!」


 満面の笑みを浮かべているアルフォンスと愉快そうな微笑を湛えているマティスに対照的に他の面々は少し複雑な表情を覗かせる。


 *****


 翌朝、


 国王マティスは王国の有力な王侯貴族、エヴァンス・グロット公爵とその家臣の一人、カール・レベノ準男爵を呼び寄せて、執務室にて内々的に謁見を行った。


 先に入室したのは背の高い、細めの体格を持つ黒髪の男、グロット公爵。

 歩き方には強者の余裕と支配者の優雅さがあり、一見地味にみえるが最高級の服装の着方からは外見へのこだわりが伺える。

 しかし、最も注意を引き付けているのは彼の目。

 見た目は普通だが、その視線が何もかも細かく観察し疑うように感じさせる。


 彼の後を小走りに追っていたのはやや太めで茶髪の男、レベノ準男爵。

 目の下にはっきり見える隈、鈍い鉛色をしている顔と必死に隠そうとしている焦りが彼の太った顔を酷く痩せているように見えさせる。


「よくぞ参った」

「ご機嫌麗しゅう存じます、陛下。御尊顔を拝謁の光栄を賜り恐悦至極存じます、お呼びとあらば、いつでも喜んで参上する所存」


 マティスは手短に挨拶をすると、エヴァンスが恭しく挨拶を返す。


「ご機嫌麗しゅう存じます、陛下。御尊顔を拝謁の光栄を賜り恐悦至極存じます」


 そして、エヴァンスから数歩後ろにとどまったレベノ準男爵が畏まった不快お辞儀をしながら乾いた声で挨拶をつげる。

 エヴァンスだけを見ながら、マティスが話をもちだす。


「うむ、昨日はおぬしの大闘技場で見た戦いは実に見事であった。喜ぶと良い」


 マティスは上機嫌に語った。

 正確には大闘技場を経営する貴族はレベノ準男爵だが、国王の目にはその所有権は主君のエヴァンスにある。


「光栄に存じます」


 エヴァンスは微笑を浮かべて応じた。


「で、戦った者たちはどうなった?」


 マティスはおもむろに尋ねると、エヴァンスはかすかに顔を曇らせて、レベノ準男爵の顔が明らかにいっそう青ざめた。


「誠に残念ですが、ほぼ全員が死亡とのことです。貴重な個体だとあれだけレベノ卿に注意したのに...ですが、昨日の舞台を他に作る方法はなかったので仕方ないとは思います」


 しくしくと語ったエヴァンス。

 自分の名前を聞いたレベノ準男爵が微かに小刻みに振るいはじめ、息を飲んで床に視線を釘付けた。


「で、あるか。が、ほぼということは生き残りがあると?」


 マティスは頷くと、追って質問する。


「ええ、一人、戦闘後雄一立っていた最年少の男の子が生き延びたとか。これもまた貴重な一品で、今となっては世界で最後の『レギオス』でございます」


 と、エヴァンスが言って、つずけて


「ただ、容体は非常に酷かったゆえ、今でも生きている可能性はとても低い。確か、治癒使いが念のため手当を施して一晩中寝かせることをすすめた。今日で生き延びるかどうかを見極めるかと」


 と、少年の容体に関して情報を足した。


「ふむ。そのレギオスの小僧を余に譲ってはくれぬか?なんなら今でも契約を作成して、望む金額を手配する」


 マティスは不敵な笑みを浮かべてそう告げた。

 その言葉を聞いて、レベノ準男爵の瞳に希望の光が宿る。

 それを見てマティスは愉快そうに目を細めた。


「陛下直々の頼みとあらば、何なりと!しかし、誠に恐縮存じますが、これはまた珍しい決断ですな、陛下が奴隷に興味を示すとは」


 エヴァンスは即答で首肯した。

 穏やかな笑みと対熱的に目は注意深く王を観察していた。


 レギオスは貴重でレアな所有物。

 数ある中級国家の一つに過ぎないエウフィリオンの貴族が世界で存在する雄一の品を手に入れる為必要な苦労と財産の消費が凄まじいことは想像しやすい。

 それを室内にいる誰もが理解していた。

 いくら国王の権力は大きくても家臣のそれほど貴重な所有物を強引に購入するのは示しが付かない。

 エヴァンスは『レギオス』の兄弟を最初に購入した時にマティスに対してどれだけそれを評価しているかアピールしてその存在を知らせたことで牽制を掛けたこともある。

 だから本来それに等しいこのような頼みをするはずがないマティスが何を根拠に動いているのかを見極める必要がある。


「ふん、それはお主も昨日見たであろう。アルフォンスが昨日の戦いっぷりを見て、欲しいと言って融通がきかんでね。いやはや余も流石にまいったぞ。すまんのう、おぬしがその奴隷をどれだけ高く評価しとる事は余も知っておるぞ。だが、どうも可愛い息子には逆らえん」


 マティスは愉快そうに語りながら、まっすぐエヴァンスを見据えている。

 最近ではエヴァンスの影響力が大きすぎて、皇帝にも近寄ってきている。

 だが、ここで息子の我が儘を盾にして周囲の貴族に一気に力を示す丁度良い機会だ。

 大義名分として子供の我が儘程都合の良いものはない。

 発言と行動の重みを理解していない、だが膨大な影響力を持つ子供の仕業。

 子供の意思の目撃証人が必要だが、アルフォンスは大闘技場に集まっていた大勢の王侯貴族たちの目の前ではしゃいでいたからそこに抜かりはない。


「左様でございますか。確かに、アルフォンス王子殿下に喜んで貰えるならお安いご用でございます」


 エヴァンスは恭しく右手を左胸に添えて軽くお辞儀をする。

 その表情は愛想のいい笑顔を浮かべているが、目が氷のように冷たい。


「それで、隷属の首輪の所有物はお主が持っているか?それとも部下を呼ぶ必要がある?」


 そうと決まったら、話は実際に所有権の手渡しに移る。


「はい。問題ありません」


 エヴァンスは短く答えて、右手をゆっくり上げた。

 手のひらを開けて、そこに薄い紫色の幾何学的文様が現れ、手のひらから浮かぶ上がり数センチ離れた所でとまった。


「ゴッドフリード卿、宮廷魔導士長と会計官、あと、近衛騎士団のバリスト卿を呼ぶように衛兵を向かわせろ」


 王たるマティスが一人になることは非常に珍しい。

 今も、重要人物意外に執務室には4人の護衛員がついている。

 その内一人、ゴッドフリード・アマリエは国王の近衛隊長を勤めているヴェテラン騎士。

 彼は短い「御意」をだけいって、扉をあけて、指示を衛兵に伝えた。


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