連鎖反応
ご案内の通り、村を滅ぼされた村人は、ヘルマンたちの避難誘導に従いまして、山を越えて隣村へ。そこから親戚筋などを頼りまして、各地へ散ってまいります。
かねてから王族批判と離反を公言してはばからない村人たちでございましたから、避難した先でも黙っているものではございません。
「オーガが壊したのは納屋1つだけさ。
そこへおめぇ、呼んでもねぇのに来やがった王国軍が、オーガはほったらかしといて俺たちの家を、壊すわ、火ィつけるわ、畑は踏みつけて荒らすわ……冗談じゃねぇ!
今まで散々いくら助けてくれったってなしのつぶてだったくせに、徴税だとこきやがって来年の種籾まで持ってっちまって、つんつるてんにハゲちまった畑をだ。しょうがねぇからもういっぺん耕してどうにか使い物になるようにと、苦労していたところなのに……あんちくしょう!」
「ひでぇな、そりゃ……。
なんだってオーガほったらかして家壊してんだよ。」
「知るもんけぇ。こんな国には付き合いきれねぇと言ったのが、よっぽど気に障ったかねぇ。
魔物から守ってくれねぇから毎年畑が荒らされて税も出せねぇってのに、それで村を襲ったんじゃ、税になるわけねぇ。王族だとかいってふんぞり返ってたって、そういう所はバカなんだから、この国はもうおしまいだよ。てめえでてめえの足下ぶっ壊してんだから。」
「……なあ。俺が兵士やってたのは知ってるよな?」
「ああ。」
「領主様が処刑されたのも知ってるよな?」
「ああ。」
「あの領主様がなんで処刑されたか知ってるか?」
「ああ。なんか王様の邪魔したってんだろ?」
「それがな……。」
この元兵士、軍隊の怖さを知っておりますから、下手なことを口にすると我が身が危ないと黙っておりましたけれども、心の中では鬱憤がたまっております。そんなときに村人が堂々と愚痴を言いますので、それなら俺も、と不満をぶちまけます。
ご案内の通り、人間と申しますのは同じ意見の人が集まりますとエスカレートする性質がございます。いじめしかり、デモ行進しかり、買い占めしかり。
元兵士も村人もみんな散り散りになっておりますので、各地でこういう出会いがおきまして、王族批判がエスカレートいたします。そうしますと、周りの人というのがこれに感化されまして、同調し、エスカレートしてまいります。それまでですと文句を言うだけだった「世論」が、具体的に行動を起こそうという「運動」になってまいります。つまり、ある街がとうとう離反を決意いたしました。
税といいますのは、領主が領地から徴収いたしましたものを国へ納めるわけでございますが、領主には領地の運営が任されておりますので、その運営費というものが必要でございます。これを税に上乗せして徴収いたしますが。領主が処刑されたからといって、領地運営がすべてストップするわけではございません。元からおりました部下たちが何とか領地運営を維持しようと……これは、部下たちにも自分たちの生活がございますので、何とか領地運営を維持いたしませんと自分たちの収入がなくなってしまいます。
税の徴収も今まで通りにやっておりましたが、豊作・凶作などの状況に応じまして税の加減をしておりましたのが、これは領主の認可が必要ということで、今年は税を満額出すのが難しいという街へ、満額の徴収をやらざるを得なくなりました。
領主が処刑されましたのが5月。ヘルマンたちが山の中腹に拠点を作り始めた頃でございます。税を徴収しましたのが9月のことでございますので、間に4ヶ月もございました。この間に新しい領主が決まらないものですから、税額の調整ができないというわけで。12月に入りまして村から逃げてきた村人や、これに触発されました元兵士などが不平不満を口にするようになりましたので、徴税に苦しむ街の人たちもその動きに乗っかります。そうやって同じ意見の人が集まりまして、王族批判がエスカレートしますと、実際に生活が苦しいのも手伝いまして、もう我慢ならないと離反いたしましたわけで。
さて、街が離反いたしますと、これは田舎村と違いまして、人・物・情報の流通がそれなりに盛んでございますから、すぐさま王城に察知される事となりました。
「度し難いな……。」
「ふっ……たかが街1つ、王国軍を相手に、離反など許されると思うのか。」
「すぐに出撃だ。村に続いて街までも……二度とこのような事がないよう、いかに愚かな選択か見せつけてやらねばならぬ。」
と、これはどこの国でもそうでしょうが、勝手な離反やら独立やらを許そうとはいたしません。
ところが、この出撃は、またも失敗に終わります。
原因は2つございまして、1つは教育の欠如。もう1つは封建的な支配体制でございます。
まず教育の欠如と申しますのは、愛国心とか忠誠心といいますのは、これは教育のたまものでございまして、いわば一種の洗脳。この国に生まれたからには国を愛し王に尽くすのが義務であると、子供の頃から教え込んでいかなくてはなりません。戦時下の日本や、今の北朝鮮のようなものでございます。それよりだいぶ緩くやっておりますのが、今のアメリカ合衆国。「国民はこう考えるのが正しい」「他の考えを持ってはならぬ」というような思考統制の教育はしておりませんが、事あるごとに国旗を掲げ、国歌を歌い、愛国心が育つように煽っております。ところが学校制度もなければ、そのほかの教育制度もございませんし、アメリカのような愛国心を煽ることもやっておりませんので、民には愛国心も忠誠心もございません。
もう1つの封建的な支配体制と申しますのは、これはもっと深刻で。王が貴族に領地を与え、領地の直接の支配は領主がやっておりますために、兵士を雇っているのは国ではなく領主。その領主を雇っているのが国だから、兵士は国の命令で動くという構造でございます。では、貴族が国の命令を「気に入らぬ」と思ったなら、どうなるかと申しますと、兵士は自分に給料をくれるのが貴族であるために、国の命令よりも貴族の命令を優先して行動いたします。このため国に対する愛国心だの忠誠心だのは、元から持っておりません。しかも貴族が兵士を集めますときには、詐欺や脅迫や拉致も同然のやり方でもって強制的に兵士に仕立ててしまう事も珍しくありませんので、隙あらば脱走してやろうと思っている兵士も少なくありません。
「冗談じゃねえ。街を攻撃しろって……? あの街には俺の友達が住んでるんだ。」
「俺なんか、妹が嫁いでいった先だぜ。やってられねえよ。」
「けど、脱走なんて、もし見つかったら……。」
「バカ。お前。考えてみろ。
次は自分とこの街かもしれねえじゃねえか。」
親を殺せというような命令には従えるわけがない。その時になって脱走しても、前は他人の街だから攻撃したが、今度は自分の街だから嫌だった、というのでは世間体が悪すぎる。他人とみれば攻撃をためらわない奴だ、などと悪評が立っては、生きづらい事この上ない。
ならば、どこも攻撃しないうちに逃げてしまおうというので、出撃しました兵士の半数以上が、攻撃目標の街へ到着する前に脱走してしまいます。見張りの兵士までもが一緒に脱走してしまいますために、脱走に歯止めが利きません。
一方、離反したはいいが、この先どうしようかと街の代表や有力者たちが悩んでおりますところに、ある噂が流れて参りました。
処刑された領主の元兵士が、第3王子を旗頭にして王国軍に滅ぼされた村から村人たちを救った――と。




