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元騎士との出会い

 ヘルマンが追放されるよりも3年ほど前、国王ジークフリートの配下におりました貴族の1人に、跡継ぎに恵まれない者がおりました。

 珍しく恋愛結婚と政略結婚の相手が一致しておりましたので、この貴族は妻と大変に仲むつまじくしておりましたが、妻は娘イレーネを産みましたときに、産後の肥立ちが悪く、そのまま他界してしまいました。これがヘルマン追放の20年ほど前の事でございます。

 それから10年ほど妻を失った悲しみに暮れて後添えをもらわずにおりましたけれども、周囲があれこれと手を焼き、本人もいくらか歳を取りましたので、「もうそろそろ家の跡継ぎのことも考えねばならぬ」と後添えをもらう事にいたしました。

 ところがそれから1年がたち、2年がたち……3年がたち、4年がたっても、子宝に恵まれません。実は再婚するまでの10年の間に、魔物との戦いで股間を負傷しておりまして、金の玉(2つとも)がその機能を失っておりましたが、本人は使う機会がなかったものですから全く気づかずにおりました。

 イレーネはすくすく育ち、自分がどこぞの次男でももらって後を継げば良いと考え、女だてらに戦場を駆けるべく鍛えるようになっておりました。そうして15歳になりますと、いよいよ叙勲を受けて正式に騎士になって働き始めます。


「……進路変更。我に続け。」


 イレーネは「探知」というスキルに目覚め、これを使って敵の位置を知ることができました。常に魔物の側背を突いて奇襲しますので、イレーネの部隊は常勝無敗を誇ります。美少女が強いというので、イレーネの人気はどんどん高まりました。

 そうしますと、これを面白く思わないのが、国王ジークフリートとその2人の息子、長兄ライナルト、次兄エックハルトでございます。戦場で活躍し、魔物の脅威から国民を守る。その事によって支配の正当性を主張し、民衆の支持を得ておりますので、自分たちよりも活躍したり、自分たちよりも人気が出たりいたしますと、これは大変に目障り。

 なんとか排除してやろうと考えますが、魔物を誘導しようが絶望的な数の敵に突っ込ませようが、すべて事前に「探知」して生還し、しかも成果を上げてしまいます。だんだんイライラし始めた3人は、その苛立ちをイレーネにぶつけて、つらく当たるようになりました。今で言う職場イジメ、パワハラでございます。


「調子に乗るなよ、小娘が……!」

「はっはっはっ! また大変なところに送り込まれたものだねぇ。」

「嘆かわしい……。主を立てることを知らぬから、そうなるのだ。」


 普通なら死んでしまうような状況に追い込まれて、そこで成果を上げて戻ってきたというのに、王からは怒りを買い、王子からは嘲笑と非難を浴びせられる。褒められる要素しかないはずなのに、なぜ? と、イレーネはひたすら理不尽を感じて耐え続けました。

 苛立ちを解消する方法といえば、訓練でございます。ひたすらに剣を振り、怒りのエネルギーを運動で消費していきますと、だんだんと気持ちが落ち着いてきて、乱れた剣筋が整ってまいります。

 ふと気づきますと、練兵場の隅からじーっと見ている者がおりました。イレーネは慌てて跪きます。


「これは殿下。気づきませんで、失礼いたしました。」

「気にしなくて構いません。

 それよりも、あなたは確か、騎士のイレーネさんでしたね?」

「はい。殿下に覚えていて頂けるとは、光栄であります。」

「最近話題ですからね。常勝無敗の部隊。

 また無茶なところへ送り込まれたようですが、よく無事に戻ってくれました。

 部下の方々も、皆さんご無事でしょうか?」

「はい。負傷者は出ましたが、おかげさまで死者は出ずに帰っております。」

「それは良かった。

 あなた方の活躍が、魔物の脅威にさらされる国民に勇気を与えています。

 これからの活躍にも期待してます。」

「お褒めにあずかり、光栄の至りであります。」

「1つ、あなたに……いえ、あなた方に、謝らなければ……。

 僕にはあなた方の行き先を決める権限がなく、また行き先を変更させるだけの発言力もありません。危険な目に遭わされるのを知っていながら、止めることができません。とても歯がゆく思っていますが、父や兄たちの仕打ちには、王族のプライドがあるのです。」


 このときに、イレーネは初めて、自分が活躍しすぎたこと、人気を集めすぎたことを知りました。

 そうしますと、にわかにバカバカしくなってきました。

 国民を守るために奮戦していたのに、自分たちが君臨するために邪魔だといって排除しようとする。国民を守るのが王族というのが建前ではなかったのか。

 奇しくも、王族への呆れによって原点に立ち戻り、イレーネは自分が進むべき道を見直しました。国民のために戦う。それが原点でした。王族のために戦うのではありませんから、国に仕える必要などなかったと気づいたのです。

 イレーネはすぐに騎士を辞めて、冒険者になりました。王族のバカバカしい嫉妬から逃れて、真に国民を守るために戦おうと思い直したわけでございます。

 これが、ヘルマン追放の3年前でした。






「まさか、こんな形で再会するとは。」


 3年ぶりに会ったヘルマンに、イレーネは跪きました。

 王族の中では唯一、自分が頭を下げてもいいと思える相手でございました。


「頭を上げて下さい。

 今の僕は、王家を追放されて、ただの平民ですから。」

「いいえ、殿下こそが真の(あるじ)、真の王であります。」


 こうしてイレーネは、ヘルマンに従う騎士としてパーティーを組むことになりました。ヘルマンにしてみると、これは水先案内人を得たようなもの。後から思えば、ここが逆転劇の起点になったと言えるでしょう。本日はここまで。続きはまた明日のお楽しみ。


==ヘルマンの歩数==

実績:いくつかの依頼をこなした。数日が経過した。

合計:10万歩

歩行速度:4000km/h

走行速度:2万km/h

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