表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/10

第3王子の追放

 初めての方は、初めまして。どうぞよろしくお願い申し上げます。

 他の作品でお目に掛かった方は、ご存じかと思いますが、私、うさぎレーサーと申します。どうぞ、しばらくの間、お付き合いをお願い申し上げます。

 世の中には、()()()()()()()というのが、数多くいらっしゃるようでございます。何か発明・発見をして名前を残した人、あるいは善行を積んで名前を残した人、あるいは自分で興した国を自分で潰して名前を残した人。……これはちょっと名前の残し方が違いますけれども。

 とある異世界の、とある王国で、第3王子として生まれましたのが、ヘルマン・ブルームという男。両親と兄2人が大変に血気盛んな人物であったために、その反動なのか、このヘルマンという男は、今の日本でもちょっと見かけないような気立ての優しい男でございました。本作はこの男が主人公でございます。

 ブルーム一族はその王国の王家で、この王国というのが、常に魔物の脅威にさらされている国でございますので、両親や兄たちの血気盛んな性格というのは、国を守るためには必要なものでございました。ところが、人間というのは同じ意見の者が集まるとエスカレートする性質がございます。いじめしかり、デモ行進しかり、買い占めしかり。

 この世界の人間は、ある程度の年齢になりますと、スキルに目覚める事がございます。超常効果をもたらす「スキル」は、ちょっとした魔法の才能といってもいいかもしれません。全員が全員スキルに目覚めるわけではございませんが、王侯貴族ともなると高い確率でスキルに目覚めるようでございます。

 父親である国王ジークフリートは「弓術」、長兄のライナルトは「剣術」、次兄のエックハルトは「槍術」というスキルに、それぞれ目覚めておりました。血気盛んな性格も手伝いまして、この3人は兵士を率いて前線におもむき、魔物をばったばったと薙ぎ倒す大活躍でもって、国民からも一定の支持を得ておりました。

 当然、第3王子のヘルマンも、なにがしかの戦闘スキルに目覚めるものと思われておりましたが、実際のところ、このヘルマンに目覚めたのは「歩行」というスキル。1歩ごとに移動速度が1%上昇するというものでした。


「歩くだけ、だと……!? なんという役立たずだ!」

「ふん……とんだ出来損ないね。」

「1%ぉ? はっはっはっ! そんなゴミみたいな数値で何ができる!? あっはっはっ!」

「まったく……度し難いな。」


 父ジークフリートは怒り、母ロザリンドは冷笑し、長兄ライナルトは嘲笑し、次兄エックハルトは嘆くやら呆れるやら。

 この反応に、当の本人ヘルマンは、ぽかーんと家族を見ておりました。


「え……? いや……は?」


 ヘルマンにしてみれば、家族がどうしてそんな反応をするのか、まるで理解できません。

 1歩で1%なら、100歩で100%。2倍になります。今の日本人でさえ、1日に1000歩や2000歩は歩くものでございます。いわんや、中世ヨーロッパ並の文明しかないこの世界では、ほとんどの人が1日に1万歩以上も歩くのですが――誰もそんな事に意識を向けておりません。自分たちが1日に何歩歩くのか、わざわざ数えようという者が居ないわけで、ヘルマンの歩行速度が明日には100倍になっているという事に気づく者はおりませんでした。


「出て行け! お前は勘当だ! もはやブルームの名を名乗ることは許さぬ!」


 父ジークフリートの怒号とともに、ヘルマンはたちまち王城を追い出されてしまいます。

 家名を剥奪されたヘルマンは、これ以降、王族の身分も失い、平民として生きる事になりました。


「これは困ったぞ……。」


 心優しいヘルマン、家族を恨んだり、見返してやろうなどと思ったりは致しませんでした。

 追い出された王城に生活の援助を求めるのは見苦しい。しかし先立つものがなくては生きていけない。この上は盗賊にでもなって、半ば強制的に人様の援助を受けなくては生きていけないのでは……と思い悩みますが、それでも人様に迷惑を掛けてはいけないと思いとどまります。

 考えた末に、ヘルマンは冒険者になる事にしました。魔物を討伐して報酬をもらう冒険者稼業。速く歩けるというだけで戦闘スキルがない自分が、どこまで通用するだろうか? と不安はあったものの、まともな仕事で暮らしていこうと思えば他に選択肢はございません。

 せめてわずかなりとも鍛えていこうと、ヘルマンは1歩の歩幅を5cmほどにしてチョコチョコと小鳥のような足取りで冒険者ギルドへ向かいました。


 このときのヘルマンは、10秒間に20歩ほどで1mを進んでおりました。そのままなら1時間で360mという大変のんびりした移動でございますが、1歩で1%ずつ速くなるスキルがあるために、1時間後のヘルマンはおよそ1km以上も進んでおりました。

 どこかのバトル漫画の主人公とは違って、このヘルマン、ずっと訓練を続けられるほど根性がありません。進んでは休み、思い直してはチョコチョコ歩き……。ずっと続けていれば36kmほど進んでいたかと思います。

 そんなわけで、そこはちょうど冒険者ギルドの正面でございました。


「いらっしゃいませ。」

「お忙しいところをお邪魔します。

 冒険者になりたくて登録しに参りましたので、どうぞよろしくお願いします。」


 受付嬢に用件を告げたヘルマン。

 一瞬、冒険者ギルドの中がしーんと静まりかえったかと思うと、周りの冒険者たちが一斉にどっと笑い出しました。


「がははは! 緊張しすぎだぜ、ルーキー!」

「肩の力を抜きな! そんなガチガチじゃ、ゴブリンにだってやられちまうぜ!」


 どうやら周囲の冒険者たちは、ヘルマンが緊張のあまりバカ丁寧な言葉遣いをしたと思っているようでした。ところがヘルマンにとってみますと、これは普段通り、いつも通りの言葉遣いです。なんで笑われるのかまるで分からず、またしてもぽかーんとしておりました。

 これを、緊張した新人が先輩たちに笑われて恥じていると思ったのか、受付嬢が優しげな顔で慰めるように声を掛けてきました。


「ご丁寧に申し出ていただいて、恐縮です。

 それでは手続きをいたしましょう。まず、こちらの書類に――」


 と、そこから先は受付嬢の指示に従って手続きを進めていきました。

 こうしてヘルマンは冒険者になり、どうにか日銭を稼ぐ算段がついたのでした。

 さて、これからいよいよ心優しい第3王子の逆転劇が幕を開けてまいりますが、本日はここまで。続きはまた明日のお楽しみ。


 ==ヘルマンの歩数==

 本日:2万歩(歩幅5cmで1km歩いた)

 合計:2万歩

 歩行速度:800km/h

 走行速度:4000km/h

計算が合わない事に気づいたので、ちょっと修正しました。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ