序(参)
あまり人が多くない校内を歩いて図書室へと向かう、うちの学校の図書室はほかの学校と比べても非常に大きいのではないかと思われる、通常教室10個分ほどある図書館は自習室としての役割も果たしており、家に帰る前に宿題を終わらせてしまおうという生徒が散見されるが、一目見てこの人ではなかろうかという人が書架の近くの机に陣取っている、妹と同じで整った顔をしているが机の上にたくさんの本を積み上げ、ノートパソコンをたたいている、軽く手でそちらの方向を指し示し、あの人かいといったニュアンスで日立木さんの方を見るとあきれたように首を縦にふった、どうやら間違いないようだ
「桜生、新入部員連れてきたよ」
日立木さんがそう呼びかけると顔を上げ桜生と呼ばれた日立木さんのお兄さんがこちらを見上げた、少し固まった後こちらに微笑みかけた
「君が相馬君かい、少し待ってくれ今終わるところなんだ」
わかりました、とあまり来ることがない図書室に気圧され小さくなってしまった声で返事をした
本当に少し待った後、ここだと話しにくいからとのことで便宜上割り当てられた顧問を持っていない社会科の先生が使っている準備室に三人で向かった、するとそこには社会科の先生、どうやら宿題に苦戦していそうな一人の男子ともうひとり先ほどの日立木さんのお兄さんと同じように本が積み上がっている中でパソコンをたたいている女性の姿があった
「何回来てもなんか職員室っぽくてなれないんだよね」
日立木さんがそうつぶやく、確かに教員用のデスクが中央に四つPCつきで並んでいて通常教室の三分の二くらいの狭さの準備室の周りには授業で使いそうな備品が所狭しと並べられていた
「いらっしゃい、ここが民俗学研究部の部室になる予定の社会科準備室だ、相馬君どうぞ座ってくれ」
日立木さんのお兄さんがデスク端に二つイスを出してくれた、これで全員座れるようになったので日立木さんと二人でそこに腰を下ろした
「よしいったん全員手を止めて、まずはみんなの紹介をしよう、私が現・同好会会長というか立案者の日立木桜生だ、そしてこちらの男子が暇そうにしていたので拾ってきた山上菊真、元々スポーツマンだから力仕事担当、奥で資料を製作していたのが飯豊茉莉、めっちゃ頭いいからうちの頭脳担当、そしてこの白衣を着ているお姉さんは社会科の磯部先生、顧問の予定、そして君の隣が僕の妹の美桜今のところこのメンバーでやっていく予定だ」
そしてと言葉を切り、僕へ自己紹介を促す
「相馬勝篤といいます、2年生で日立木さんとは同じクラスですよろしくお願いします」
それぞれがよろしくと声をかけてくれる、クラスメイト以外との会話を学校でするというのが久しぶりで緊張してしまう、みた感じ悪い人はいなさそうで安心した、まさかすでに先生まで巻き込んでいるとは思わなかったが意外とちゃんと考えて行動しているのかもしれない、民俗学研究部と名乗る予定ならば社会科の教師を巻き込むというやり方は理にかなっているように思う
「よしこれで部員数はクリアであと、今週末に予定している近くにある廃墟の洋館に行って部活の活動実績として日誌にまとめて申請すれば晴れて部活動として認められるはずですよね」
「そうだね、活動開始から半年以上たっているしその分の報告書もある、明確な活動としてこのあたりの不思議な場所の捜査ということにすれば部活動として正式に動くことができるんじゃないかな」
「先生協力していただいてありがとうございます、相馬君、今から活動について説明するね、平日大体こうやって集まるのは二~三回、まずはこの周辺の伝承や、何か怪異に関するスポットを出しあってどこに行くのか会議を行う、次に決定したスポットについてそれぞれのやり方で調べる、大体二~三週間くらい調べて、実際に行く日程が週末になるからその前の金曜日は今日みたいにそれぞれが調べた情報を持ち寄ってみんなで共有、こうして週末実際に現地に行ってみてその結果を報告書にまとめて提出、これが一連の流れになるよ、とりあえず今週末近くにある洋館に行くんだけどもし用事が無いようだったら一緒に行ってみないかい?」
特に予定など見当たらなかった僕は二つ返事で行くといってしまった、みんな三年生だったから、同級生が来てくれてうれしいと言っていた日立木さんの顔が見れたのでよしとするところだろうが、ここから僕たち民俗学研究部の活動は始まっていく、それが長い戦いの日々に続いていくなどとはいい予感しかしていない僕にとって思いもよらないことであったのだ