序(肆)
まだまだ太陽が出ていても少し寒さを感じる四月末日金曜日、僕は民俗学研究部(仮)に入部(予定)することになった、部員(仮)の一人である飯豊茉莉先輩とどうやら家が近いらしく一緒に帰ろうと声をかけてくれた
「そうか、あの枝垂桜のところではじめて話したと、なかなかロマンチックな出会い方をしているじゃないか、あの桜も結構いろいろな伝承があるらしくてうちでも調べていたんだ、まあどうしても春休み中だから調査にいけなくて断念したんだけどね」
ぱっとみた感じの印象と違って飯豊先輩はよく話す人だった、部室にいたときは言葉少なに文字を打ち込んでいたが、そのときに掛けていたメガネも今は外しているしよくみてみると小さくてかわいらしい先輩という感じだった、ただ、部室にいたときに少し見せてもらったが活動報告書には難しい言葉が頻発していて、どうやら報告書の担当は飯豊先輩だとのことだったのできっと膨大な知識がその頭の中につまったいるんだろうなという印象を受けた。
「あの枝垂桜の伝承はいいものから悪いものまでたくさん取り揃えております、ってくらい家族親戚から聞いたものから友達に聞いたものまでいろいろ聞きましたね、そういえば先輩は何でこの部活に?」
気になっていることを聞いてみた、正直古くから住んでいて幼いころからたくさんそういう話を聞いてきた僕や、少し話してみて厨二病っぽかった部長(仮)、その部長に連れてこられた山上先輩はわかるが正直頭もいいし、雰囲気で判断して申し訳ないがそんなのありえませんと言いそうなタイプに見えるのだ
「それ日立木君にも聞かれたな、相馬君、科学ですべて証明されつくした世界なんて果たして面白いんだろうか、私はいろいろと知っていけば知っていくほどそんなもので証明できないことのほうが魅力的に感じたんだ面白いと、だから不思議を肌で感じたいんだ、調べたってわからないこと、知ったって理解できないことそういうものを感じれば感じるほど、この世界を好きになれる気がして」
失礼だがそう語る飯豊先輩の顔を見て僕はぞっとしてしまった、何か諦観しているような、「知る」というワードに取りつかれているんじゃなかろうかという狂気的なものを感じ取ってしまったのだ、きっとこの人は正常ではない、そう確信させられた、ただぞっとしたのは一瞬、そこに他意は感じられなかった、純粋な知識欲、それをこじらせ続けた結果のように思えた、だからこそ怖いのだけれど悪意は無い、多分
「だから不思議を求めていた日立木君とは馬が合ったんだ面白いようにピースがはまった感じだったよ、正直受験勉強なんてもう終わらせているからどうしようかと悩んでいたところだったんだ、よし、あとは好きなことをするんだって感じでね、どうだい、少し長くなってしまったけどこんな感じかな理由としては」
「なるほど、てっきり日立木先輩のことが恋愛的な意味で好きだからとかそういうものかと」
「アハハ、そうかなるほど、最近クラスでやたら茶化されるんだ、日立木とはどうなんだってね、そうか恋愛か、日立木がもう少し大人だったらそういうこともありえたかもしれないが申し訳ないけど私も彼もそこまで大人ではないからな、考えたことも無かったな、二人とももう少し大人になるまで一緒にいるのならばそうなるかもな」
少し意地悪な感じで返したつもりだったがあっけらかんと返されてしまった、付き合いはそんなに長くなくても信頼関係はしっかりしているんだなと改めて感じ、このメンバーの一員となれることを僕は誇りに思うことができそうだと日立木さんに言おうと決意し家路に着いた