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9. 異形なる巨大な熊

シェン・アラーニャが息絶えた。


つくづく〖鋼化〗の有用性を思い知らされるな……


この戦い、正直俺は〖鋼化〗してるだけだった。


こっちにはダメージが通らない一方で、シェン・アラーニャには体に刺さった短剣と俺の牙で継続的にダメージが入り続ける。


ずっと穴の上の洞窟で取っていた戦法だが、格上相手でも通用する方法であることがはっきりしたな。


不意を突けたら〖鋼化〗で倒せない奴なんていないんじゃないか?


とそこで、上の方で何かがちぎれるような音が聞こえてきた。次いで、ばらばらと上から何かが降ってくる。


「ギ、ギィ……」


「キシッ……」


「ガァ……」


……こいつら、シェン・アラーニャにとらえられてたモンスターか? なんで落ちてきたんだ、と疑問に思ったが、シェン・アラーニャの糸は魔力を通すことで強度を増す性質があることを思い出した。


シェン・アラーニャが死んだことで魔力が途絶え、巣を形成する糸が重さに耐えきれなくなったのだ。


シェン・アラーニャが殺さずに置いておいたモンスターたちが、体の様子の確認を終えると一目散に逃げていった。その様子は何かに怯えているかのようであった。


あいつらの状態は万全ではない。一瞬追いかけて狩ろうかとも思ったが、やめておくことにする。


今の俺は最大レベルだ。モンスターを倒しても経験値を得ることができない。それより、安全を確保したうえでとっとと進化してしまおう。


いきなりD―ランクが出てくるような場所だ。少しでも戦闘力を上げておきたい。


蜘蛛を食べる気にはなれなかった俺は、シェン・アラーニャの死体をそのままに歩き出した。


戦闘中は気が付かなかったが、ここはかなり広い洞窟だ。穴の上の洞窟……面倒だな、あっちは上層と呼ぼう。上層の大きさが最大でもせいぜいコボルド2匹が両手を広げてすれ違える程度だったのに対して、ここはその4~5倍の広さを有している。


進化の間は一切スキルを使うことができないから、無防備だ。俺の体を完全に覆い隠してくれるような狭い場所がどこかにあるといいんだが……ぁ?


ズシン!


聞き覚えのある大きな音とともに地面が揺れる。音は繰り返し響き、しかも少しずつ大きくなっていく。


何が……と思う暇もなく、洞窟の先からそいつは現れた。


「グラガアアァァァッ!」


そいつは、大まかには熊のような姿をしていた。体の大きさに見合わない、異様に発達した太い両腕を地面について、のそりのそりと歩いてくる。


いや、決して歩みが遅いわけではない。体がでかいから気が付かなかっただけで、俺がこれまで見たどんなモンスターよりも早くこちらに迫ってきていた。


なんだこいつは……



‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐

種族:グランドベア(C)

状態:飢餓

Lv:14/55

HP:174/179

MP:61/62

攻撃:137

防御:126

魔力:60

敏捷:67



特性スキル:

〖土属性:L--〗〖気配感知:Lv1〗


耐性スキル:

〖飢餓耐性:Lv6〗〖毒耐性:Lv1〗〖物理耐性:Lv3〗


通常スキル:

〖噛みつく:Lv3〗〖大爪撃:Lv4〗〖自己再生:Lv4〗〖触手鞭:Lv3〗〖衝咆哮:Lv2〗


称号スキル:

〖一帯の覇者:Lv1〗

‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐



Cランク、モンスター……


これまでのどんなモンスターに対しても圧倒していた俺の敏捷に、迫るほどの数値。おまけに他のステータスは大幅に負けている。何より[攻撃:137]であれば、〖鋼化〗状態の俺にもダメージを通しうる。


ズシン!


グランドベアが、また一歩を踏み出して地響きを鳴らした。


間違いない。


レッサーコボルドとの初戦闘を行った時、そして上層からここへ落ちることになった時……


その時に発生した地響きは、こいつの足音だったのだ。


「グルルルゥ……」


目が、あった。


食欲に統べられるその瞳が、俺に向けられる。


「え、えぁ……」


ランクが二つ違う実力差に、俺の身が竦む。


シェン・アラーニャの巣から解放されたモンスターたちが一目散に逃げていったのは、シェン・アラーニャを倒した俺から逃げたかったからなのかと思っていた。


だが、違う。全く違う。あいつらは理解していたのだ。


この幅の広い洞窟を支配しているのが誰なのかを。


この場にとどまっていれば、自分が喰われてしまうということを。


俺をじっと見つめていたグランドベアは、すっとその場で体を落とすと、


「グラガアアァァァッ!」


次の瞬間、勢いよく俺めがけて走りだした。


「エアアッ!?」


俺は脇目も降らず走り出す。幸い敏捷はかすかに俺の方が上だ。追いかけっこなら俺に分がある。


……大丈夫だよな?


「グラアァッ!」


ちらっと後ろを振り返って後悔した。不気味な熊もどきが全力で迫ってくる光景など恐怖でしかない。


「エアアァッ!」


俺は必死に逃げる速度を上げる。数値の差はやはり大きいのか、少しずつグランドベアとの距離が開いてきた。


このまま行けば逃げ切れるか……と思った時、俺の背筋が凍った。


俺は直感に従い、迷わず〖鋼化〗を使う。


「グラガアアァァァッ!」


グホッ!?


〖鋼化〗の能力を理解してから、久しく感じていなかった大ダメージに襲われる。一瞬意識が飛びそうになるものの、根性で耐えて〖鋼化〗を解除し、すぐさま闘争を再開した。


ちらりと後ろを確認すると、グランドベアの背中あたりから一本の鞭らしきものがしなっていた。あれはまさか、〖触手鞭〗か!?


「グラガアアァァァッ!」


グランドベアの叫び声に合わせて、太い鞭が再度振るわれる。


もう一度あれを喰らうわけにはいかない。


俺は必死に鞭の動きを先読みして、回避した。


俺をとらえそこなった鞭が地面を叩き、壁を打つ。


てめぇ! 熊のくせに鞭なんか持ってんじゃねぇよ! 熊なら熊らしく振舞いやがれ!

(5/29)1話分間違えて投稿していました。すいません

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