序(弐)
桜がすべて散ってしまった頃合、僕があの時感じたいい予感というやつがぜんぜんあたっていなかったなと考えるようになったころ、今年は同じクラスになった日立木さんが掃除のために机を後ろに下げている僕に話しかけてきた
「相馬君、今日はこの後暇だったりしない?」
今日、これは運がいい掃除さえしてしまえば特には何もなかったはずだ
「今日は特に予定はないよ、面倒くさい用事でない限りは、うん、たぶん大丈夫」
珍しく目を輝かせながら話しかけてきた日立木さんの勢いに押されてしまった、あの桜のとき以来挨拶くらいはするようになったがあまり話してはいなかったので周りの不審な目も突き刺さってくる
「よかった、今日掃除当番だったよね?手伝うから早く終わらせちゃお」
いったいどういう風の吹き回しなのだろうかといぶかしんでいたが、普通に用事があるだけのようで結構しっかり手伝ってもらってしまった、手際もよかったので今日の掃除当番のメンバーは感謝していたことだろう、クラスメイトたちに特に男子に、生暖かい目で見られながら僕は日立木さんと一緒にゴミ袋をまとめて焼却場に向かった
「そういえばどんな用事か聞いていなかったけど、いきなり話しかけてくるなんてどうしたの?」
「前に桜のところでお話したでしょ。あの時、都市伝説というか、現代にも怪異が存在するのかみたいな話で盛り上がったじゃない?ああいうの興味あるのかなって思ってさ」
「あー確かに、なんかこの近くで不思議なことでも起きたの?」
「うちの学校に怪異とかを調べている同好会が存在しているんだけど、実は私の兄が中心になってやっているんだけどあと二人部員がいれば部活として申請できるから入ってくれないかって頼まれていて、とりあえず私は入るとして、あと一人でしょ、クラスにいてわかると思うけど私友達とかいないから相馬君にお願いできないかなって」
そういえばクラスにいてあまり話しているところを見たことがない、というか日立木さんがあまり話しかけるなという感じを出している気がするのだけれど
「今のところ帰宅部だし、それはぜひとも協力したいんだけど怪異を調べてるって具体的には何をするの?聞き込み調査的な?」
「うーん、なんか私が見た感じだと肝試ししてるのかな、みたいに見えたけど私たちが住んでいるここらへんは結構言い伝えみたいなことが多いらしくて情報を頭に入れながらその場所に行って、本当かどうかを検証しているみたいね、当たり前だけどはずれが多いみたい」
「そういうのは本当でも困るものが多いもんね」
「そうそう、だから平日は調べ物、週末は現地に行くってことらしいよ。そういうわけで今日も図書館で調べ物しているみたいだから行ってみない?」
正直僕としては非常に興味をそそられる話だ、去年部活はやめているから親にも何かやらないのかと心配されてしまっているところだった、まだ正式な部活ではないというのも少人数だし居心地が悪くなさそうでいいところだと思う、ゴミ袋をまとめて焼却場に放り込みながら僕はあのときのいい予感がやっとおとずれたんじゃないかとわくわくしていた
「そうだね、即答はできないけど一度話してみたいな、よし、いったん教室に戻ってから一緒に図書館に向かおうか」
「オーケー、うちの兄ちょっと変わり者だけどひかないでね」
「そんな部活を立ち上げようとしてるくらいだもんね、僕の許容範囲を超えないことを願っているよ」
わざとらしく首を振って見せると日立木さんが笑ってくれた、教室ではお堅い感じの彼女は笑顔を見せることも少ないので、その笑顔に少しドキッとしてしまった、よく男って単純だよなという台詞があるが本当にその通りだと自覚した、その後談笑しながら教室に帰ると教室はすっかり誰もいなくなっていた、うちの学校は運動部が非常に盛んなので放課後の教室はどこもこんな感じである、部活に所属していない生徒も少ないのでテスト前でない限り教室に残っている生徒は多くない、別で部室棟があるのでそこはいつも人であふれているのだが
「よし、それじゃあ図書室に向かおうか」