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異世界の夜空に舞う流星群 「休止」  作者: 望月八月
第一章 赤い目の少年
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第2話 この腐れきった世界は...

 グロブス大陸中心部の北西方にあるエウフィリオン王国。

 その王都オリオンの大闘技場の地下牢屋に満身創痍で見た目八歳ぐらいの少年が息絶えている寸前だった。


「はぁ・・・、はぁ・・・」


 とても静かで苦しそうな息は薄暗くて狭い牢屋に響く。


 硬くて冷たい床で横たわっている少年の前に二人の兵士風の服を着ている男が立っている。


「ひっでえ。連れてきたのはいいが、生きているのか、これ?」


 そのうちの一人、二十歳前後の男性が訝しそうに少年を見ながら尋ねた。

 怪我が深く、その数も多い。大人でもとっくに死んでもおかしくない状態。

 なのに少年は不思議とまだ生きている。


「生きているよ。子供だからって甘く見たら命がいくつがあっても足りねえよ、お前」


 一緒に立っていたもう一人、壮年の男が嘲笑を浮かべて答える。


「あんな化け物の戦いっぷりを見て誰が甘く見るっつーの!だが、今日のはさっすがにやりすぎかも、いくら『レギオス』と言っても、まだガキだし、これじゃ自慢の回復力も追いつかねーだろ」

「なんだ、同情しているのか?止めておけ、人間に見えても所詮は魔族だ」


 そう、少年の容姿は人間とそう変わらないが、その正体は魔族。

 基本的に魔族は青い肌を持ち、二つの角が生えているが、レギオスという一族はその唯一の例外で、外見が人間とそう変わらない。

 違いを見分ける特徴は光るような赤い瞳と銀色の髪だけ。


「馬鹿野郎!んなもん知ってらー!だいたい奴隷なら人間でも同情なんかしねえ〜。だがよ、こいつ、レアなんだろ?貴重なレギオスから捨てるには惜しい、前にマスターも言ったろ?」


 若い方の男が物珍しい商品を見ているような眼差しで床で倒れている少年を見下ろして、そう告げた。

 レギオスはその外見から魔族の中でも毛嫌いされた一族で、その飛び抜けた力ゆえ恐れられた一族でもある。

 3百年ぐらい前、魔族の上層部がその一族をこの世から消す結論を出した。

 圧倒的な戦闘能力を持ちながらも数の少ないレギオスは流石に魔族の集合軍を退けることは叶わなかった。

 それでも魔族の軍は多くの犠牲を出してでも、指で数える程度だが、生存者を取り逃がした。


 その後人間族に捉えて奴隷として死んだのはほとんど。

 人間と魔族の間に埋めれる子供は必ず片側の種族になり、なんとかその貴重な存在を保存したがレギオスが生まれる確率は非常に低かった。

 結局、レギオスは今になっては存在しない一族とみなされていた。


 が、数年前に最後のレギオスの子孫である家族が発見されて、戦いの中に生き残った子供二人を奴隷としてこの大闘技場に連れられた。


「確かに俺もここに長年働いているが今日みたいな戦いは初めて見たな。兄の方は戦いの最中その場で死んだしな。ま、俺らが知ったこっちゃねえーよ。王子殿下の五歳の誕生日を祝うパレードだから、マスターも張り切って盛り上がろうと思ったんじゃねーの?治癒使いがもうダメって言ったしな。ほれ、いくぞ」


 壮年の男はそう答えて、しょうがないと言わんばかりの表情をのぞかせて、廊下へ足を運び始めた。


「国王陛下と外国のお偉いさんがたくさんいて観戦したのはいいが、この後どうやって観客を盛り上がるのが問題だろ!だいたい、五年前といい、今年もパレードのスケールが大きかったな。別に長男でもねえだろ?」


 若い方の男はどこか釈然としない面持ちで応じながらその後を追う。


「場赤、誰かに聞こえたらどうする?アルフォンス様は王妃陛下が産んだ初めての王子。そのことで大騒ぎだったろ。あ~お前、その頃まだガキだったなガハハハッ」


 壮年の男は咄嗟に周囲を確認して、低い声で若い同僚に知恵を絞えて下品にからかいながらわらう。

 そして、相手の思考を読んでこういったー


「ま、お前の疑問は俺にもわかるが、仕方ねえって。やっぱりマスターの計算違いじゃねーの?生き残ったのはこいつ一人しかねえし、瀕死だし・・・なんと言って、レギオスが二人いるとしても、流石にあんな魔物の群れを相手に六人はきついって」


 魔物とは魔力が溢れるこの世界に存在する害獣てきな生命体。

 獣とは違ってある程度知能を持つが医師の共通は不可能。


 その上、自然を表す生き物に対して無関心が、各種族に対して敵意を示して積極的に害を為すように活動する。

 群れて行動するのはあるが、軍隊や組織的な動きや指揮系統はないため種族として認められてはいない。


「やっぱり?ま〜ダークエルフの四人はともかく、凄まじい戦闘能力だね、結局全部倒したのはすごかったな。あれだけの数を剃ろうには冒険者たちも結構苦労しただろうな」


 若い方の男が感心したような声で言った。

 各地に無作為に現れる魔物を討伐するには、動いが指揮系統で束縛される軍隊より、自由に独自の判断で動けて反応が早い人員が向いている。

 かといって、大勢の武装している戦闘プロフェッショナルを看過することはできない。


 そこで、冒険者ギルドがその穴を埋める。

 魔物の討伐以外にもいろんな依頼を受ける組織。


 刺激を求める観客の期待に応えるために各地にある無数の闘技場の経営者達はそんな冒険者達に依頼するのは魔物の捕縛。

 そしてその魔物を奴隷と戦わせることで娯楽にスパイスをかける。


「でも、あの戦いを見て、その甲斐があったってもんだろ」


 壮年の男はどこか愉快そうに言って、くすくすと笑った。


「確かにね」


 若い方の男も笑って答えた。


「ま、一応生き伸びろかもしんねえって、マスターが言った通りそこに置いたからもしかしたらとは思うけどね」

「ええ?その怪我で?」

「まー、そういうな。レギオスだろ?」

「へいへい、期待しねえで待つとするか」


 そうやって、やり取りをしている二人は、牢屋の扉の鍵を閉じて、廊下を歩いてそのままどこかへ去った


 *****


 一人で残された少年は理解していた。

 このままだと死ぬと。

 そしてそれを防ぐことも思わなかった。


 つい先ほど死んだ兄と違って彼は奴隷以外の生活を知らなかった。

 物心がついた頃にはもう奴隷だった。

 兄から言葉や戦い方を教わったが、優しくしてもらったことは一度もない。

 それでも なんとなく近い存在として思えていた。

 兄以外に長期間で接した人はダークエルフの奴隷五人組と人間族の奴隷一人。

 人間族の奴隷の方は今朝、個別試合で魔物たちに残酷に殺されて、兄と五人のうち四人のダークエルフが昼間の戦いで散った。


 正直のところ少年は死を望んでいた。

 親しい少数の人がほとんど死んで、待つのは暗い未来だけ、しがみつく幸せの記憶がない。

 彼のまだ短い人生はもう重すぎた。

 過酷な戦いばかりでろくな人格すらない、生きる意味もない。

 野性的な本能のかたまりみたいな彼の人格は我をもほとんど持たない。

 獣に近い。

 が、どうあがこうが知能があるゆえに理解している。

 このまま死ぬ方がらく。

 だが、奴隷を束縛する特殊な首輪によって、自殺は不可能だ。

 だからこうやって死を待つしかない。


 本来働くはずの自己回復を自力で抑え、意識を無に落とそうとしていた。

 もう、ここが彼の精神の限界。

 そして不思議と何者かの気配を感じて、意識が曖昧になる。

 違う意識が自分のと混ざって、自分が別の人に思えた。

 その意識と共に体にとてつもない量のエネルギーが流れ込んできて...


 その瞬間、意識が飛ぶような頭痛が襲い掛かり、強い生存本能が働いて自己回復をフル回転に発動し気絶した。


「...ん...」


 数秒後、目を開けた少年がどこか違った。


 呆然と周りを見回して、状況を把握しようとする。

 その瞳の奥には、明らかに知性がある。


 数分、酔いと頭痛が収まるのを待ち、状況の解析をはじめた。


 なんとなく、自分に起きた事を理解した。

 冷たい床に横たわっていたのは北川辰巳に近い人物。


 意識は分断されているではなく完全に一人の人格を持つ。

 ただ、それは純粋に辰巳のものだけではない。

 どうやら、二つの人格から最も強い部分を引き継いだ。

 最も、戦闘意外の部分では辰巳が圧倒的強者だった。


 魔族の少年からもらったのは好戦的な部分と野生の感。

 元々本質的に殺人に対して抵抗のない、その上好戦的な魔族がこれまで闘技場奴隷として生きていた以上、それは当たり前。

 実践経験、殺気が向けられた感覚、濃密な殺意を放てる感覚、殺害の経験、他人を傷つくあるいは殺せる覚悟、感情に揺さぶれない強い精神力、戦士の心と恐怖に耐えられる勇気。

 それらを全部魔族の少年から貰った。

 必要だから殺す、罪悪感も後悔もない。


 だが、辰巳のモラルは完全に活気替えられたわけではない。

 強いて言えば、それは好ましくない手段だ。

 最大限にそれを阻止する心構えはある。

 本当にそれ以外道がない時だけに選ぶ選択。

 後は細かい所で、辰巳の言動が違ったりすることもある。


 つまり、今傷だらけで床に横たわっているのは魔族の少年でも、辰巳でもない。

 全く新しい人とも言える。

 二人分の記憶はある。

 体に違和感がない、完全に自分のものとして感じる。

 不思議でそれでいて驚きはあるが、取り乱さない。

 割と素直に状況を認めて、受け入れた。


 この新しい自分を辰巳と呼ぶには違和感があった。

 自分の一部を否定するみたいに、嫌な感じがした。

 だから、自分をこれから「シン」と呼ぶことにした。

「辰巳」の「辰」を取ったのはちょっとずるいとも思ったが。

「あたらしい」と言う意味でも取れるから良しとすることに決めた。


 そこまで分かれば、重要な問題は体の具合。


 少年がこれまで意図的に抑えていた回復力が辰巳の意思によって働き始めた事で、傷は少しづつ回復し始た。

 レギオスはただならぬ回復力を有しているが、今の怪我は明らかに回復可能領域を遥かに超えていた。だが、驚くことに少年の記憶の中よりも今の辰巳の回復力が圧倒的に優れている。

 といっても、いくらレギオスと言ってもこの状態では一週間くらい戦闘不可能で、二日ぐらいはろくに動けない。

 一応、手当はしているので出血死は免れるし、今晩か翌朝に人が来るはずので衰弱死の恐れはない。


 だから辰巳は静かに床に横になって、冷静に状況を整理するしかほかに何も出来ない。


 次の問題点はこの体のスペックだ。


 魔力の量は特定できないが、前とは比べ物にならないくらいに多い。

 知識や戦闘技術は二人分あるが、身体能力や体型、筋肉の上達バランス等はこの体のものだから、調整が必要。

 ただし、レギオスの身体能力は普通の人間のそれとは比べ物にならないくらい高いので、この年でも鍛え上げられた年上の辰巳本人の体よりずっと上。

 肉体が耐えられる動きも、即ち肉体の強度が丈夫で成長すれば恐ろしいものになると安易に予想される。


 シンが次に思考を向けたのは現在の状況と知識そして可能な選択肢。


 非戦闘知識も二人分があるので、現在の状況はよく把握できる。

 知っている言語は地球の日本語とこちらの世界の人間族共通語をすこし。


 今の容体は非常に悪いので逃亡は不可能だ。

 いえ、それ以前、首には特殊な奴隷首輪があって、誰かにそれを外してもらわない限り登録されている主人に逆らえない。


 外されたとしても、行くあてはない。

 情報が不足している。

 今は一先ず回復が終わるまで待つ。

 その後はとりあえず大人しく言う事を聞いて、従って、有効な手段や情報を探すしかない。


 辰巳が死んだ時、周りにいた人はどうなっているのかは気になる。

 もしかしたらこの世界のどこかでいるかもしれない。

 が、この状況でそれを知る方法はない。

 星花の無事とこの世界にいないことをを祈るしかない。


 そう思った時、シンはやるせない面持ちで唇を噛み締めた。

 自分の無力さが苦しかった。

 今は耐えるしかない。

 が、この状況に満足するほどもう、彼は甘くない。


 人格、そして記憶と一緒に引き取った感情と重みは大きかった。

 それは魔族の少年が今まで感じた全ての暗い感情と心の痛み。

 彼が歩んでいた残酷な道と味わっていた理不尽な運命の巡り合わせは想像することが難しいほどに暗く、重かった。


 その全てを、自分に起きたように実感して、自分のように受け止めていた。

 それは魂の一部になった以上、シンが経験したものになった。


 それでも、今の自分は新しい人生を歩んでいる。

 だから引き返すことができない。

 地球に自分の居場所はもういない、

 帰る方法があっても帰る事が出来ない。

 この世界で生きるしかない。


 だから、今度こそ、大切なものを守れる力が必要なのだ。

 一度失敗した今、それを繰り返すつもりはない。


 だから、シンは改めて自分に言い聞かせる。


「この腐れきった世界は甘くない」


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