序(柒)
「今日お話ししたい注意事項というのはですね、おっとその前にあなたは伝承などのことはどのくらい信じているのでしょうか?」
伝承、正直自分はあまり信じてはいない、それはそういうものに出会ったことが全くと言っていいほどないからである、ただ言い伝え的なことはよく形式的に行っているかもしれない、それはうちの家系が代々この土地に住んでいるということが大きく関係しているのかもしれないと、先ほどネットサーフィンをして考えていたことだった、それというのもこの土地に伝わっている伝承というものの多くが、うちに伝わっている言い伝えによって予防策がとれるものだったことに起因している
これはただの偶然ではないだろう、すべてを説明するのは骨が折れるので、先生にはかいつまんで要点を伝えた、まず自分自身はあまり信じていないこと、理由としてはそうしたことに遭遇したことがないからということ、ただ家に代々伝わっている言い伝え、簡易的な儀式のようなこと、まあこれは転ばないように靴に唾をかけるとかそんなレベルのおまじないのようなものだがそういうもので対策できるものの多くが、この土地の伝承であるということを先生に伝えた
「なかなか興味深い話が多かったですね、つまりそういう現象などに遭遇したことがないのは対策も十分にできていたということ、そして、君自身伝承の話はよく聞かされていたわけですね、だから首を突っ込むこともなかったと」
「家族や親せきからされる伝承のお話は子供心には大きな恐怖心を植え付けられたものですから、怖くてなにかの機会で肝試しをしようよとか誘われたりしても参加することはなかったですね、ただ今はそういった現象に全く出会うことがなかったことで、あまり恐怖を感じなくなってしまいましたが」
ここまで説明すると、先生は少し考え込むような様子を見せた
「あまり信じてもらえる自信はないのですが、ここに初めて訪れた時、私は怪異に出会っています、それが私をこうしてここに戻ってこさせる要因になっているのですが、聞きたいですか?」
「聞いてみたいです」
純粋に興味がわいた、自分の知らない世界というのだろうか、まったくそういう経験がないものからしたらそういう経験というのは聞いてみたいものだ
「少し話がそれてしまって申し訳ないですが、話しましょうか」
あれは私が高校生の時、12年前のこと、友達の家がこの近くにありまして、今は引っ越しをしてしまってここら辺には住んでいないのですが、当時は一番仲のいい子でしてね、お泊りの約束をして私はこっちに来ていました
相馬君と先ほど待ち合わせをした駅前の広場、あそこで待ち合わせをしたのですが、ちょうど黄昏時でしてね、なにか不気味な雰囲気が漂っていたのです、生まれながらこの土地に住んでいる相馬君にはわかりにくいかもしれませんが未だに不気味ですよここの黄昏時は、そんな不気味な時間です、少し怖さも感じながら私は友達のことを待っていました、友達はすでに近くにいたらしく割とすぐに合流でき、私と友達は他愛もない話をしながら住宅街を歩いていました、すると友達が急に止まってしまい、私の言葉にも反応を示さなくなってしまいました、いや、そうではなく、時が止まっているかのような感じでした、まるで私だけが動いているような、そうすると少し離れた場所からなにやら聞こえてきたのです、パレードのような音楽でした、私は足音を立てないよう近づいていきましたが遠くからでもその異常さに気が付きました、明らかに人の姿でないもの、人の形のようなでもそうではないもの、たくさん通っていったように見えました、おそらくその中の一つと目があった気がしたのです
次に気づいたときには私はまだ友達と合流する前でした、そのあと全く先ほどと同じように友達と合流しまして、そのまま何事もなく友達の家で遊びました
ただ今でも忘れることができないのです、あの時目が合った明らかにこの世には存在しないであろう怪物のあのぎょろぎょろとした目が
「まあざっとこんなところでしょうか」
先生はそう言って話を切った、嘘とは思えないような、そんな凄みのある話だった